非常警戒態勢

何とも言えない空気感を漂わせつつ、リセイ、ティコナ、ライラ、ファミューレ、<魔人の少女>を乗せた馬車は街を出た。


どうにかそこまでは無事に進めてリセイとライラは内心ホッとする。


だがこれからどうすればいいのかというのはさっぱりだった。


なお、軍の方も、リセイ達だけに任せているわけじゃない。ギリギリ見失わない距離を保ちつつ追跡する。行き先は分かっているものの、当然、その通りにいくとは限らないので、見失わないようにはしてるのだ。


また、解決までどれだけの時間を要するかまったく予測もつかないというのもあるので、野営用の物資も積み込んで。特に、非戦闘員二人も巻き込まれているため、ルブセンの指示により、着替え用の服なども途中の店で徴発し、用意された。


もっとも、<徴発>と言いながらも、魔獣に備えてということとなれば、


「おお! そういうことなら持ってってくれ! 他にいるもんがあれば何でも言ってくれ!」」


と、気前よく協力してくれたが。


同時に、ティコナとファミューレの両親にも事態が告げられる。


「ああ…ティコナ……!」


「……」


娘が騎士様に突撃することまでは覚悟を決めていたミコナとシンだったものの、魔獣に囚われたような話となればさすがにショックを受けていたようだ。


なお、ルブセンは、街に非常警戒態勢を敷き、リセイとライラに対して最大限の支援を行うことを全軍に命じた。その上で、


「市民に被害を出すことは許さん。必ず無事に救出せよ!」


とも厳命を下す。街に被害を出さないために魔人を誘導することを優先したとはいえ、だからと言って市民を生贄にしていいとは決して考えていない。


また、市民の方も、心得たものだった。


「大丈夫だ。あいつらならきっとティコナを助け出してくれる」


「ああ、ティコナに何かあれば俺がぶん殴ってやる!」


<エディレフ亭>の常連達の中にも、家族や親類が軍に入っている者も何人もいるので、そう言って二人を励ましてくれた。


もちろん、全員が全員、そうやって高い意識を持ってくれているわけではないものの、だからと言って『自分さえ良ければ』という人間ばかりというわけでもない。


だからこそこれまでも魔王や魔獣の侵攻にも持ち堪えてこれたのだろう。幾度となく災害に見舞われても立ち上がる人々もいるように。




このようにして街が一丸となって備えている頃、リセイは隣に座った<魔人の少女>について意識を集中していた。どんな些細な変化を見逃さず、ティコナ達に危険が及ばないように。


いざとなればこの少女を力一杯抱き締めて、全力でここを離脱して、二人きりで勝負をつけるつもりだった。


たとえそれで少女の命を奪うことになるとしても。


正直、そんなことはしたくない。だけど、初めて戦った時もそうだったように、自分が守りたいものの優先順位は間違いたくないと思ったのだった。


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