第五話 第一の仲間

 明は数秒、考え込む素振りを見せてから、溜めに溜めた声を爆発させた。


「……悪いが、その頼みは聞けん。いやむしろ、それどころか、積極的に関わらせてもらう!」


「よ、夜渚くん……!?」


 にわかに発奮し始める明。

 戸惑う望美の手を掴むと、ベンチから身を乗り出した。


「いいか? 君は俺に迷惑をかけたなどと思っているようだが、それは全くの見当違いだ。金谷城かなやぎ、俺は君に感謝している」


「感謝、って……ど、どうして」


「君は知らないかもしれんが、この橿原市では、以前にも同様の事件が発生している。そして、俺はその事件を追っている。ここまで言えば分かるだろう」


「……あ」


 揺れ動いていた瞳に、理解の光が宿る。


「そう。つまり俺たちは共同戦線を張ることができるというわけだ。そちらにとっても悪い話ではないだろう」


「……でも、危ないよ? 私たちの相手は、普通の人じゃないんだから」


 望美が問う。

 見定めるような視線。それに不快さを感じないのは、彼女の誠実さゆえか。


「俺とて非力な現代っ子ではない。それは、あの時に証明できているはずだ。そもそも"私たち"と言った時点で君の意思は固まっているようなものだと思うが」


「夜渚くん、揚げ足取りが上手い」


「失礼な。細やかな変化を感じ取れる繊細さを持ち合わせているだけだ」


 早口で言い切り、赤い顔で息継ぎを済ます。

 次の吐息に込めるのは、とどめの口説き文句。


「大体、このシチュエーションで無関心を決め込む男などいるはずがない。健全な男子高校生たるもの、目先の安全よりも女子の好感度アップに執心すべきなのだからな」


「それ、女の子の前でバラしたら意味が無いと思う」


「時にはあけっぴろげになった方が好感触だとハウツー本に書いてあった。……それで、成果のほどは?」


 そうたずねると、望美は控えめな笑顔を見せた。


「……さっきのイエローカードは、取り下げてもいい」


 彼女の握っていた学生バッジが蝶のように舞い踊り、明の前で静止する。

 バッジを掴み取ると、小気味よい音が鳴った。


「決まりだな。金谷城、これからよろしく頼む」


「望美でいい。こちらこそ、よろしく」


 同志の誓い代わりに、握り拳を突き出す明。

 望美は少し躊躇ちゅうちょした後、おずおずと拳をぶつけてきた。


「よし。ではさっそく行動開始だ」


「それはいいけど……どこに行くの?」


「捜査の基本は現場百遍。つい数時間前に君が襲われた場所……耳成山みみなしやまに決まっている」


 妹の……鳴衣めいの件も含め、あの山では二件の犯行が行なわれている。

 七年間の空白を差し引いても、あの場所が犯人たちにとって何かしらの意味を持つ可能性は高い。

 というか、端的に言って、クサい。いわば直感のようなものだった。

 非論理的だが、明はその勘を信じることにした。


「もたもたしていると、あの白服怪人がまた出てくるかもしれん。こういう時は動くに限る」


 ただ待つだけでは何も解決しない。実り豊かなオアシスに辿り着けるのは、不毛の砂漠を歩き続けた者だけだ。


「さあ、童心に帰って山中探検と洒落込もうじゃないか。怪人のアジトなり足跡なりを見つけて、闇組織の秘めたる陰謀を暴いてやろう」


「闇組織要素は外せないんだ……」


「男のロマンだ、許せ」


 不敵に口の端を歪めると、ベンチから腰を上げた。望美もそれに続く。

 ……と、そこまで来て、明は気が付いた。

 背後。枝葉が四角く整えられた灌木かんぼくがある。

 その向こうから、長身の男が頭を突き出していた。


「そう……ロマン。転校生、君は実に"分かってる"人だね。──この俺、木津池きずち秀夫ひでおと同じ位階レヴェルに達していると見た!」

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