第54話 謁見
フィロテスにエルサリオンの王との面会を頼まれ2日ほどが経過した。
小長谷たちEC中隊は今日の朝に10日間のバカンスを終え、訓練が終わった時の死んだ魚の目から一転して晴れやかな表情でここ宮古島を去って行った。
この10日間みんなといっぱい遊んで楽しかった。フィロテスとカレンとトワも楽しそうだった。昨夜のお別れ花火大会なんて、ホテルの従業員も誘ってみんなで盛り上がったしな。小長谷と森高2尉がそっと抜けていったのは見ないフリしてやったよ。くそ……幸せにしろよな。
小長谷たちを見送った俺たちは四人でビーチで過ごし、夕方にホテルに戻ってからはみんなでお風呂に入って少し楽しんだ。そして食事をしてから出掛ける準備をして、リビングで時間になるのを待っていた。
そして深夜になり情報局の制服に身を包んだフィロテスがソファーから立ち上がり、エーテル通信で誰かと話し始めた。
「ワタルさん、もうすぐ迎えが来るようです」
「そうか。それじゃあ行くとするか」
俺は両隣に座るカレンとトワの腰に手を回し一緒に立ち上がり、魔鉄製の結晶魔剣を背中に取り付けた。
「ワタルさん……せめて武器はしまって頂きたいのですが……」
「王の前ではしまうよ。馬鹿な護衛がいるかもしれないからな。いつでも斬れるようにしとかないと」
俺は心配そうな顔をしているフィロテスに笑顔でそう答えた。
俺もカレンもトワも完全装備だ。俺は黒龍の革鎧に結晶魔剣。剣のスロットには吸収の魔結晶も装着済みだ。カレンは黒龍のスーツに二丁の魔銃を腰に差しているし、トワはメイド服の上からミスリルの胸当てを装備させ、袖とスカートの内側には風龍の鱗を融合してある。そしてスカートの中のガーターベルトに、ミスリルのナイフとカレンからのお下がりの連装魔砲が入っているマジックポーチを取り付けた。
この五日間でトワは結界の魔結晶は扱えるようになったけど、まだ再生と身体強化は身体に馴染んでないからな。メイド服を脱ぎたくないというトワの防御力を上げるために、できるだけのことはした。風龍の鱗なら軽いから、動きにくくなることはないだろう。トワは過保護過ぎだとかなんとか文句を言ってたけど、ずっと装備をいじってたから多分気に入ってくれたとは思う。
「心配になるのはわかりますが、今回はクーサリオン公爵家が護衛についていますから大丈夫です。軍のトップでもありますので」
「クーサリオン? もしかしてダークエルフか? 」
俺は聞き覚えのある名前にフィロテスへそう聞き返した。
「はい。六元老の一人です。四人いるダークエルフの元老の中で一番力がある公爵家です。ですが六元老のことは、エルフのギルミア家以外のことはお話ししていなかったはずなのですが……どこでお知りに? 」
「いや、あっちの世界で同じ名前の奴がいたからさ。少し驚いただけだ」
いや驚いた。アルガルータのダークエルフ王家と同じ名前の家があるなんてな。
「ワタルさんのいた世界でも同じ名前の方がいらっしゃったとは驚きですね。あっ、迎えが来たようです。ビーチに向かいましょう」
「ああ、行こうか」
俺はそう言ってフィロテスの後に続いて部屋を出た。
ほんと驚きだ。クーサリオンは『強き弓』という意味だ。ダークエルフにとって弓は強さの象徴だから、王家しか使ってはいけない名前だったんだよな。まさかこの名前を使っている家があるとは。
名前のタブーが無いということは、アガルタのエルフたちが俺と同じようにアルガルータのあの星に転移して文明を築いたという予想はハズレたかな。もしかしたら並行世界ってやつかもしれない。確かにその方がなんかしっくり来る。リーゼリットに似た王女もいたしな。
俺はそんなことを考えながらホテルの外へと出て、ビーチへと向かっていた。
そして俺たちがビーチに到着すると、雲の上に白い光が現れて俺たちの立つ海辺に一直線に向かってきた。それは中型輸送機のフラーラに似たUFOだった。
そのUFOは俺たちの前に着陸し、俺たちはUFOから伸びる階段に乗りそのまま機内へと入っていった。
機内に入ると直ぐに座席があり、それに腰掛けると直ぐにUFOは上空へと飛び立った。
そして雲の遥か上まで上昇し、まさかこのまま宇宙に行くつもりじゃないないだろうなと思っていると、窓の外に宇宙艦隊らしきものが見えた。艦隊は中央にいる駒の形をした真っ白で巨大な宇宙船を守るようにして、流線型の戦艦や巡洋艦が150隻ほどが展開していた。
「フィロテス……少数の護衛とか言ってなかったか? 」
「はい。王家親衛隊の艦艇50隻と、クーサリオン公爵家の艦艇100隻の小規模な護衛のみとなっています」
「そうか……」
当然のようにそう言うフィロテスの言葉に、俺は相槌を返すに留めた。
まあ第三次侵攻の時には、地下から何百隻もの艦隊が月に増援に向かっていったしな。アガルタの人間からしたら、王を守るのには少ない戦力なんだろう。
俺が恋人との価値観の差を埋めるよう思考していると、駒形の宇宙船のゲートが開いた。そしてそこにそこへ乗船しているUFOが入っていった。
宇宙船の中に入り機体が止まると、フィロテスに促され外に出た。するとそこにはルンミールと、50代くらいのダークエルフの男が護衛の兵を連れて待ち構えていた。
「セカイさん。エルサリオン王旗艦『アグラリエル』へようこそ」
「しばらくぶりだなルンミール。この船はアグラリエルというのか……」
「はい。古くから使われている名で、航宙母艦の型名としても使われています」
「栄えあるエルフか……」
ここでもか……アグラリエルというのはアルガルータのエルフ王国の名前だ。
エルフのアグラリエル王国と、ダークエルフのクーサリオン王国がアルガルータには存在していた。ほかには獣王国があり、ドワーフと巨人族は国ではなく部族として存在していた。
しかし俺の知る王家の名前が宇宙船に付けられてるとはな。並行世界のエルフだとしてもなんだか変な気分だ。リーゼリット級とかいう巡洋艦があったりしてな。いや、リーゼリットなら補給艦がせいぜいだな。武力が皆無の天然王女だしな。
「ほほう……古代語を話せるというのは聞いていた通りのようだな」
「あんたは? 」
俺はルンミールの後ろに立ち、白いマントに白い詰襟の豪華な装飾がされた軍服を着ている男へと顔を向けそう聞いた。
「ああ、聞こえてしまったか。これは失礼をした。私はハルラス・クーサリオンと言う。セカイ殿と是非一度会いたくて同行させてもらった」
「クーサリオン様はエルサリオン王国の公爵であり、軍の総司令官でもあります。今回、王の護衛責任者として、どうしてもセカイさんとお会いしたいというので同行していただきました」
「ああ、あんたがクーサリオン公爵か。瀬海航だ。彼女は俺の恋人のカレナリエル。そっちの言う古代語で『花冠と太陽』という意味だ。いい名前だろ? エルフとダークエルフのいいとこ取りしたハーフエルフだ。差別や侮蔑をしたら、たとえ顔色を変えただけでも王女のとこの騎士みたいになるから気をつけるんだな。俺は王がいようと容赦はしない。ここに展開している艦隊くらい、俺一人で全滅させることが可能だということを忘れないようにな」
俺はクーサリオン公爵と護衛の兵士たちに対し、軽く睨みながらそう警告した。俺の攻撃的な物言いに護衛の兵士たちが色めき立ったが、公爵が手を横に伸ばすと兵士たちは押し黙った。
「十分承知している。我々がハーフエルフに対し差別をすることがない事をここで誓おう。むしろ彼女の圧倒的な能力を見れば、劣っているのは我々の方であることを認めねばなるまい」
「わかればいい。そして彼女は俺の専属メイド兼恋人のトワだ。魔結晶で強化しているから、彼女はもうただのオートマタじゃない。オートマタ族だな」
「ご主人様……」
「オ、オートマタ族? しょ、承知した。セカイ殿の恋人として対応させてもらおう……」
「それでいい。なら王様のとこに行こうか」
トワを紹介したところで公爵のポーカーフェイスは崩れたが、俺は気にせず王のところへ案内するように言った。ルンミールと公爵は俺の言葉に頷き、護衛の兵士を前後に配置したのちに前へ進んだ。
ハルラス・クーサリオンか……ポーカーフェイスが崩れた時の表情がアイツそっくりだったな。
アグラリエルといいクーサリオンといい、アルガルータの二つの王家の名前が出てきたことで意識したからそう見えるんだろうな。もうアイツらはいないという喪失感から、どこかで面影を探しているのかもな。
あれからもうすぐ一年か……
「ワタル……」
「なんでもない」
俺が感傷に浸りかけていると、隣でカレンが心配そうな顔をして俺を見ていた。俺はそんなカレンに首を振り、なんでもないと返し動く歩道に乗りながら広い艦内を進んだ。
やがて動く歩道はそのま長い階段をエスカーレーターのように上って行き、大きな観音開きの扉の前にたどり着いた。その扉の前には白い全身鎧を着た二人のエルフが、槍を手に直立不動で立っていた。
俺はいきなり中世の騎士っぽくなった兵士の格好と装備に驚きつつも、王のいる謁見の間なのだろうとカレンへ目を向けて武器をしまい結界をそっと展開した。
そして俺たちが動く歩道から降り彼らの前に立つと、彼らは扉の横に移動して再び直立不動の姿勢となった。俺はルンミールに中に入るように促され、カレンとトワとフィロテスを連れ扉の前に立った。するとそのタイミングで扉は内側へとゆっくりと開いていった。
扉の向こう側には、白い床に赤い絨毯が通路のように敷かれている巨大な部屋が映っていた。壁際には白と黒の全身鎧を見にまとった騎士が20名ほどおり、それぞれが槍を手に持ち腰にはエーテル銃を差していた。
赤い絨毯の先には20段ほどの階段があり、その上には王座が鎮座していた。しかしその王座には誰も座っておらず、その手前の王座と入口の間に、明らかに特別に用意しましたと言わんばかりの白い円卓が置かれていた。
そしてその円卓の前に白を基調とした生地に、銀の装飾がされている中世の王族が着るような衣装を見にまとった男女が立ちこちらを見ていた。二人は30代半ばから40代前半ほどに見える男女のエルフで、その表情は緊張しているように見えた。
俺はなぜこの空間だけ中世風なのかという疑問より先に、王と王妃と思われる人物が着る衣装がアルガルータの王家の物にそっくりであることに驚いていた。
それはあまりにも似て……いや、そのまんまのデザインと形をしていた。施された刺繍もミスリルの王冠も、そこにはめ込まれている宝石の色も形も全てが俺の記憶にあるアグラリエル王家の物と同じだった。
いくら並行世界でもここまで似るもんなのか? デザインとか宝石とか少しは違いが出るもんなんじゃないのか?
「セカイさん、どうぞ中へ」
「あ、ああ……」
俺はルンミールに促され、衣装のことは一旦脇に置いてゆっくりとその円卓へと近づいていった。
そして円卓の前に立つ二人の手前で止まると、エルフの二人は深々と頭を下げた。
その光景に壁際にいた騎士たちが一瞬動揺したようにも見えたが、俺は二人へ軽く頭を下げて返した。
背後では、ルンミールとフィロテス。そしてクーサリオンがひざまずいて頭を下げていた。
なんかフィロテスを同席させたのはかわいそうなことをしたな。夕方辺りからずっと緊張していたしな。王国側の人間だから仕方ないんだろうけどさ。
「初めましてセカイ殿。わざわざ来て頂いたことに感謝する。私がエルサリオン王国第67代国王のリンドール・エルサリオンだ。こちらは正妃のティニエルだ」
「ティニエルです。娘が大変なご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした」
「瀬海航だ。彼女は俺の大切な恋人のカレナリエル。そして専属メイドであり恋人でもあるトワだ。フィロテスは紹介する必要はないよな? 彼女とも恋人になったからその辺よろしく。それと王女に関しては色々思うところはあるが、まあ約束は守っているようだし王自ら地上に来たんだ。その事は一応は水に流す。約束を守っているうちはな」
俺は頭を上げ、緊張した面持ちのまま自己紹介をした王と王妃にそう答えた。王女の件は水に流すけど、信用なんてしない。貴族どころか娘すら抑えられない王に期待なんかできるはずもない。
それにしても王妃はすげー美人だな。胸は娘のアリエルより無いけど、見た目が気品に溢れているわ。こんな温和そうな母親からあんなお転婆娘が生まれるとはな。相当甘やかしたか?
「セカイ殿の温情に感謝する。アリエルは謹慎しており、王城から一歩も外へは出してはいない。近く婚約させ嫁に出す予定だ。セカイ殿を攻撃した子爵家は取り潰し、親衛隊の騎士たちも全て月の前線にあの姿のままで送り出している。我々はセカイ殿に敵対する意思がないことを理解していただきたい」
「王が敵対する気がないことは理解した。せいぜい配下の貴族を抑えておくんだな。俺はいつでもアガルタに行くことができ、そしてエルサリオンを滅ぼすことができる力がある。次はない」
「わ、わかった。二度とセカイ殿に危害を加えることがないことを約束しよう」
王は冷や汗を流しつつそう言ってから、俺たちを円卓へ座るように促した。
さて、謝罪は受け取った。あとは何か詫びの品物でもくれるのかな? それなら従順な猫耳のオートマタがいいな。アリエルのようなプリプリした尻に設計してもらって、あっちの具合は少し抑えめにしてもらえば最高だ。
エルフにしか作れないみたいだし、つかず離れずくらいは友好的になっておこうかな。感情表現を豊にした猫耳に狐耳のオートマタがたくさん欲しいしな。ドワーフ幼女にもチャレンジしてみるのもいいかもな。
俺は王とオートマタを購入する交渉をしようと、少しウキウキしながら席に着いたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます