第36話 裁く者、裁かれる者①

皇城は落城し、帝国はザルブベイルの手に落ちた。


物語でいえばこれで復讐を果たしたザルブベイルは満足し昇天したのであったとなるのだが当然、そのような事にはならなかった。


皇城が落城する際に殆どの者達がザルブベイルに蹂躙され無残な最期を遂げたのだが、殺されなかった者達もいたのである。


先帝アルトニヌス、皇妃イリヌ、側妃アリューリス、第三皇子シュクルを筆頭に帝国宰相、多数の貴族達、騎士、文官、そして裁判官であった。

人数は全部で三十八名だ。逆にいえば二千名のうち三十八名しか生き残れなかったということでありいかにザルブベイルが念入りに皇城の者達を殺害していったのかがわかるというものである。


生き残った者達は裁判にかけられることになっており、全員が裁判を待つ身として皇城に幽閉されているという状況であった。


彼らが幽閉されている場所は謁見の間であった。謁見の間の広さであれば幽閉された人数をまとめておしこめることができたのである。


「何としても生き残ってくれる」


先帝であるアルトニヌスは小さく呟いた。そのつぶやきはあまりにも小さいために誰の耳にも届かなかった。

周囲の貴族達も同様に何とかして生き残るためにそれぞれヒソヒソと後日行われるという裁判の対策を話し合っている。

武力という面ではザルブベイルの前に完全に屈してしまったのだが、頭脳戦ではそうはいかないという感じで妙にやる気を出していたのである。


(大人しく罪を受け入れた方がまだ楽になれるというのに)


第三皇子のシュクルはそのような周囲の者達の様子を見ながら歎息する。

兄である第二皇子エトラは確かに命を失ったが、その終わりはあっさりとしたものであったという事をすでに聞いていた。


(ザルブベイルは我らに報復しているだけだ。その原因を作ったのは我々、ならば甘んじてかれらの報復の刃を受けるしかないではないか)


シュクルはわずか十二という年齢に関わらずその責任感はこの場にいる裁判を待つ者達の中で最も有していると言えるだろう。

シュクルとて死ぬのは恐ろしい。死が目前に迫れば見苦しく取り乱すかもしれない。だがそれでも皇族の責任感から逃れるつもりは一切なかったのである。


「大丈夫だ。ザルブベイルは裁判を行うということは無実を証明出来れば・・・・・・・・・殺されることはない!!」

「そうだ!! 俺たちは無実なのだから殺されるいわれはない!!」

「ザルブベイルは元々、公平公正な連中だ。証拠もなしに死刑にするようなことはしない!!」


貴族達は自らの不安を吹き飛ばすように少しずつ声が大きくなっていく。


生への渇望のため、ザルブベイルがどうして裁判を受ける者達を一つの場所に幽閉しているのか気づいていない者達がほとんどであった。

本来であれば証拠隠滅、口裏合わせが行われる可能性がある以上、個別に幽閉するはずである。にも関わらず一つの場所に幽閉をするというのは、この裁判が通常の裁判でない事の証拠であった。


裁判を受ける者達は七日後の裁判の時にその事を思い知らされるのであった。

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