第30話 落城③

 クルムが皇帝であるエトラを殺害したとほぼ同時刻にエミリアも後宮へと突入していた。

 後宮に突入したエミリア達がやったのはそこで働く侍女達をアンデッド化させる事であった。エミリアが侍女達をアンデッド化させるのは皇帝一家の居所に案内させるためである。

 エミリアは恐怖に立ちすくむ侍女の集団に飛び込むと容赦なく侍女達の命を奪う。侍女達は叫び声を上げることもなくエミリアの手にかかるとすぐにエミリアの手によりアンデッドとなった。


「皇帝一家の所に案内しなさい」


 エミリアの言葉にアンデッドとなった侍女達はコクコクと何度も顔を縦に振った。自分達がアンデッドとなったことにより、エミリアとの格の違いがわかるようになったために心が折れたのだ。

 また、ザルブベイル一党がいかに残酷に帝都の民を虐殺し、自分達を救いに来た諸侯の軍達も一方的に蹂躙されたかを聞いていたのでもはや逆らおうという選択肢は彼女たちには無かったのである。


「こ、こちらです」


 エミリアと同年代の侍女がエミリア達を先導する。エミリア達はその先導に黙ってついていく。アンデッドとなった侍女はもはやエミリア達に逆らう事は出来ないためにエミリアは警戒しない。


 先を歩く侍女は通路の途中で立ち止まると声を震わせ壁を指差しながら言う。


「そこに兵士が隠れています」


 声を震わせながら侍女はエミリア達に伝える。それを聞きエミリアはニヤリと嗤って侍女に声をかける。


「それで良いわ。もし言わなかった場合はあなたには報いをくれていたところよ」


 エミリアの言葉に侍女は身を震わせ恐怖の表情を浮かべた。実の所、エミリア達は壁に何者かが隠れている事は察していたのだ。アンデッドとなったエミリア達は感覚が研ぎ澄まされており半径二十メート以内では体格までわかるぐらいである。


「さて……」


 エミリアはちらりとヘレンに視線を移すとヘレンは頷き瘴気で槍を形成し、そのまま壁を貫いた。壁を貫いた瘴気の槍は三分の二ほど壁に突き込まれるとしばらくして柄から血がしたたり落ちてきた。


「それじゃあいくわよ」


 エミリアはそう言うと侍女に命令を下すと恐怖の表情を浮かべたまま侍女はエミリア達の先導を再開した。


 エミリア達はそのまま後宮を突き進む。


「こ、こちらでございます」


 侍女はエミリア達に向かってそう言うと頭を下げる。侍女が止まった扉は、皇妃の私室である。


(女性が……六人……少年が一人……兵士が十人)


 エミリアはその鋭敏な感覚で部屋の中にいる者達の数を大体把握する。ヘレンとアミスも同様のようで、忠実な二人の手にはすでに瘴気で形成された剣が握られていた。


 きゃぁぁぁぁぁぁ!!

 いやぁぁぁぁぁぁ!!

 助けてぇぇぇぇぇ!!


 エミリアの背後から女性達の悲鳴が聞こえてくる。どうやらザルブベイルの家臣達が後宮内に突入し侍女や女官達を手にかけているようである。


「開けなさい」


 エミリアの言葉に侍女は頷くと扉を開いた。その瞬間に数本の矢が放たれた。エミリアは侍女の頭を掴み自分の前に持ってくると数本の矢が侍女の体に突き刺さった。

 ヘレンとアミスは手にしていた剣で自分に飛来した矢を叩き落とした。本来であればヘレンとアミスがエミリアを守るのだがエミリアが侍女アンデッドを盾にするのを見たからである。


「な……」

「侍女を盾に……」


 兵士達の口から呆然とした声が発せられた。不意を衝き斃せないまでも次の一手を打とうとしたのにエミリア達に何らダメージを与える事が出来なかったからだ。


「こんにちはイリヌ皇妃、アリューリス側妃、シュクル第三皇子」


 エミリアの言葉に皇妃達の顔が凍る。シュクル第三皇子がさりげなくアリューリス側妃を守る位置に立った。


「そして近衛騎士の皆様方……たった十人で私達を止められると思っている所が愚かですね」

「うおぉぉぉぉぉ!!」


 騎士達は剣を構えると破れかぶれでエミリア達に襲いかかってきた。エミリアは盾として使用した侍女をそのまま騎士達の方に突き出した。侍女は二、三歩前に進んだところで瘴気が彼女の体を覆うと死者の騎士へと変貌した。


「な……」


 先陣を切った騎士は突如現れた死者の騎士に顔を強張らせたが勢いを止める事が出来ずにそのまま死者の騎士の間合いに入ってしまった。大剣が振るわれると騎士の体が両断された。

 両断された上半身はそのまま床に落ち、下半身も数歩進んだ後に力を失って斃れる。


「きゃあああああああああああああ!!」


 アリューリス側妃の口から絶叫が響き渡った。アリューリスが絶叫を放つと同時にヘレンとアミスが手にしていた剣を投擲した。投擲された剣は皇妃と側妃の傍らに立っていた女官の顔面に突き刺さった。

 同僚二人が殺された事に対して残った女官が恐怖の叫びをあげるよりも早くヘレンとアミスは動く。

 女官が気づいた時にはすでにヘレンとアミスの貫手が女官の喉を貫いており、女官はビクビクと痙攣していた。


「アンナ……ミュリー……」

「あ……あぁ何てこと……」


 既に絶命している女官達を見てイリヌとアリューリスは声を詰まらせながら言う。


 騎士達もすでに死者の騎士達によって肉片と変えられ皇妃の私室に散らばっていた。


「さて、静かにお話が出来そうですね。皇妃様、側妃様、第三皇子様……」


 エミリアは静かに生者達に告げた。

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