Z13-03

 久我透哉(くがとうや)の戦い方が『静』なら、陣野修(じんのしゅう)の戦い方は正に『動』とよべた。ローラーのついたブレードを履いて旧首都高を走り回り、よじのぼってくる『カイラギ』の目の前で跳ね、頭部を蹴り砕く。フィギュアスケートの回転技の要領で飛びかかってくる『カイラギ』の首を両手に持った短刀で切り刻む。


 陣野修は道路上の放置自動車や隣接する鉄塔やビルの側壁を戦闘フィールドにかえた。陣野修のあやつるBMD-Z13は、まるでサーカスでもするかのように立体的で複雑な動きをして『カイラギ』を翻弄(ほんろう)した。蜂のように飛び交い、刺す。そんな人間離れした動きが彼の戦闘スタイルだった。


『カイラギ』が現れた当初、軍部は戦車や戦闘機のミサイルを使って迎撃した。しかし、交易を失った状態ではすぐに燃料や弾薬はつきはて、近代兵器は巨大なオブジェとなった。『カイラギ』はある程度、体を損傷すると死と引き換えに背中の呼吸器官から『サースティーウイルス』を空気中に放出した。効果の高い銃器系の武器ほど、

ウイルスの拡大に一役買うと言う皮肉な結果をまねくこととなった。


 ウイルスの放出を止める手段は『カイラギ』がダメージをためる前に神経系統を呼吸器官から切り離すしかなかった。つまり、首を切り落とすか、脳を破壊することだった。軍がそれに気づいた時には、火器系の弾薬は底をつき、仮にあったとしても素早く動く標的に対して首から上を正確に破壊するのは困難だった。


 園部志穂(そのべしほ)はドローンから送られるBMD-Z13の動きをAIの解析に回して驚いた。高速で飛び回ることで敵を混乱させることが目的と思われた動きが、すべて計算づくで敵の頭部をピンポイントで正確に破壊する合理的なものだった。陣野修は戦闘状況の中で、AIよりはやく正確にそれをおこなっていたのだった。


「陣野教授。彼、本当に人間ですか」


陣野真由は園部志穂の質問には答えず、黙って次々とモニターにはじき出されるAIの計算結果を見つめていた。園部志穂の目の前にある熱源検知モニターにうつる8体の『カイラギ』を示す光点が一つまた一つと消えていく。そして、ついに最後の一つが消えた。


『Z13より。ウイルス放出反応なし。排除了解』


BMD-Z13の陣野修からメッセージが打ち込まれてくる。


「Z13へ。こちらもモニターで確認。回収部隊の損害はありません」


園部はそう言ってからつけ加えた。


「『フェイクスキン』の状態確認をお願いします」


BMD-Z13の応答スピードが異常すぎる。考えられる答えは、神崎彩菜(かんざきあやな)の時と同様に『フェイクスキン』が溶解(ようかい)して侵食が始まっているか、陣野修に『カイラギ』の動きを予測して先回りできるなんらかの能力があるかだった。


『Z13より。異常なし』


園部志穂は振り返って陣野真由の顔を見る。彼女は黙ってうなづいた。


「Z13へ。了解です。帰投してください」


園部志穂はヘッドセットをはずすと、BMD-Z13への通信チャットに打ち込んだ。


『お帰りなさい。修くん』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る