5-93 ヴァスティーユ5
「そうだね……親か……一度も結婚したことはないんけどさ。そんなことより、あんたにはこれからあたしのために頑張ってもらわないといけないからね。長い間……ずっとね」
ヴァスティーユはその言葉の意味が、ところどころがよくわからなかった。
だが、お願いされていることは理解できた。
そして、妹とは別にもう一つ気になっていたことをサヤに確認する。
「あの……なぜ助けて下さったのでしょう?」
「何言ってんだい?あたしは助けてなんかないよ」
「え、でも……こうして……生きて」
そう言いかけた時、この場所へ来る直前の記憶が再びよみがえる。
あの時、あの男から守ってくれたのは目の前の女性で最後に手を伸ばして”何か”をしたのもの同じ人物だった。
「生きている……っていうか生存しているだけかな。あんたが言う”生きている”って言うことに対して説明するならね」
「……?」
ヴァスティーユはよくわかっていない顔をしていたが、この問題は正しく説明しないとヴァスティーユの疑問は解消されないとサヤは判断した。
「いいかい?あんた……いや、あんたたちは死んだんだよ。このあたしの手にかかってね」
サヤは、実験用の素材を探していた。
だが、それは今までの結果から誰でもいいというわけではなかった。
サヤが今回探していた素材の条件は、『強い悪意を持つ者』だった。
しかし、それを聞いたヴァスティーユはさらにわからなくなった。
自分には悪意がなかったと感じている、恐怖や悲しみはあったが悪意などは抱いていないと告げた。
「そんなわけないよ。あんたには強い悪意……殺意があった。覚えてないのか?あの茂みの中で、あんたの妹を見つけた時のこと」
「……あ」
「……思い出したようだね。そう、あの強い殺意を感じて、あたしはあんたのことを追いかけたんだよ」
そしてサヤはヴァスティーユの気配を探して追いかけていると、あの集落にたどり着いていた。
そこには、一人の男が怒りで心を中を満たし、その感情のまま行動を起こしていた。
だが、その悪意もあの時感じたヴァスティーユの濃度には到達していなかった。
「なぜ、あの集落の者を全て殺したのでしょうか」
「それはね、実験もあったけどあたしのことを知る者やそれにかかわる形跡を残さないためだね。あんただけ連れ去ったら、どこに消えたのかっていう疑惑が残るじゃない。だから、あの集落の者全員を対象にすれば、それ以上問題になることはないよね?」
ヴァスティーユに届いたサヤの言葉は、きっと恐ろしいことを言っているのだろうと感じていた。
だが、あの時感情が壊れてからは恐れなどのデメリットの感情は一切湧いてこなかった。
とにかく、今は妹を何とかしてほしいとサヤに伝えてみた。
「……あぁ。そのことだけど、今は力を貯めなきゃいけないからすぐにはできないね。だけど、あんたの妹の意思はここに残ってるから、それに合う身体さえ見つかればこれを入れて適合すれば復活するよ。まぁ、外見が変わるのは勘弁してよね、元の身体はもうぐちゃぐちゃになっちゃったからさ」
サヤはそういって、蠢く肉塊の方を指さして自分の実験の失敗した痕跡を笑って見せた。
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