5-107 闇の世界6







「……なるほどね。何でアタシなのかは、おぼろげに判った気がするわ。だけどね、もう一つの質問に答えてもらえる?」



『ワシが何者かということか?』



その言葉に、サヤは腕を組んで頷いて見せた。

姿がない存在でも、その行為は認識できているのだという確信をもって。


そして、その考えが外れていないことを存在がたいおうしてみせたことで証明した。




『……そのことだが、それはワシにもわからん。自分が何者か判らんのだ、おかしな話だろ?』



この存在も、気付いた時からこの場所にいたという。

初めから身体がないため、そのことに対して何ら不思議には思わなかったという。

ここは場所が場所だけに、ここに来ることができる生き物は空を飛べるものか、この崖をなんとも思わない移動能力を持っている生き物に限られていた。



「……それで、アンタはそこで何をしてたの?」



その存在は、この世界を観察することを続けていたという。


そこにたどり着いた生き物たちは、何を目的としてこの場所を目指してくるのか。

この世に創られた意識だけの存在の興味は、そこに注がれていた。


すると、外敵から身を守るためにこの洞窟の中を住処にするものが出始めた。


小さな飛行能力を持たない昆虫のような生物が、ここに拠点を構え同種の生物たちも同じようにこの場所で生き延びる環境を構築していった。

だが、それは長く続くことはなかった。


後から、羽を身に付け集団で行動する昆虫が、この場所に目を付けた。

最初の昆虫にとっては楽園を荒らされ、後から来た昆虫にとっては新しい餌場となった。

だが、次にそれを見付けた鳥類がその羽をもつ昆虫さえも餌とされ、洞窟の中の生き物たちの勢力は時間の中で入れ替わっていく。

そこでその存在が学習したものは、弱肉強食の世界。

弱い者は、より強い者たちにその命を奪われていくという掟。




次にその存在が見つけたものは、目には映らないものだった。

この世界を創る四つの力とは別の、二つの力のうちの一つ。

闇の力、のちに魔素と言われる力だった。

意識だけの存在のため、自らの周囲に流れる魔素だけは変化させ扱うことができた。

その力を使い、まず始めたことは真似をする事だった。


運よく近くに来た昆虫の身体を、魔素の力によって取り込むことができた。

これが、この存在がこの世界に初めて介入した出来事だった。




『――!?』




不思議ことに、取り込んだ昆虫は魔素の中で分解され、その情報が意識の中に流れ込んでくる。



『ほぉ。こいつらはこんなことを考えておったのか……』



その情報は、この昆虫たちが与えられた本能ともいうべき行動理論。

ただ生きていくためだけに喰らい、種族を維持するために行為し、自らの身を守るための防御をする。



その存在はそこから、様々な生き物たちがどのように考え行動しているのかガ気になり、それを知りたいと強く願うようになり行動していく。

様々な近付いてくる生き物を捕食し、分解し解析してその欲を満たし続けていった。










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