K05-05

「桐生さん。お話しいただけますね」


野島源三(のじまげんぞう)はゆっくりと桐生雅史(きりゅうまさし)に向き直ってからそう言い、彼の答えを待った。桐生雅史は教会のベンチに座り、肩を落としてうつ向いたまま答えた。


「ええ」


野島源三は彼のもとまで歩み寄り肩に手を添えた。


「『カイラギ』とはなんなのですか」


桐生雅史が顔をあげ、野島源三を見上げる。


「野島刑事。あなたは生命とロボットとの違いはなんだと思いますか。遺伝子や細胞を持っているものを生命と呼ぶのなら『カイラギ』は立派な生物です。しかも、その細胞は人間の遺伝子からできている。なら『カイラギ』は人間なのでしょうか。『バイオメタルドール』も人間の遺伝子からつられたものです。一方を生物と呼び、もう一方を兵器と呼ぶのはなぜでしょうか」


桐生雅史は自分自身に問いただすかのように答えた。


「人間の都合だな」


「私もそう思います。『バイオメタルドール』は生体金属でつくられた人形と言う意味です。人形には意志がない。ロボットと同じです。人間が操縦してはじめて動く兵器です。では『カイラギ』はどうでしょう。彼らは脳を持ち単独で動きまわりますが、そこに人間のような意志や感情はありません。自立歩行型のAIを搭載したロボットと同じです」


「ああ。アリや蜂と一緒だな」


「そうです。彼らは生物ですが、知的生命体とは呼べません。量子コンピューター『アスカ』はどうでしょう。意志や感情を持っているのだから、体がなくても知的なものです。ロボットの体を与えてあげれば生命体になるのでしょうか」


「体は関係ないと言うことか」


「そうです。生命の定義として大切なのは肉体ではなく魂。精神が宿っているかどうかだと『アスカ』は答えました」


「バクテリアや昆虫などの下等な生物はロボットと同じと言うことか」


「遺伝子と言うプログラムで動く生体ロボットです。私は、陣野(じんの)教授の研究を知った時、人間の遺伝子の中になぜ『カイラギ』をつくり出すパーツが存在するのか。そのスイッチとなる『サースティーウイルス』が存在するのか。『アスカ』に尋ねました。『アスカ』の答えは意外なものでした」


「なんだ」


「人間もまた、遠い昔に量子コンピューターをはるかにしのぐ知能と知性を持ったものによってつくられた兵器の末裔(まつえい)だと」


「そんなバカな。人類がか」


「『カイラギ』の胚(はい)を宇宙にちりばめれば、やがてその星の環境に適応した兵器へと進化し、その星の生物を駆逐(くちく)する。人間の遺伝子の中には侵略に必要なパーツがそろっているのです。食糧が乏しい星なら『カイラギ』のような自らの細胞を食べる自己完結型になります。『バイオメタルドール』もまた、一つの兵器のスタイルです。非戦闘時は人間として訓練し、戦闘時は『バイオメタルドール』に戻って巨大化する。エネルギー消費をおさえる効率の良いシステムです。人間が『バイオメタルドール』に乗った姿が兵器としての完成系で、人間は『バイオメタルドール』を構成するパーツの一つなのです」


「どおりで競争や戦争をやめられないわけだ」


「しかし、長い時が人間を神の子に変えたと『アスカ』が言ってくれました。兵器には必要のない『いつくしむ』能力を獲得したと」


「そうありたいものだ」


野島源三は桐生雅史の答えを聞き、宮本修(みやもとしゅう)のクローンである陣野修(じんのしゅう)のことを思い出した。

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