5-44 緊急事態
ステイビルたちの馬車が王都に入ると、既にいつもと違う空気が流れている。
街中に差し掛かると、普通の人々ではなく王宮の警備兵たちが訓練された動きで各人が与えられた命令をこなしていた。
テイビルたちの馬車に気付いてはいたが、自分たちの命令を遂行するためだけに必死になって行動していた。
ステイビルもそんな者たちに声を掛けることはしない、何らかの緊急事態が発生している中でその行為を止めることは自らの国を危険にさせてしまう。
走り回る兵の行動を邪魔をしない様に、馬車は王宮に繋がる大きな道を事故が起きないような速度で走らせていった。
そして、馬車は王宮の敷地内へ入る門の前に到着し、門の内側に向かって大声で呼びかけた。
「ステイビルだ!フレイガルより戻ってきた、門を開けよ!!」
その声のあと、少しばかりの時間が過ぎてゆっくりと門が開き、二台の馬車は王宮の敷地内へと進んでいった。
「どうした……?これは一体、どういうことだ?」
ステイビルは、門を開けた兵士に今の状況を説明するように求めた。
だが、その兵士はステイビルが求めた答えではない言葉を返す。
「王子!……すぐに王のところへ行って頂けますか?」
「……!?わかったすぐに行こう!」
とにかく何か問題が起きているということだけを感じ、ステイビルは兵士の言葉に従うことにした。
ステイビルたちは馬車を王宮の近くまで走らせ、急いで降りて王の部屋まで向かっていた。
ハルナたちもステイビルの後を追って、王の部屋へ向かっていく。
その途中ですれ違う者たちの表情は険しく、今まで見てきた優雅で落ち着いた王宮の空気とは違っていた。
走ることはしなかったが、一刻でも早く着くために歩く速度はハルナたちが追いつくのがやっとの速度だった。
扉の前に立つ左右の兵がステイビルの姿を確認すると、互いに取っ手を持ち扉を引いた。
中の様子を確認しつつ、ステイビルはそのまま部屋に入り、自分のことを必要としている父親に声をかけた。
「父上!……これは一体!?」
部屋の中は、大きなテーブルを囲むようにして人が集まっていた。
そこには父であり国王のグレイネス、その隣にはローリエンとハイレインの姿がある。
そして騎士団長のヴェクター、王宮精霊使い長のシエラの姿もある。
一番気になったのは、西の王国の人物であるニーナと幾人かの西の王国の人物の姿がそこにはあった。
「ステイビルか、よくぞこのタイミングで戻ってきてくれた」
その眼はいつもの王の目ではなく、作戦を検討するための司令官としての眼だった。
そのことからも、この事態が正常ではないということをうかがわせた。
「何か……あったのですか?」
ただならぬ雰囲気の中、問題の確認が先決とステイビルは挨拶もせずに話を進める。
騎士団長のヴェクターが王に変わり、今まで聞いた話をステイビルたちに説明をしてくれた。
西の王国から救援要請があり、今はその一陣が出発した直後だった。
現在、西の王国では魔物の襲撃に合い、城と町が占領されてしまっているという。
ニーナとともにいる兵と精霊使いは、カステオからの命令でニーナを逃がすようにとの命令を受けてすぐに町の外に逃げ出したという。
その時に見た情景は、悲惨なものだったという。
兵や一般市民関係なく、魔物は無差別に襲い掛かっていった。
ニーナたちは山の中に逃げ込み、街道に沿って進み山を越えて逃げ出してきたという。
山に入ってからは、味方のコボルトの手を借りて東の国の方へ山を越えてきた。
ボロボロになったニーナのドレスが、急いで国を逃げ出してきたことを伺わせている。
「いま西側がどのような状況かはわかりませんが、こちらまでの被害は起きておりません。王の命令により、第一陣を出発させたところです」
ハルナはマギーのことも心配になったが、この場でおこなう質問ではないためぐっと堪えた。
「そうか……」
ステイビルは、王に変わり説明をしてくれた騎士団長に礼を告げた。
そして、再び王に視線を合わせて問いかける。
なんとなくだが、ステイビルは王から頼まれることがあるような気がしながら。
「……それで、私に何か依頼したいことでも?」
「お前たちはモイス様と一緒にいらっしゃると聞いた。モイス様は今どちらに?」
その問いに答えたのはエレーナで、とても言いづらい答えだった。
「それが……モイス様は、いまどちらにいらっしゃるかわからないのです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます