ちゃんと敵役を
『僕の能力が、自称女神に与えられたチート能力に過ぎなくても、僕自身の本当の能力じゃなくても、関係ない。僕は自分が使えるものすべてを使って、ティコナ達を、あの街の人達を守る!!』
ようやくリセイは、そう納得することができた。
いろいろ回り道もしたものの、思い悩んだりもしたものの、結局のところはそう考えるしかないと思えた。
だから戦う。
余計なことを考えずに済むようになると、自身の力がはっきりとした方向性を持ったのが感じられた。
迷いや悩みが、力の集中を妨げていたのだと分かる。
これがなければ、<魔王軍>などと戦うことはできない。
それが分かる。
と、
「あはははは! ようやく準備が整ったみたいだね!! 待ちくたびれたよ!!」
突然、耳に届いてくる、聞き覚えのある声。
「!? コヨミ……っ!?」
ベルフ達の群れの向こう。闇の中で光を放つ姿。
神々しいはずなのに、なぜかたまらなく邪な気配もある、品性を感じさせない、<自称女神>。
「準備が整ったって…何がですか!?」
リセイが思わず問い返す。
「何がって、決まってるじゃない! <ショー>よ。<エンターテイメントショー>。あなた達人間と、魔王とのね! ここは、そのためにある世界なんだから!
こうして現れた私は、さしずめ<敵の女幹部>ってとこかしら?
さあ! 楽しみましょう♡」
彼女は、自称女神は、本当に楽しそうに満面の笑顔でそう言った。
そこには、人間味とか、人間性とか、他者に対する思い遣りとか、そういうものは一切なかった。人間の姿をしていても、人間の言葉を話していても、<あれ>は決して人間ではない。人間の常識も、良識も、感性も、何一つ通じないことが察せられてしまった。
『<邪神>……っ!?』
リセイの頭にそんな単語が浮かぶ。
世界の
彼のボキャブラリでは、それくらいしか思い当たるものがなかった。
「邪神…! そうね! あなた達人間は私達をそう呼ぶわね! あなた達が私達を何と呼ぼうとそれは自由! その全てが誤りであり、正解でもある。
だから楽しませて! 私を!!」
癇に障る声で高らかに歌い上げるようにそう言いながら、コヨミは、いや、クォ=ヨ=ムイは、一瞬のタイムラグもなくリセイの横を通り過ぎ、
「あなたは、魔王と、ね……」
耳元で囁いた。
「え……?」
その移動をまったく捉えることができなかったリセイが声を上げたのとほぼ同時に、
「ギャフッッ!!」
という悲鳴。
「!?」
そちらに視線を向けたリセイの目に飛び込んできた、クォ=ヨ=ムイに蹴り上げられる<魔人の少女>の姿。
「ちゃんと敵役を演じなきゃダメじゃない。それができない大根役者には、舞台を降りてもらわなくちゃね……♡」
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