第61話 ハイエルフ
俺とカレンがアルガルータから去った後。
場面は聖地の島へと移動する民衆と、それらに襲い掛かろうとする大量の魔物と戦う獣王軍へと移行した。しかしそこには信じられない光景が広がっていた。
『エルフの戦士たちよ! 勇者様は必ず魔王を倒すであろう! 民を守れ! 魔物を一匹たりとも後方へ行かすでないぞ! エルフの未来のために! 』
《エルフの未来のために! 》
「あの馬鹿王め! エルフは戦うなって言っただろうが! 」
俺は獣王と肩を並べて戦うエルフの王の姿を見て悪態をついた。
「あの方が聖母様の父。アグラリエル王家最後の王、レメリオ王……」
「そうだ。重傷を負ってたから引っ込めさせたんだが、リーゼリットじゃ止められなかったみたいだ」
レメリオは責任感が強く民にも慕われていた賢王だった。それゆえに常に前線で戦っていた。俺が死なれでもしてリーゼリットだけ残されても民をまとめられないと思ったから、怪我をしたのを理由に後方に下げたってのに……
しかしその戦場にいたのはエルフの王だけではなかった。俺の前にはダークエルフを率いるダークエルフの王の姿も映し出された。
『勇敢なる戦士たちよ! 我が友ワタルが魔王を必ずや打ち倒す! それまで民を守るのだ! その命を捧げよ! 』
《おおぉぉぉ! 》
「やっぱりソロンディアもいたか」
アイツは絶対前線に出るとは思っていたよ。情に厚くて真面目君だからな。
参ったな。まさか俺たちがいなくなった後が、こんなことになっているとはな。
「あの方がクーサリオン王家最後の王……」
「そうだ。俺を色々と助けてくれた王だ」
ダークエルフ王家秘伝の精力剤をくれたりな。アレが無かったら俺はカレンに搾り取られ、魔王を倒す気力が無かったかもしれない。ソロンディアは魔王討伐の影の功労者なのは間違いない。
「なんと壮絶な戦いなのだ……まさしくエルフの王に相応しき姿よ」
「あれが獣王……あの姿に比べて俺は……」
「ドワーフと巨人族は民たちの護衛か……」
「空から襲いかかってくる魔物も多いからな」
俺たちの目の前で繰り広げられる戦いは壮絶なものだった。
襲い掛かってくる中鬼や大鬼。そしてキメラに全身に炎をまとう大鬼にサイクロプス。さらには大騎士級の吸血鬼ロードや飛竜にサイクロプスロードを相手に、エーテルが無くなっても食らいつき足止めをし、次々とその命を散らしていった。
そしてとうとう王たちも力尽き倒れた。
「レメリオ王! おお……見事な最期だ……」
「ええ、ソロンディア王もあのレベル7はありそうな巨大な飛竜と相討ちなされました」
「ゼノン様! すげぇ……あんな強力な雷を落とす一つ目の化物相手に……」
「チッ……下がってろって言ったのによ……どうすんだよこの後」
ほんとに言っても聞かない奴らばかりだったな。みんな民を守るために勇敢に戦っていた。けど、誰一人後のことを考えてないように思えた。獣人はいい。強い奴が獣王になるからまとまるだろう。けどダークエルフをあの無口なストーカーのマゴルがまとめられるのか? エルフを天然王女のリーゼリットが? いったいどうやってまとめたんだ?
王たちが倒れたあと、戦線は瓦解した。そして決死隊は全滅し、魔物が聖地に向かう民たちへと襲い掛かろうとしたその時。突然魔物の動きが止まったかと思ったら、大陸中央に向け引き返していった。
恐らくこのタイミングで俺が魔王を倒したのだろう。過去にもほかの宇宙船にいるボスを倒した時に、周囲にいた魔物に同様のことが起こった。これは命令系統の最上位の存在がいなくなったから、魔物たちは一旦撤退したということだろう。
そしてそれから数十分後に、西の空から青白い光が地上へと降り注ぐのが見えた。
それを聖地の手前で数人のエルフが飛翔と千里眼にて確認する姿が映し出され、その後リーゼリットが崩れ落ちる姿が映し出された。
俺とカレンが死んだと思ったんだろうな。
崩れ落ち泣いていたリーゼリットはマゴルに支えられつつ立ち上がり、気丈にも民たちへ魔王が倒され魔物が撤退したことを告げた。
そして全ての民が聖地へとたどり着き、リーゼリットが神殿にて祈りを捧げる姿が映し出された。
すると聖地全体が光り、島ごと大きな光となり精霊神の右手の球体へと吸い込まれた。
アルガルータの世界には魔物だけが残され、聖地の島と原住民は全てあの星から消えていた。
「アガルタは精霊神様がお作りになり、我々は聖地ごと転移したというわけか」
「そうみたいだな。そして魔王を倒した俺は元の世界に戻された。時間軸が違うのはよくわからんけどな」
質量の違い? というか精霊神が創った世界は本当に地球の地下なのか?
続いて場面はアルガルータからアガルタへと変わり、聖地が大陸の南端に転移しリーゼリットたちが空を見て驚いている姿が映し出された。
空には二つの月が無く、小さな太陽と雲が広がっている。そしてその空には大きな白い穴が開いていた。それは空のあちこちに複数開いていき、やがて神殿の上空に精霊神が現れそれを抑え込もうとしている姿が映し出された。
しかし完全に抑え込むことができず、いくつかの小さな穴が空には残ってしまった。
恐らくアレが次元の穴なのだろう。抑え込もうとしていたということは、意図せず現れた穴ということか?
「これは……次元の穴は精霊神様がお作りになられた物ではないということか? 」
「意図せず現れた物のように思えます。恐らく勇者様の召喚と送還による因果により、チキュウと繋がってしまったのではないかと考えられます」
「ワシもそう思う。あれだけの質量の島を異空間に転移させたのだ。いくら精霊神様でも完全には無理じゃろう」
ん? つまり地球と繋がったのは事故ってことか? 俺を召喚や送還した時の繋がりが残っていて、それで次元の穴が開いて地球と繋がっちゃったってこと?
もしかして精霊神はアガルタを一時的な避難場所にするつもりで、いつか聖地をと民をアルガルータに戻そうとしていたのか? それが地球と繋がっちゃったからできなくなったとか?
精霊神は小さな穴が複数残ったことをなんとなく残念そうな顔で見たあと、神殿の中へと戻っていった。
そして地上に場面は移り、聖地から大陸の南に移動した者たちが木造や石の建物を建築している姿が見えた。そこには王を失った獣人とエルフとダークエルフを、リーゼリットがまとめている姿が映し出されていた。その姿は俺の知るリーゼリットとは違い凛々しく、まさに聖母と呼べるべき指導者だった。
「マジか……」
「あの子はやればできる子だった……」
そしてさらに時は流れ、城のような物が建ち街ができた。そしてその城の前に多くのエルフとダークエルフが集まり、城のバルコニーから煌びやかな王家の衣装を着た大人になったリーゼリットとマゴルが現れた。リーゼリットの腕には真っ白な髪の赤ん坊が抱かれており、俺はその姿を見てその場に崩れ落ちた。
「うそ……だろ? マゴルとリーゼリットが? 」
「とうとう知られてしまった……二人は好きあってた。けど立場的に結ばれないでいた」
「なっ!? カレンは知ってたのかよ! って、まさか立場的に結ばれないでいたって……」
「んふっ、リーゼはエルフとダークエルフの国を作ることにノリノリだった……ワタルの遺言ということで作りやすかったはず」
「ぐはっ! 俺がマゴルとリーゼリットを……そんな……」
俺は自分の言葉が二人を後押ししたことを知り、両手を空中について泣いた。
「ワ、ワタルさん……」
「なんということだ……まさか聖母様の夫がダークエルフであり、初代の王がハーフエルフだったとは。古文書に初代と二代目の王の容姿の記録がないのはこれが理由だったのか……」
「まさかそんな……王家の血にダークエルフの血が入っていたとは」
「こりゃあたまげたぜ……エルフはとんでもねえことをやらかしたな」
「愚かな……勇者様のご意志はエルフとダークエルフとの共存。そしてハーフエルフへの差別を無くすことじゃった」
「うむ。聖母様はハーフエルフを王にすることにより、それを成し遂げようとされたのだろう。それをエルフは無かったことにした。勇者様の伴侶をエルフにしたうえに、初代王までエルフに仕立て上げるとはな。見損なったぞ」
「何も言えぬ……エルフ最大の愚行だ……あの場所に行けるなら聖母様の前でこの首を掻き切ってお詫びしたい」
「別に……エルサリオン王のせいじゃないだろ。過去の王がしたことだ。1万五千年だ……どこかで愚王が現れてもおかしくはねえよ」
エルフの種族至上主義は筋金入りだ。数千年もすりゃ歴史を変えようとする奴がいてもおかしくはない。ダークエルフと国を割らなかっただけでも褒めるべきだろう。よく1万五千年も同じ国にいたよな。ビックリだよ。
俺は恥ずかしさで自害するんじゃないかってほど打ちのめされているエルサリオン王にそう言いながらも、リーゼリットが抱えている赤ん坊を見て涙を流していた。
くそっ! 俺のリーゼリットとマゴルの野郎が、子供ができるまでヤリまくったってことかよ! よりにもよって俺のよく知る男と……しかもそれを俺が後押しをしただと!? 俺は寝取らせをさせたってことか!? 全然興奮しねえよ! なんだよあの性癖!
「ワタル落ち着く……もう1万五千年前のできごと」
「それにしては記憶が鮮明なんだよ……」
リーゼリットとマゴルと別れてから、1年しか経過してないんだよ。
精霊神はなんだってこんな映像を俺たちに……まあ予想はつくけど。
俺がカレンに背中をさすられ慰められていると、映像はまるで早送りのように次々と移り変わっていった。
リーゼリットとマゴルの子が王位に就き、エルサリオン王国を建国する姿。
大陸南端から獣人やドワーフや巨人たち旅立ち、それぞれが協力し合い新たな新天地で生活を始める姿。
エルフとダークエルフが森を求めて北へと徐々に移動していく姿。
現在の王都のある場所で森の恵みを最大限に得て都市を築いていく姿。
森に遷都後に初代エルサリオン王がダークエルフの女性と結婚する姿。
その子供がエルフの女性と結婚する姿。
そして年老いたマゴルが寿命で逝き、それからさらに年月が経ち……
『ワタルさん……カレン……約束を果たせたかしら……二人に救われたエルフとダークエルフは一つになりました……民たちはお互いを助け合い……ハーフエルフ……いえ、どのエルフやダークエルフよりも優秀なカレンと同じ種族。ハイエルフが多く産まれました……もうカレンのように差別されることは……ないわ……辛く苦しい日々だったけど……二人と過ごした時間はとても……楽しかった……来世でまた会い……たいわ……ワタルさん……カレン……大好き……でした……」
リーゼリットが最期を迎える姿が映し出された。
「リーゼ……ううっ……よかった……長生きしてた……」
「そうだな……」
俺とカレンは抱き合いながらリーゼリットの最期を見送った。
それにしてもハイエルフか……昔リーゼリットにハイエルフはいないのかと聞いたことがあったっけ。俺がエルフの上位種だと言ったらいないと答えつつも、もしかしたらカレンがそうなのかもと言ってたな。ハーフエルフがハイエルフか……確かにそうかもな。
俺は横でエルサリオン王が、『幻の種族……ハイエルフがまさか……』と口ずさんでいるのを冷たい目で見つめながらそんなことを考えていた。
リーゼリットの葬儀はそれは盛大に行われた。そして聖地にある墓地とは離れた場所にある山の上に、俺とカレンやレオニールたちの墓のあるエリアに埋められた。
あの山はよくカレンとリーゼリットと一緒に登った山だ。あそこからは聖地全体がよく見えるんだよな。リーゼリットもその風景を気に入っていたっけ。
俺は自分の墓があることに微妙な気持ちでいたが、リーゼリットが俺たちの思い出の場所を覚えていてくれたことが嬉しかった。
多くの人に見送られたリーゼリットの埋葬が終わると、場面は宇宙へと移った。そこには火星と思われる星に続々と集まるダグルの姿が映し出された。火星には見覚えのある巨大なダンゴ虫により生産される蟻やバッタだけではなく、三葉虫のような母船から次々と生産され出てくるゾウ虫や赤いクワガタにサソリなど、明らかにレベル6や7はあるであろうダグルも多くいた。
そこで映像は途切れ目の前が真っ白になり、気がつくと俺たちは聖霊神殿の精霊神像の前に立っていた。
「最後になんてもんを見せんだよ」
「なかなか強そうだった……」
「火星にあれほどのダグルがいたなんて……」
「ああそうか。確か50年以上近づくこともできなかったんだっけ? 」
俺は青ざめた顔をしているフィロテスにそう確認した。
確か50年前に火星にダグルを確認して、20年前から月で戦ってたんだよな。月はそのかなり前からダグルの侵略に備えて基地化してたんだと聞いた。
「はい。50年前は蟻型とバッタ型しかいませんでした。それがあそこまで強力そうなダグルまで……」
「まあエーテルを効率よく取り込むために、徐々に上位種を投入してくるからな」
人口の多い地球にいきなり大型で強力なダグルを上陸はさせない。逃げられて取りこぼしが出るしな。最初は小型のダグルを送り、それらが地球人のエーテルを取り込み強くなったところで大型のダグルが上陸する。そして小型のダグルを殺しそのエーテルを取り込みさらに強くなっていく。食物連鎖みたいな感じだ。
魔物もそうだったしな。これが一番効率よくエーテルを取り込めるから、多分宇宙共通の侵略法なんじゃないかな。
「勇者ワタル様。そしてハイエルフの大英雄カレナリエル様」
「ん? なんだよ突……まあそうなるよな」
「王!? 」
俺は突然後方からエルサリオン王の声が聞こえたので、カレンとフィロテスとともに振り向いた。
するとそこでは各王と代表が跪き、俺たちへ首を垂れていた。
あんな映像を見せられたらこうなるよな。もしかしたら勇者かもから、勇者なのだろうとなり、間違いなく勇者だになったってことだろうな。
あ〜ハマったわ。精霊神にハメられた。
さて、どうすっかな……
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