4-152 それぞれの時間
「ふ……わぁっ……ふぅ……ん……はぁっ!」
ハルナは背伸びをして、欠伸のようなため息のような息を吐いた。
昨日の夜のことで寝不足ではあったが、そこまで酷い疲労感や眠気はない。
時々頭がボーっとすることもあるが、特に問題はなかった。
今日は何もせずに、明日の王都へ戻るための休養日とした。
それぞれが、自分たちの好きなように過ごすことを許された。
一人で過ごさなくてもいいし、誰かと行動を共にしても構わない。
サナとブンデルは、二人でまた町の外へ出ていった。
この場所が砂漠の地帯であることに疑問を感じ、調査したいと言って出ていった。
エレーナはアルベルトと一緒に町の中に出かけた。
まだ、入っていないお店が数件残っていると、アルベルトは腕を掴まれて引っ張られていった。
この場合、食べ物ではなく飲み物……お酒がメインとなる。
ハルナも誘われはしたが、今日の体調だとエレーナのペースで付き合うと悪酔いするのが目に見えるため断った。
ハルナはまた、中庭でくつろいでいる。
メイからデッキチェア勧められ、日差しの強い日中をパラソルの下でゆったりとした姿勢で日陰の風を感じてゆったりとする。
横のローテーブルにはソフィーネが持ってきてくれた冷たい氷の入った果実水が置かれ、グラスを流れ落ちた水滴で水たまりができている。
『ハルナ様、お願いがございまして……明日は王子と一日過ごさせていただけませんでしょうか?』
今朝の別れ際、メリルはハルナにそう告げた。
ハルナは返答に困っている。
正直なところ、自分に承認を求める必要のない話だと思った。
だが、もう考えることに疲れたハルナは、そこに意味も感情も込めずに”はい”とだけ返事をした。
そのこともあって、今日一日はステイビルはメリルと共にいる。
どこかに出かけると思っていたが、ずっと二人でステイビルの部屋の中に閉じこもっていた。
(私のことなんて気にする必要なんてないと思うんだけど……)
何か怒りにも似た感情が、ハルナの中に浮かび上がってくる。
だが、それは横取りされたとか恋愛的な感情から湧き上がってくるものではなく、面倒なものに巻き込まれたといったような感情から生まれてきていた。
「ハルナ様……どうかされましたか?眉間にしわが寄っておりますよ?」
ソフィーネがハルナの様子を見て、話しかけてくれた。
それによって、悪い思考に入りかけたことが阻止され、後から思い出して自己嫌悪に陥ることもなくなった。
「あ、ありがとうございます。ソフィーネさん……大丈夫です。それよりも、ソフィーネさんは休まれなくていいんですか?」
ソフィーネが持ってきたトレイの上には、お茶の入ったポットとカップが二つある。
二つのカップにそれぞれお茶を注ぎ、一つはハルナに一つは自分の近くに置き椅子の上に座った。
「はい。明日の準備は終わりましたし、今日は特に用事もございませんのでハルナ様のお近くでお世話をさせていただければと思うのですが……もしご迷惑であれば」
「め、迷惑だなんて!?……ありがとうございます。いろいろと考えすぎてしまって……一人じゃちょっと悪いことばっかり考えてしまうし。もし、ソフィーネさんにお時間があるなら助かります!」
「あら、ハルナ様ならわたくしにご命令くださるだけでそのようにいたしますが?」
「そういうの……ちょっと今はきついです」
「フフフ……申し訳ございません、ハルナ”さん”」
そこから二人は、緩やかな時間を共に過ごす。
他愛のない話しが、ハルナの心の重くのしかかってたものを軽くしていった。
いつしか二人の手元のお茶と焼き菓子がなくなり、ポットの中も空っぽになってしまっていた。
「どうされますか?お代わりお持ちしましょうか?……それとも、そろそろお昼のご用意をいたしましょうか?」
「ソフィーネさんは?」
ソフィーネは目線を上に向け、少し考える素振りを見せる。
「なにか軽食をご用意しまして…・…ここでご一緒にいかがですか?」
そのソフィーネの提案を、ハルナは喜んで受ける。
ソフィーネはにっこりと笑顔で返事をし、今テーブルの上に並べられたものを片付け始めた。
「あの……ソフィーネさん」
「……はい、なんでしょう?」
「仮にですよ?別に恋愛感情とかない相手がいたとして……周りがくっつけようとしていたら……どうすればいいと思います?」
ソフィーネは質問の最後の言葉が気にはなったが、あくまで”仮に”として考える。
「その裏に、政治的、経済的や戦略的な要素がないと考えた上ですと……ハルナ様のお心のままに判断された方がよろしいかと思います。でなければハルナ様が不幸になってしまいます。その方とよく話し合いをなさって、お決めになられた方がよいかと判断します」
「そ、そうですよね……!?」
「はい。ハルナ様にはエレーナ様もいらっしゃいますし、皆さまと相談されるのも一つの手ですよ。それに……」
「それ……に?」
「わたくしは何がありましても、ハルナ様の味方ですわ」
「ソフィーネさん」
「さ。お食事の用意をしてまいりますので、少しお待ちいただけますか?」
「はい!」
ハルナは、自分のことを隠しながら質問したはずが、自分のことになっていたことに疑問を感じた。
だが、いまはもうどうでよくなり、ハルナの心は軽くなっていた。
「ハルナさん……お待たせしまし」
見るとハルナは、テーブルの上でうつ伏せになって眠っている。
ソフィーネは後ろからそっと、ブランケット掛けた。
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