G02-01

「ねえ、あれなに。お城が海に浮かんでいる」


 海岸沿いにかつてあった遊園地の残骸をみつけて、一年生の星名泉(ほしないずみ)が移動する指揮車の中ではしゃいだ。城のまわりには観覧車やジェットコースターなどの遊具が見える。


「遊園地だな。小さい時に親になんどもつれていってもらったことがある」

本庄卓也(ほんじょうたくや)は『サースティーウイルス』で失った両親のことを思い出した。彼の両親はそこで初デートをして、結ばれ、やがて彼が生まれた。そのせいもあって両親は事あるごとに彼をその遊園地に連れていった。幼かった本庄卓也にとってそこは、幸せを象徴する場所だった。


「取り戻してやる」


彼は拳を固く握って小さくつぶやいた。


「本庄くん、どうかした」


横に座っていた山下愛(やましためぐ)がたずねた。


「いいや。なんでもない」


本庄卓也は指揮車の窓を流れる光景を見つめながら答えた。


 指揮車を先頭に『バイオメタルドール』を積んだ三台の大型トレーラー、その後ろを十数台のタンクローリーが続く。一行はコンビナートや倉庫街の間を通る旧高速道の上で停車した。


「先行するドローンより解体型『カイラギ』2体を確認。回収ポイントを展開します」


オペレーターが指令を伝える。


「本庄、山下、両名は解体型『カイラギ』の排除、星名は回収ポイントの護衛に回ってください」


本庄卓也、山下愛は指揮車の後部に走る。一年生の星名泉がそれに続いた。三人は急いで軍の制服を脱いだ。山下愛が下着を取ろうとした時、本庄卓也が声をかける。


「少し成長したんじゃないか」


山下愛は顔を赤くして胸をおさえた。


「ちょっと。こんな時に。見ないでよ」


彼女は下着をつけたまま『フェイクスキン』塗布室(とふしつ)に逃げ込んだ。ドアの隙間から腕を伸ばして、脱いだ下着を脱衣かごに投げ込んだ。一年生の星名泉がおどおどしながら制服を脱いでいる横で、本庄卓也は下着を下ろして丸裸になった。


「きゃー」


星名泉は彼の下半身を見つめて叫んでから、自分の『フェイクスキン』塗布室に消えた。本庄卓也は笑いながら自分用の塗布室に入る。塗布室の中にはシャワーの口の様なものがいくつもあり、彼がスイッチを入れると、粘り気を持ったライトグレーの粉体が噴き出してきて、彼の体を包み込んでいく。粉体は結合してゴム状の薄い膜をつくって固まった。彼は自分の股間を見て嘆いた。


「ちっ。これじぁ丸見えとあんまり変わんねえな」


本庄卓也は『フェイクスキン』塗布室を出るとヘッドセットを装着して外に出た。自分の『バイオメタルドール』BMD-G05をのせたトレーラーへと走る。山下愛と星名泉がそれに続いた。

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