大切な宝物が言葉になった作品

一つ歳をとったとき、一つ何かを知ったとき、私達は成長して、何かを落としてしまう。そんなモノを優しく丁寧に思い出させてくれる作品でした。

穏やかな空気を柔らかな文章が綴られて、きっとこの一人と一匹はこんなふうに儚くて美しい時間を過ごしてきたんだろうな、だんだん仲良くなっていったんだろうなとお話の外まで想像させてくれました。それもあって、ラストシーンが胸に響いて仕方なかったです。
物語として短編でこんなにも綺麗にまとまるものなのかと絶句しました。全部が綺麗。

持っていたはずの大切な物。握っていたはずなのにいつの間にか手放してしまっていること、手放さずにはいられないこと。大人になるということを酷く美しく透明に書かれていて、読者を揺する力が強い。いろんな歳の人にいろいろな受け取り方で読んでほしい作品だと思います。