魔素による魔物化
すっかり異形と化した<魔王>からは、知性すら感じられなくなっていた、ただただ、
「ドぉ~レぇぇ~アぁぁぁ~っ!」
と、大切な人の名を呼びながら、その存在を捜し求めるかのように、<無数の手>で地面を這いずり移動していく。
いや、実際に探しているのだろう。
知性を失っても、
姿形が変わってしまっても、
それだけは決して失えないもの。
その<トレア>というのが魔王にとってなんなのか、家族なのか、恋人なのか、そもそも人かどうかすら分からないものの、それでも魔王にとっては忘れられないものであることだけは、痛いくらいに伝わってきた。
『魔王……』
今ではただの怪物にしか見えない魔王の<想い>が、辛くて、悲しくて、胸が締め付けられる。
それと同時に、こんな姿になってしまっても『死ねない』ことが、苦しかった。
死ぬこともできず、ただただ泣きながら大切な誰かの姿を求め続ける。
<地獄の責め苦>
とは、このようなものを言うのかもしれないとさえ、リセイは感じた。
彼がそんなことを感じている間にも<魔王ミュージアム>は展開していく。
おそらく魔王自身にはそんな意図などまったくないのだろうが、おぞましい異形の体からは得体の知れない<何か>が発せられ、それに触れた動物も人も、禍々しい<異形>へと変じる様子が見えた。
<魔素による魔物化>
だった。
しかも、人が魔素によって変じた姿は、リセイと共にいる魔人の少女とよく似ていた。
『やっぱり、この子は元は人間だったんだ……』
しかも、魔素による魔物化は、適正があるらしく、多くは命を落とし、しかしその中で命を失わなかったものだけが<魔獣>や<魔人>として第二の生を得たようだった。特に人間は、適正を持つ者の比率が少ないようだ。それが、<魔人>の存在を希少なものにしているのかもしれない。
それを見て、
『もしかしたらこの子も、家族と一緒に魔素に巻き込まれて、それでこの子だけが助かったのかもしれない……』
とも思った。
こうしていつしか魔王は、多くの魔獣を従えた<魔王軍>として<トレア>を捜し求めながら、自分が進む先にある人間の街も村も蹂躙していった。
もっとも、魔王自身にとってはあくまでただの障害物でしかなかったのだろう。
まるで気にしている様子もなく、ただただ踏みにじっていくだけだ。
とは言え、人間も手をこまねいていたわけではなく、<軍>を編成し、抵抗を試みた。
さりとて、その多くは功を奏することなく返り討ちにされただけだったが。
『ああ……』
一方的に薙ぎ払われていく人間の兵士の姿がライラ達と重なってしまい、リセイは心の中で呻いたのだった。
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