第62話 精霊神の狙い
「勇者ワタル様。そしてハイエルフの大英雄カレナリエル様」
「ん? なんだよ突……まあそうなるよな」
「王!? 」
エルサリオン王の声に後ろを振り返ると、王を始めクーサリオン公爵、獣王ラルフ、アッサム大統領、バラム議長が跪きこうべを垂れていた。
その姿を見て隣でフィロテスが立場的にそうしないとまずいと思ったのか、王たちと一緒に膝をつこうとしていたがそれを俺は止めた。そしてトワと一緒に壁際に行くように言い、俺とカレンは王たちに向き合った。
「……俺としては1年前の出来事だから複雑な気持ちだけど、どうやらアガルタの住民はアルガルータの末裔だったみたいだな」
「我らの祖先をお救いくださった勇者様とは知らず、これまでの数々のご無礼。どうかお許しください」
「あ〜そういうのはいい。別に勇者やってた頃も崇められてたわけじゃない。みんな民を守るために必死に戦った仲間で、そこに上下はなかった。だからその子孫である王様たちも顔を上げてくれ」
アルガルータでも跪かれたことないのに居心地が悪過ぎる。
「し、しかし精霊神様によりこの時代に勇者様が現れたこと。そしてこの精霊神殿に導びかれたことを考えますれば……」
「やっぱりそうだよなぁ……」
俺はエルサリオン王の言葉に肩が一気に重くなった。
俺たちがいたあの精霊神の記憶のような世界では、精霊神は時間稼ぎという役目を終えた俺を元の世界の時間軸に戻した。多少ズレがあり爺ちゃんと再会はできなかったけど、それは今言っても仕方ないだろう。
しかしそのあと精霊神が創造した、恐らく宇宙から切り離された別次元にあるアガルタの新世界が地球と繋がってしまった。さらには1万5千年の時を遡ってしまった。
地球の地下にあるようにみえて、実はアガルタは地下ではなく別次元の異世界だった。精霊神はこの繋がってしまった次元の穴をどうすることもできず、そのままにしておくしかなかった。
そしてその地球もインセクトイド、ダグルにより侵略を度々受けた。しかしそれは地上の人間とアガルタの住民でこれまでなんとか対処できていた。フィロテスから聞いた話では、それほど高レベルのダグルはこれまでやってこなかったみたいだしな。古代の地球人なんて全世界合わせても1億とか2億くらいしかいなかったし、ダグルからしてみればそれほどおいしい狩場ではなかったんだろう。
しかし地球の人口はここ数百年で爆発的に増えた。それによりダグルも数を増し、より強力な個体が火星に集まっていった。
精霊神はレベル3や4程度のダグルに月で苦戦するアガルタの住民を見て不安になったのだろう。そんな時に俺が地球に戻ってきた。そしてアガルタの民と接触しエルサリオンへとやってきた。
精霊神は俺が聖地のことを知るのは時間の問題だと思って待ってたんだろうな。案の定現れた俺を神殿へと誘導し、王たちにアガルタ誕生の歴史を見せた。
つまり精霊神がこの映像を俺に見せたのは、もう一度エルフたちを救ってくれということなんだろう。
確かにあの赤いクワガタやサソリは強そうだった。それより少し弱そうな黒いクワガタもいたけど、アレでさえ今のアガルタの住民じゃ勝てないだろう。
正直救えなかったと思っていたアルガルータの民を救えていたことは嬉しい。リーゼリットが寿命を全うしたことを知れたのも、生き残った者たちが何千倍にもその数を増やし繁栄したのもだ。
戦ってよかった。レオニールたちの死は無駄じゃなかった。あの戦いで命を落とした者たちが報われたことを知れて嬉しくないはずがない。
友人の、戦友の子孫を守るのも勇者であり生き残った俺の責務なんだろう。
だがしかしだ。今のエルサリオンを見てハイそうですかと、再び勇者として戦いましょうなんて気にはならない。リーゼリットの子孫たちに滅んで欲しくはない。だけどリーゼリットがその身を捧げてまで俺の遺言を実行し、満足して死んでいったことを無駄にしたエルフたちを許す気にはなれない。
何よりも差別を受けながらも、その差別をした者たちを守るために命を懸けて戦ったカレンをいなかったことにしたコイツらを許すことはできない。
「お前らが崇める聖母は俺の友人だった。その友人がエルフとダークエルフのためにハイエルフを産んだ。しかしお前らはそれを無かったことにした。俺の友人の意思を無視したわけだ。そのうえ命を懸けて戦ったカレンをいなかったことにした。名前すらも残さなかった」
「……はい。我らエルフの最大の過ちでございます」
「過去の王がしたこととはいえ、歴史は修正しなければならない。それまで俺は日本以外守る気はない。民に伝えろ。勇者はお前たちを助けなければよかったと思っていると」
「「「「!? …………はい 」」」」
王たちは俺の言葉に悲痛な表情を浮かべ、再度こうべを深く垂れそう返事をした。
自分たちの祖先を救った勇者に、救わなければよかったなどと言われたのが堪えたんだろうな。俺も残念だよ。
あまり頭の良くない獣人や、集落単位で生活する巨人族は記録なんて残してなかっただろうし、食糧などの生産力の無いドワーフはエルフからの政治的な圧力で歴史を改竄せざるを得なかったんだろう。
1万5千年だ。そりゃ歴史なんて変わるよな。でも今のアガルタのために、また命を懸けて戦おうなんて気にはならないんだよな。
精霊神よ、悪いな。俺はエルフの未来のためにリーゼリットがしたことを無視した奴らと、カレンをいなかったことにした奴らを助けることに価値を見出せねえんだ。
俺はこうべを垂れる王たちをそのままに、カレンとフィロテスらを連れてそっと神殿から出た。
神殿から出ると背後に気配を感じ振り返ってみると、神殿の入口には青草色のチュニックを見にまとったエルフが立っていた。その姿は精霊神そっくりで、俺たちに向けて笑みを浮かべていた。
大丈夫ってことかな? プライドの高いエルフたちが、おとぎ話扱いされている勇者の存在と真の歴史を受け入れるとは思えないんだけどな。
まああのエルサリオン王はまともそうだし、お手並み拝見というところかな。
「ワタル……リーゼリットの子孫……助けないの? 」
「勇者というよりもあの戦いで生き残った者として、死んだ奴らの家族。というかもう遥か子孫だけど、助けてやりたいという気持ちはある。けど、今のエルサリオンを見るとな。命を懸けて助けようなんて気にはならねえよな」
「ワタルさんの言うとおりだと思います。命を懸けて戦ったカレンさんをいなかったことにしただなんて……エルサリオンの民として恥ずかしいばかりです」
「私は別にいい……アルガルータのために戦ってない……ワタルとリーゼリットのために戦ってた……だからどうでもいい」
「カレン……」
別に俺も後世の人間に称えられるために戦ってきたわけじゃない。でもハーフエルフだからって、いなかったことされるのはあんまりだろう。俺はそれだけは許せない。
「フィロテスの家族もいる……助けたい」
「カレンさん……」
「……準備だけしておくか。ジオに連絡して宇宙装備だけでも内緒で作っておくかな」
気が乗らないけどカレンが助けたいというなら俺に選択肢はない。カレンが望むなら準備だけでもしておかないとな。気は乗らないけど。
「んふっ……ワタルは私のしたいことをいつもしてくれる……愛されてる」
「ツルペタの時のカレンを思い出させられたからな。ご飯食べさせたりお風呂入れてやったりした時の親心を思い出したんだよ」
「今は私が全部してあげてる……身体もツルペタじゃない……ワタルは私無しでは生きられない身体になった」
「ふふっ、確かに食事もカレンさんに食べさせてもらってますね。着替えも身体を洗うのも全部カレンさんにしてもらってますよね。わ、私もトワもお手伝いしてますけど」
「うっ……それはカレンが望むからさせてやってるだけだって! 」
箸の使い方忘れたけど!
「ならお乳で洗わなくても大丈夫? 」
「大丈夫……じゃない」
アレが無くなるなんて想像できない。
「んふっ……ワタルはそういうところは素直……好き」
「ふふふ、お風呂ではワタルさんは幸せそうですものね。私もカレンさんのように想われるようになりたいです」
「ご主人様はただのスケベでございやす。私の身体でも喜ぶほどでございやすから」
「ぐっ……人は贅沢を覚えたら抜け出せないんだよ。カレンとフィロテスとトワの身体で洗われるのを経験したら、もう手放せなくなるのは仕方ないんだ。三人とのお風呂は幸せなんだ」
三人の美女による人肌タオルを一度経験したらやめられるわけがない。湯船に浸かっている時も右を見ればカレンの乳、左を見ればフィロテスの乳があり股間には呼吸を必要としないトワがずっと潜水して刺激してくれる。あれぞ至福の時! 生きてて良かったと思える時間!
「ワタルの幸せ……それは私の幸せ……もっとしてあげる」
「わ、私もワタルさんが幸せだと嬉しいです。こ、今夜もまたしてあげたいです」
「オートマタの身体で幸せを感じるなどとは、相変わらず変なご主人様でやす。仕方ないのでまたしてやるです」
「ならベッドでお返ししないとな。あっ! クーサリオン公爵にダークエルフの秘薬があるか聞いておけばよかった! 失敗したなぁ」
公爵が元王家ならマゴルの野郎から受け継いでる可能性があるんだよな。キツイこと言った後だし今さら戻って精力剤の作り方知ってる? なんて聞けないし……残り少ないのに失敗したなぁ。
「んふっ……アレが無くなればトワに頼らなくても勝てる」
「アレは凄かったです……」
「アレはエルサリオンには無い成分でできてやした。さすがの私もキツかったでやす。無くなったのなら存分に搾り取れやす」
「やめろ! そんなことされたら死ぬ! 」
無理だ! ダークエルフの秘薬が無くなったらトワに殺される!
「ワタルは死ぬ時は布団の上で死ぬと言ってた……本望」
「そういう意味じゃねえよ! 」
ヤバイ! 節約して使わないと。しかしそれだと三人とすることの幸せが……やっぱクーサリオンに連絡を……いや、それだと勇者の威厳が……
俺は勇者の威厳と夜の生活を天秤に掛けて悩んでいた。
そんなくだらない話をしながらも俺たちは神殿のあるピラミッドから降り、彫像のある広場に戻ってきた。
それから俺とカレンはフィロテスとトワを抱き抱え、リーゼリットやレオニールたちの墓がある山へと向かった。
山の上には俺とカレン。というか名もなきエルフと書かれた2mほどの墓があり、その隣にリーゼリットの墓があった。どうやらリーゼリットは二千年しか生きなかったようだ。
リーゼリットには停滞の魔結晶の1等級を渡したはずだから、寿命の5倍である三千年は生きたと思ったんだけどな。恐らく1等級は子供にやったんだろうな。そして自分は2等級を融合したんだろう。リーゼリットらしいといえばリーゼリットらしいな。それだけハイエルフの治世を長くしたかったのかもな。それをアイツらときたら……
俺とカレンは途中で摘んだ花をリーゼリットの墓に添え手を合わした。そしてその後にレオニールたちの遺品をそれぞれの墓の上に置き、同じように手を合わせた。
その後は聖地を出てルンミールに連絡をして、大陸に止まっていた宇宙船で王たちを待たずに地上へと戻ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます