第13話 ベズネラの街とダンジョンと
「それでは王女様、お世話になりました。」
「では私の国で待ってます。お礼もしたいので必ずお越しください。」
翌朝、王女を乗せた馬車は朝靄の中を南に向けて走り去った。昴と莉々奈は見送りを済ませ宿へと戻る為に歩き始めた。
「ねぇ、昨日聞けなかったけどスキル取れたの?」
昨晩は、歩き続けた上に盗賊の振りをした奴らとの戦いで宿について直ぐに眠ってしまい話す機会がなかった。
「取れたよ、二つ。『躱術Lv.4』『剣術Lv.3』だ。あの盗賊の振りをしていた男、名前はジョルジュって言うんだけど、彼は躱術のレベルが4あったから余裕で避けれたんだよ。しかも、剣術のレベルが俺より一つ上。一つ違うとかなり違うようだ。彼は攻撃できたけど敢えて攻撃しなかったんだぞ。」
「そうだよね。何か余裕あったもん。」
昴は宿に着くとそこの主人にダンジョンについて訊いてみることにした。
「ダンジョン?ここから東へ少し行った所にあるぞ。ただな、冒険者ギルドに加入しないと入れないぞ。」
「冒険者ギルドは近くにありますか?」
「直ぐそこにあるぞ。加入は無料だ。ダンジョンで出た物は三割はギルドが徴収する。税金と使用料だな。」
「なるほど。でも、転移魔法で外に出たらどうなるんです。三割が徴収できないですよ。」
「大丈夫、転移魔法を使えるやつはそもそも国が雇っているから税金免除だ。はっはっはっは。」
豪放磊落な店主だった。
二人は宿を出て教えられた通りに冒険者ギルドへ向かう。
昨日は既に暗くなっていて街並みが分からなかったがかなり大きな街だ。街の周りを石で出来た高さが2,3メートルありそうな城壁が囲んでいて街の大きさを窺い知ることが出来る。
ほんの一ブロック行った所に冒険者ギルドはあった。
二階建ての石造りだ。
どうやらこの辺りは木よりも石の方が良く取れるのかも知れない。
何故か莉々菜がウキウキしている。
「どうした、莉々菜。何ウキウキしてるんだ?」
「だって、冒険者ギルドよ。中に入るとね、荒くれのヒャッハーなモヒカンが私達にいちゃもんつけてくるのよ。それを私達が軽く捻るのっ!そしたらね、周りから、『何だ、あいつ等は?す、凄い。つ、つえーぞ〰。なんて強いんだ。』って周囲から称賛を浴びるの。」
「本当か?誰がそのヒャッハーを軽く捻るんだ?俺はまだまだ弱いぞ。剣ならスキルで少し出来るようになったけど、体術は全く無いよ。逆に軽く捻られるぞ。大人しくしろ。反抗するなよ。」
「わかったわよ。情けないわね。」
「お互い様だな。」
二人はギルドの建物の中へ入る。莉々菜はワクワクしながら、昴はドキドキしながら。
中を見回すとごっつい男達が屯している。流石にモヒカンはいないが世紀末には繁殖しそうな人達だ。
「おっとー、お坊ちゃまとお嬢ちゃまが登録かぁー?大丈夫かぁー?そんな貧弱だと直ぐ死ぬぞぉ―。」
大男が謂れのない文句を言い始める。
日本語で言えばクレーマーだ。
英語で言えばコンプレイナーだ。
貧弱と言われたが昴の身長は一八〇センチはある。ただ、そいつがでかすぎるだけだ。
二人は取り敢えず無視する。
「何無視してんだよ。生意気なやつだ!俺が可愛がってやるぞ。」
莉々菜がウズウズしている。今にも反論しそうだ。
「あんたねぇー、誰が誰を可愛がるの?あんたなんか指先一つでダウンさせるわよ。彼が・・・」
「俺かよっ!!!丸投げするなっ!!すいません。こいつバカなんです。勘弁してください。」
「ちょっと、あんた何日和ってんの?こんなやつ指先一つでダウンさせなさいよ。」
「俺は一子相伝の伝承者じゃないぞ。」
「だよね〰!使えな〰い。」
「煩い!」
「おっ、お前ら完全に俺のこと舐めてるな。」
大男が殴りかかってきた。
「すいませ~ん、受付の人ぉ〰。これって戦っても正当防衛ですよね?」
「そうですね。正当防衛ですが怪我しても知りませんよ?」
ここで昴が防衛行為に及んでも問題はなさそうだ。
昴は剣を抜く。目にも留まらぬ速さで。
周囲が気が付いた時には剣は鞘に収められていた。
「(凄いな。さすが剣術Lv.3だ。)」
大男は意識をなくし倒れ伏した。
それを見ていた男達の野次が止まる。
「な、何が起こったんだ?し、死んだのか?」
「い、いや分からなかった。どうなったんだ?死んでないだろうな?」
野次馬が騒ぎ始めた。
「峰打ちだ。未だ生きてるぞ。」
「峰打ちなの?」
「いつか言いたかったんだ。後、『また、つまらぬものを切ってしまった』も言いたいな。」
「アニヲタか!」
「お前は異世界ヲタじゃないか。俺を巻き込むな。」
「あの〰、もう宜しいでしょうか?」
受付の人が急かす。
「あ、はい。今日は登録に来ました。」
昴と莉々菜は第二王女からもらった身分証を出して登録することにした。コロビア村でもらった登録証はいずれ王女が偽の身分証を使っていると気づくだろう、その時に、その身分証による登録は削除されるかも知れない。だから、王女からもらった身分証にすることにした。ネットも電話もない世界ではすぐに居所が露見する恐れもないし、露見してもその時にはそこにはいないだろう。いずれ家を持つかも知れない、しかし、その時には転移魔法を覚えて自宅とは別の場所のギルドの依頼を受けることも出来るかも知れない。
「はい、これで登録完了です。こちらがギルドカードです。最初はアイアンランクからです。あなた方は今日からアイアンランクの冒険者になります。わからないことがあれば聞いてください。今日は依頼をお受けになりますか?」
「今日はダンジョンへ行こうと思っているのですが。」
「受付はダンジョンでギルドカードを提出してください。カードは胸から下げたほうが良いですよ。」
「カードはランクに応じた金属で出来てるんですか?」
「はい。ランクが上がれば変わりますよ。」
「一番上がゴールド?」
「いえ、アダマンタイト、オリハルコン、ミスリル、プラチナ、ゴールド、シルバー、カッパー、アイアン、ブロンズです。何もしなかったり、失敗続きだとブロンズに落ちますよ。」
「じゃあ、一番上に行けばアダマンタイトのカードがもらえるんですか?」
「いいえ、貰えません。購入していただきます。上に行けばそれくらいの財産は出来ますよ。余裕で。」
「それじゃあ、私が胸からアダマンタイトのギルドカードを下げてここに来たら『お〰〰、あいつ、あんな可愛い顔してアダマンタイトランクだぜ。凄いな。あいつあの白い流星だぜ!!麗しい!美人だ!ナイスバディーだ!』とか言われちゃうの?」
「い、いや、麗しいも美人だもナイスバディーだとも言われないと思うぞ。」
「あなた失礼ね。私Fカップよ!ウエストも細いし、お尻はデカイ。身長高いからバランスもいいし小顔っ!目は大きいしバランスも整ってるっ!鼻も低くはない。虫歯は一本もない!」
「分かったから、もう分かったから、泣くな。泣きながら文句垂れるな。喚くな。みんなみてるぞ、おっぱいを。お前が自慢するから。もう、泣きながら自慢するな。」
「そりゃ泣くわよ。昴が麗しいとも美人だともナイスバディーだとも言われないって言うから。」
「俺じゃなくって彼氏に言ってもらえ。」
「いないわよ、そんなの!」
「だったら好きな男に言ってもらえよ。」
「だからー・・もういい。」
「もういいのか、だったら泣くなよ。さっさとダンジョン行くぞ。」
莉々菜のちょっとした告白を昴は気づきもせず二人はダンジョンへ向かった。
空は晴れ渡り雲ひとつない。日差しが容赦なく降りそそぐ。
しかし、未だ日は高くなく涼しさが残っている。
これから、暑くなりそうだ。
「暑い。帽子が欲しい。でも、私達皮の鎧もないのよ。大丈夫?」
「仕方ないだろ。金、少ししか貰えなかったんだから。ほんとケチだな、あの王女。クソビッチだよ。」
「王女クソビッチに魔王ニセンコー?直ぐ変な渾名を付けるんだから。」
「仕方ないだろ。娯楽の少ない世界なんだから。なぁ、こっちに来た時パーカー着てなかったか?あれ着れば日差しを避けられるぞ。」
「や〰〰よっ。もう買えないんだから。ネットで買えるスキル見つけてよ〰〰。」
「あればな。」
「ねぇ、これがフラグになってそのスキル持ってる人が出てくるはずよ。」
「どんなフラグだよ。しかし遠いぞ。これじゃ着くまでに疲れちゃうぞ。」
「ほんとよねぇ〰。」
二人は歩き続け日が一番高くなる頃ダンジョンに到着した。
ダンジョンの中は涼しく外の暑さが嘘のようだ。
入って直ぐの所にギルドの受付と買取カウンターがある。ここで素材などを買い取ってもらえるようだ。
二人は受付にギルドカードを提出する。
「初めてですね。」
まるで病院の初診のようなことを言っている。なぜ初めてと分かったかは不明だが。
さすが異世界、と言うか万国共通。受付には綺麗どころを揃えてる。お姉さんは金髪碧眼のコーカソイドみたいだ。
受付はギルドカードの簡単な情報をノートに記載している。
「これで、戻ってきたかどうかを確認します。もし、何日も戻られない場合は捜索隊を組織しますので予定日数だけ教えて下さい。」
「日帰りです。今日帰ってきます。」
「予定日数から数日すぎれば検討の上捜索隊を組織しますので。しかし、その格好で大丈夫ですか?鎧もなければ兜もない普通の村人が着るような恰好で。剣だけですよね。」
「はい、でも、お金がないんです。王女様がケチで。」
「王女様が?お知り合いですか?」
「昔少し・・」
「その黒髪と黒い目、も、もしかして勇者様ですか?訓練でこのダンジョンへ?」
「みたいなものです。くれぐれも内緒で。」
「はい、分かりました。だから、お強いから、防具も鎧もないんですね。」
「みたいなものです。くれぐれも内緒で。」
「分かってますよ。(ダンジョンの皆様には)内緒にしておきますよ。」
昴と莉々菜は安心してダンジョンでのレベルアップに向かうのであった。まさか、意思の疎通に齟齬が生じているとは思いもせずに。
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