改めて頼む

「……!」


これまで見たことのなかったライラの表情を見て、リセイはカーッと自分の顔が熱くなるのを感じた。胸がドキドキして顔を向けてられない。


時折、ふわりと甘いような香りも漂ってくる。汗の匂いも混じってるのに、それが全然気にならない、体の奥がぎゅ―っとされるような感覚。


そんなリセイに、ライラが語りかける。


「リセイ……正直私は、お前のことを侮っていた。腕は確か煮立つが、体力的にはひ弱で頼りないとも思っていた。


けれどお前は私の見てる前でみるみる成長して、今ではもう私では手の届かないところに行ってしまった気がする…」


彼女のその言葉に、


「…え、あ、そんな…僕は…」


リセイはどぎまぎしてしまう。


けれど、ライラはそんな彼には構わず続けた。


「ルブセン様から聞いた。もしかしたらお前が魔獣を呼び寄せてるのかもしれないとな」


「……っ!」


思いがけない一言に、それまでの甘いような気分は一瞬で吹っ飛ぶ。


何も返せず体を強張らせるリセイに、しかしライラは言う。


「リセイ、もしお前が魔獣を呼び寄せてるというのが本当だとしても、それは気にしなくていい。魔獣は…いや、<魔王>は、私達人間そのものを憎んでいるんだそうだ。だから、魔獣は人間のいるところには、大なり小なり現れる。


しかも、沈静化と活性化を繰り返すと言われている。つまり、お前が呼び寄せなくてもいずれはまた魔王と魔獣は勢力を強めて人間に攻撃を仕掛けてきたはずなんだ。


もしお前が呼び寄せてくれるなら、逆に、私達はそれにしっかりと備えるだけだ。そして、お前の力が必要になる。


私からも改めて頼む。一緒に戦ってくれ。リセイ……!」


そう。リセイが、魔獣との関連性を疑われながらも表立って迫害されなかったのは、それが一番の理由だった。


『魔王は人間を憎んでいる』


その事実がある以上、リセイがいようといまいといずれ魔獣は現れたし、襲われた。別に大きな問題ではなかったのだ。


ルブセンが彼を試すような真似をしたのは、単に敵か味方かを見極めようとしただけに過ぎない。リセイが自分達の味方になってくれるのであれば、それでよかったのである。


「ルブセン様はお前のことを『勇者かもしれない』とおっしゃっていたが、お前が勇者かどうかはどうでもいい。お前が一緒に戦ってくれたら私が心強いんだ。お願いできないだろうか……?」


縋るようなライラの問い掛けに、今の今までどぎまぎしていたことも忘れ、


「はい、もちろんOKです…!」


リセイは力強く応えた。するとライラも、


「そうか……!」


ぱあっと笑顔になる。


ただ……


「ただ……」


とリセイが付け足したことにハッとなり、


「ただ……?」


恐る恐る問い返す。


けれど、リセイが口にしたのは、


「魔王について詳しく教えてください…!」


ということなのだった。


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