そこに賭けるしか
びゅううううう、びゅおおおおおぉぉ
耳元でそんな音がする。自分の体が空気を切り裂いて滑空している音だ。
それでも、明らかに落下しているそれでないのは分かってホッとする。
「ん…」
少女の体を改めて抱え直し、大きく旋回しながら地上を目指した。
その間も、何処かから視線を感じる。
『コヨミが見てる……?
くそ…っ!』
気持ちはざわつくが、今はそれどころじゃない。
とにかくまずは無事に地上に降りなければ。
<見えない翼>での滑空にも慣れてきて、確実に地上へと向かう。
向かいながら、魔人の少女の様子も窺った。
鼓動もしっかりしているし、呼吸も穏やかで、意識が戻らないことだけが心配なものの、どうやら容態は安定しているようだ。
『やっぱり子供だよな……小学生くらいの……
こんな子が、どうして魔人なんかに……
それもこれも、コヨミの所為なのか……』
そう思うとギリギリと体を軋ませるものが込み上げてくるものの、だからといってどうすればいいのかは分からない。
今は自分の思うとおりに使えているこの<能力>も、元はと言えばあのコヨミが自分に与えたもののはず。
となれば、きっと、取り上げることも簡単なのだろう。それをしないということは、コヨミが楽しんでいるからだ。体を完全に破壊されてもあの調子で再生できるなら、あの邪神にとってはあくまでただの<遊び>、<娯楽>に違いない。
そうして娯楽として楽しんでいられる間であれば好きに使わせてくれるだろう。けれど、もし、コヨミの気が変わったら……?
その時にはそれこそ力を散り上げられ、元の非力な普通の人間となってしまう。
完全に相手の手の平の上で踊らされているだけの、<戦い>でさえない<喜劇>。そもそも勝負になどならない。
そんな風に考えれば心が折れそうになる。なるけれど、
『すべてがあのコヨミの<楽しみ>でしかないのなら、逆に、あいつを楽しませられれば、こちらの要望もいくらかは聞いてくれる……?』
なんて考えも頭に浮かんだ。
『そうだよ。神話とかに出てくる<神様>も理不尽で無茶苦茶なことをしてくるけど、場合によっては人間の願いを聞き届けたりもする……
僕の攻撃をあいつは楽しんでた。僕があいつを喜ばせられるだけのことをして見せれば……
そこに賭けるしかないか……』
リセイがそう結論を得た時、遂に地上に足が届いた。
<見えない翼>を大きく広げてブレーキにするイメージを頭に思い浮かべてふわりと着地する。
『あっちに街みたいのが見えたな……
ここがどこなのか確認するためにもまずはそっちに行ってみた方がいいのかな』
降下中に見えた街並みらしきものの方に、魔人の少女を抱いたままリセイは歩き始めたのだった。
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