世界を救ったのに追放されたので、となりの国で魔術学校の先生になりました

塩分不足

1.英雄は亡くなりました

 ルグドニア王国。

 世界最大の国土、人口を有する大国家である。

 その首都ルネスタで、国中をあげた大きな葬儀が執り行われていた。

 王城の一角にある教会に、国王や国の重鎮達、友好国の来賓が集結している。

 たくさんの花が飾られた先に、亡くなった二人の名前が刻まれている。


 『大魔術師クロト』


 『精霊使いユノ』

 

 壇上にたった神父が、集まった者達に向かって言う。


「二人の英雄に祈りを――」


 全員が目を瞑り祈りを捧げる。

 この黙祷は、ルグドニアに住む全ての国民が行っていた。

 皆、悲しみに抱かれるように目を瞑り、涙を流す姿も見受けられる。

 切なくも穏やかな時間が過ぎていく。

 しかし、ほんの数週間前まで、世界は恐怖で満ちていた。



 一年半ほど前。

 【魔神】と呼ばれる存在が、大陸の外れにある小さな国に現れた。

 魔神はあっという間にその国を滅ぼし、どこかへ消えて行った。

 その次の日、また別の国に魔神は現れた。

 そして同じように滅ぼし、再びどこかへ消えた。


 このような出来事が連日続き、ついに一ヵ月後。

 世界にあった国の約半数が、魔神によって滅ぼされてしまった。


 世界中に衝撃が走る。


 魔神がいつ、どこで、どうやって誕生したのかはわかっていない。

 ただ一つ言えるのは、このままでは世界が崩壊する可能性があるということ。

 それから各国で協力し、魔神を討伐する大部隊が編成された。

 総勢十万人の兵士。中には名のある冒険者や、天才と呼ばれた魔術師もいた。

 これなら魔神を討伐できる。

 誰もがそう思っていた。


 十万の部隊は、たった三日で全滅してしまった。


 このとき世界に走ったのは、衝撃ではなく絶望だった。

 魔神の強さは異常だったのだ。

 

 もうお終いだ……

 きっとこのまま死ぬんだ……

 あんな化物に勝てるわけないだろ。


 人々から諦めの声が上がる中、遂にルグドニアにも魔神が現れた。

 死を覚悟した国民達。

 そんな国民達を救ったのが、偶然居合わせた二人の若者だった。

 彼らは魔神と互角に戦い、国の外へ追い出したのだ。

 

 国中で歓喜が上がった。


 その日をきっかけに、二人の若者は魔神を討伐する旅を始めた。

 王国の支援を得て、各地に残った魔神の痕跡を辿って行く。

 そして探索開始から約一年後、二人は魔神を討伐した。


 詳しい状況は二人しか知らないが、激しい戦いが繰り広げられたのだろう。

 それから数週間後、一人だけが王国に戻った。

 どうやら先の戦いで、英雄の片割れは命をおとしてしまったらしい。

 そして帰還したもう一人も重傷を負い、次の日の朝を迎えることは無かった。


「彼らによってこの国は、世界は救われた! 彼らこそ、この世でもっとも偉大な英雄だ!!」


 国王が世界中に向けてメッセージを送った。

 このメッセージを耳にした者達は、魔神討伐に喜ぶ反面、失われた英雄の命に涙を流した。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ルグドニア王国の西の山奥に、罪人を埋葬する墓地がある。

 大量の墓標が不規則に建ち並び、枯れた木が不気味に横たわっている。

 腐ったような匂いが漂い、地面からは瘴気が漏れ出ていた。

 ここには、大罪を犯して処刑された者達の遺体が眠っている。

 

 ボコッ――


 突然地面から音が聞えた。

 瘴気が漏れ出ている地面の一部が、音を立てて盛り上がっている。

 そして、地面が盛り上がった部分から、なんと人の腕がつき上がってきた。

 腕は地面を掴み、続けて肩と頭が現れる。


「ぷっはー! やっと出れたぁ~」


 ここには遺体が埋められていた。

 しかし地面から現れたのは、五体満足の生きた人間だった。

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