依頼案件と小旅行と意外な呼び出し
その翌日から、私は職業傭兵の仕事に復帰した。
暇を持て余したくなかったというのもあるが、意味のない持ち込み仕事に悩まされたくないというのもあった。すでに他の任務についていると言う事実を作ってしまえば無理を言おうとする連中も寄ってこないからだ。
私が選んだのは職業傭兵ギルドから強く依頼された、南方領域山岳地帯でのカルト集団討伐任務だった。
これは、南の隣国パルフィア王国の領内で長年にわたり活動している異端宗教である〝人倫の教〟と言う閉鎖的集団によるテロ活動を取り締まるというものだ。
かつて、隣のパルフィアでは2大宗教が覇を競っていた。
すなわち現在国教とされているヴィーヴァ教と、古い時代に国教とされていて今では異端になってしまった人倫の教である。
つまり、パルフィア領内では活動が困難になったため難民を装いフェンデリオル領内に逃げてきたのだ。
だが、フェンデリオルとパルフィアは同盟国だ。お互いの国の内情にはそれなりに通じている。もちろん人倫の教が危険な集団だと言う事も。
フェンデリオルの国境警備部隊が、彼らを難民として受け入れず取り締ろうとしたところからその行動が過激化、被害が拡大したという事情がある。
今ではフェンデリオル国内で最も注意を要する危険案件となっていた。話を聞いたら、マイストさんが顔に大火傷の跡を負ったのも、人倫の教取り締まり任務で反撃されたのが原因だったと言う。
1ヶ月の契約で人倫の教の取り締まり任務に従事する。その中で過激な活動を率いていた指導者的人物を取り押さえる事に成功したのだが、それについての話はまた別な機会に語ろうと思う。
殊勲を上げて任務を終えて戻ってくれば、私を待っていたのはブレンデッドでの親友であるマオとホタルだった。
先だっての歓迎会では、ちょうど行商の旅をしていたので彼女たちは居なかったのだ。
彼女たちと再会して3人だけでちょっとした宴を持つ。彼女たちも仕事を忘れての酒というのも久しぶりの事だと言う。
彼女たちと話している中で一緒に旅に出ないかということになった。時間は半月ほどでブレンデッドからそう遠くない範囲で仕事をして小銭を稼ぎながらふらふらと歩き回ろうというのだ。
私も、人倫の教討伐の任務で酷く滅入っていたこともあって気持ちを切り替えるためにも彼女たちと一緒に旅に出ることにした。
薬の行商のマオ、旅芸人のホタル、対して私は行く先々で〝代筆屋〟をすることにした。今のご時世、読み書きが出来ない人はほとんど居ないが、それでも公的な書類の執筆や、外国語の書類作成、また個人的で重要な手紙の代筆などは想像以上に需要がある。
マオとホタルとの3人旅、これはこれで面白いことが色々あったのだがそれはまた別の話だ。
女3人での2週間ほどの旅から帰ってくると、意外な運命が私を待っていた。
帰宅した翌日の朝、早速に傭兵ギルド事務局に顔を出す。すると事務員さんから声がかかる。
「ルストさん」
「はい?」
「今日午後から事務局に出頭お願いします」
「出頭、ですか?」
「はい」
事務員さんはそれ以上は何も言わなかった。こう言う場合、事の詳細は支部長以上でないと知らないケースがほとんどだからだ。
「了解しました」
私は素直に聞き入れた。とりあえず、午前中は天使の小羽根亭に顔を出して時間を潰す。仕事にあぶれている傭兵さんたちとおしゃべりしながら、お昼がすぎるのを待った。
そして、あらためて傭兵ギルド事務局に顔を出せば、入るなり男性事務局員に呼び止められる。
「エルスト2級」
「はい」
「こちらへ」
招かれるままに事務局の建物の奥の方へと向かう。以前にも使った3階の極秘の会議室だった。
「ここは――」
以前にここであったことを思い出していると、案内役の男性事務局員が話しかけてくる。
「どうぞ、この中でお待ち下さい」
「かしこまりました」
指定された時刻前に会議室に足を踏み入れる。するとその中に見かけたのは見知った顔の7人だった。
「みんな?」
私がそう言えばドルスが言う。
「おう、来たか」
そしてプロアが言う」
「みんな揃ってるぜ」
「そうなんだ、でも一体何でかしら? このメンツで」
だがプロアは顔を左右にふる。
「さぁな、この顔ぶれでご指名の案件でもあるんじゃないのか?」
するとカークさんが言う。
「案外正解かもしれんな。それも、正規軍でもかなり上の方からだ」
ゴアズさんも言う。
「でしょうね。この会議室は特別な案件のときしか使われないと聞きましたから」
「そうなんだ」
そう答えつつも疑問を消しきれない私はとりあえずはおとなしく席につくことにした。
すると、入口ドアに一番近い場所に腰を下ろしていたダルムさんが言った。
「来たぜ」
その声と同時に全員、姿勢を正す。そして、来訪者の訪れを待つ。
――ガチャッ――
入口ドアが音を立てて開く。するとそこから現れた人物の姿に私たちは驚かされることとなった。
ワイアルド支部長は当然として、残り3人が凄かったのだ。
フェンデリオル中央正規軍のソルシオン・ハルト・フォルトマイヤー将軍、
西方司令部所属のワイゼム・カッツ・ベルクハイド大佐、
さらに中央本部の人事院に所属するメイハラ・ユウム・クラリオン中佐の姿もあった。
地方司令部の重鎮だけでなく、中央本部の将軍格や人事院の管理官までが揃っていると言うのは明らかにただ事ではなかった。
「ソ、ソルシオン将軍?」
「メイハラ?」
「ワイゼム大佐!」
戸惑う私たちに、ワイアルド支部長が静止するように言った。
「静粛に! まずは、こちらのお三方の話を聞いてほしい。閣下!」
ワイアルド支部長に求められてソルシオン将軍は語りだした」
「あらためて名乗ろう、ソルシオン・ハルト・フォルトマイヤーだ」
「ワイゼム・カッツ・ベルクハイドだ」
「メイハラ・ユウム・クラリオンです」
3人が一通り名乗った上でソルシオン将軍の言葉は続く。
「さて、今回は諸君らによって解決へと導かれた『ワルアイユ領動乱』の論功行賞と事後処理について通達するために参った。だがその前に、かつての『ワルアイユ領動乱』の顛末について説明させてもらう。仔細はメイハラ中佐から聞いてくれ」
そして、ソルシオン将軍はメイハラ中佐に告げた。
「中佐」
「はっ! それでは」
メイハラ中佐は席についたまま、私たちに視線を配りながらも言葉を続けた。
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