第80話

(その80)



 優しさに寄りそうその姿形…


 ――それは自分の中にある期待なのだ


 何に対する期待か?

 ローはふと口元に微笑を浮かべて足を踏み入れた鷲の嘴から広がる空を見た時、その口元の微笑が確実に自分に迫る運命を引き寄せていることに自分でも可笑しくる気持ちなった。

(なぜこれほどに自分の人生というものは可笑しくもあり、また悲しいものなのだろう)

 空の彼方に自分が求めていた運命が見えた。それは段々とこちらに迫りつつある。

 ローは大きく息を吸った。まるで何事も無い朝の陽を浴びるかのように。

 背負った袋を地面に下ろすと、焦る風も無く荷の口紐を解く。解くと袋の中に太い腕を入れる。それからやや力を籠めて何かを引き出す。

 背負い袋から姿を見せたのは、暖炉奥に仕舞ってあった大きな銃砲だった。

 ローはそれを手に取る陽に翳す。輝く銃身が煌めくのを見て満足そうに頷くと革ベルトを袋から取り出し、それを銃口と握りにあるそれぞれの輪に引っかけ首から吊るすようにして背に負った。

 次に袋から塊をとり出し、それを腰袋に放り込む。それは三発の弾丸だった。

 軽く腰ベルトを締めて、腰袋の具合を確認する。この腰ベルトは革で出来ているがそのベルト部分には砂を混ぜてある。それは小さな火炎玉を瞬時に擦りつけて火を点けるためのものだ。そいつをポンポンと音を立てて叩く。

「良し!!」

 声を出すと今度は自分の肉体の可動域を確かめる様に身体を四方に動かして身体をほぐしながら、武具を身体に馴染ませる。

「体の動きも悪くない」

 装具の足で地面を踏みこむ。

 地面からの伝わる感触も良い。

(装具も悪くない。ミライの手入れのおかげだろう)

 老人は満足げに笑うと次に袋からやや小さなものを取り出した。それは小銃だった。それを見て思わず老人に不敵な笑みがこぼれる。

「これが、今回の戦いの肝になるだろうな。遠距離はこの大銃で狙う。そして至近距離はやはり何と言ってもこの小銃に勝るものはない。俺はこいつと背負いもので奴を追い詰める」

 小銃を素早く構えて、引き金を引く。カチリという音がした。

「…戦いとは綺麗ごとではない。常に条件にあった戦いをしなければならない。遥かあの時のように若くて純粋なままで誰が居られようか。お前は昔のまま、若気の様に剛毅さと純粋さの剣一本で俺に勝負を挑まんとするかもしれんが、俺は苦みも知った年寄りだ。そして歴戦の武人というものは、常に『勝利』を目指すものなのだ」

 言ってから袋の中から小さな革袋を取り出した。それをベルトに引っかける。

「この中にはなぁ…さまざまな種類の弾薬火炎玉等がある、沢山あるぞ」

 独り言のように言ってから、老人は背負い袋蹴って谷底へと蹴落とす。

 それから空を見上げる。

 老人の目にもはっきりとその姿が分かるまでそれは迫っていた。

「さぁ、来い。ベルドルン。存分に戦いを愉しもうじゃないか」

 老人は言ってから革袋から小さな火炎玉を握りしめて革ベルトに擦りつけた。擦ると火炎玉に火がつく。

 手元に煙が上がり始める。

 もう、奴はそこまで来ていた。

 風の中に自分を呼ぶ声が聞こえたかもしれない。

 だがそれは地面にたたきつけられた爆発音と共に粉々に消しとんだ。

 爆発音が響く中でローは叫んだ。

「さぁ!!今こそ互いに分かち合った物を一つに帰そうじゃないか!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る