4-150 チェリー家の屋敷で8
「ハルナ様……ステイビル王子のことを……どう思っていらっしゃいますか?」
「は?……え?」
メリルからの問い掛けに対し出た言葉は、素直なハルナの気持ちだった。
ハルナ自身、ステイビルに対して特段特別な想いを抱いているわけではない。
この前にもエレーナからも同じようなことを言われて、驚いた反応が口に出ただけだった。
だが、過去にも――とはいっても、向こうの世界で――こういう質問をされたときには、その相手から執拗な嫌がらせを受けた経験が何度かあった。
だからこそ、この質問は色恋に関するものであるとハルナは気が付いた。
ハルナは、瞬時にメリルへの回答を考える。
こういう場合、”なんとも思っていない”と答えても相手は信用してくれない。
対象となる男性は、ハルナの数少ない交流のあるグループの中にいること多かった。
そのため否が応でも、その男性と顔を話をしたりすることがある。
それはハルナには、相手に対して”全くその気がなかった”にしても……だ。
恋する女性たちは、それでもハルナのことを気に入らなかった。
いくら関係がないといっても、最小限の可能性を排除するためにもハルナにその相手との接触を拒否するように要求してくる。
相手を納得させるには、それに従うしかなかった。
だが、そのことをおかしく思う男性は、その異変に気付きハルナに執拗に話しかけてくる。
それが相手の女性を面白くさせないようで、ハルナに対する嫉妬はエスカレートしていく。
そのことに怯え、ハルナは人と付き合うことを遠ざけてきた。
だからこそハルナは、ゲームの世界の中にハマったのかもしれない。
ゲームの中の世界では、それぞれが自分ではない架空のキャラで活動をしている。
キャラクターも運営側が用意した当たり障りのない容姿に出来上がるので、外見だけで判断されることもない。
その空間が、ハルナにとってはとても居心地がよかった。
構成年齢は比較的成人、特に社会人が多いギルドだったためそこまで性別に関して問題が起きるようなことはなかった。
そこで、ハルナは疑問に思う。
先ほど、ステイビルの部屋からメリルが出てきた際に、普通では付着しないくらいの量のステイビルの体臭がメリルから漂ってきた。
それほど濃厚接触しているメリルから、そのような質問を出されたことにハルナは疑問を抱いた。
メリルの質問を受けてから、ここまでおよそ数秒。
これ以上は、”何か策を練っているのでは?”と勘繰られる危険が生じる時間帯。
ハルナは、カップをテーブルの上に置いて表情を作り、メリルに向きあう。
その表情を感じて、メリルも姿勢を正してハルナの目を見つめる。
二人の間を、乾いた風が通り抜ける。
「あ、あの。ステイビルさんは、とても良い方だと思います。これからの国を担われるお方ですもんね?」
ハルナは、フユミに聞いたことを思い出した。
フユミも素敵な女性のため、知らない女性からも疎まれとが度々あったという。
度々という言葉に、ハルナはフユミさんならと頷いたことを覚えている。
その時、対象となる相手を貶したりすれば間接的に女性こを見下しているととられ、全力で否定すると疑われれると言った。
そこでどうすればいいかと尋ねると、当たり障りなく褒めることとフユミは教えてくれた。
そうすれば、相手は嫉妬を持たずに自分にはその気がないことをわかってくれるのだという。
ハルナはその話しを思い出し、メリルに答えたのだった。
そのことに疑問を感じた
それでも怒っている場合はどうすればいいかと
そんな人を相手にする必要はないという。
商売の女性に本気で入れ込む男なんてろくな人はいないとフユミは言う。
そんな男に惚れている女性もまた、そう言うことであると。
適当に応援して引き取ってもらう方がいいと教えてくれた。
メリルはそのハルナの答えに対し、さらに質問を重ねてくる。
「では、もしもステイビル王子から結婚してほしいと言われた場合……どうされますか?」
この問いに対しては、答えを用意していなかった。
ハルナはもう、素直に答えるべきであると決意し、今の自分の本音を伝える。
「気を悪くされたら……その、すみません。私、ステイビルさんのこと、そういう対象として見たことはないんです。エレーナにもそんなこと言われたことがあるんですけど……私、別の世界からきてますし……いや、それよりも、仲間としては慕ってますがそれはソフィーネさんやアルベルトさんとも同じ仲間で、それで……」
話の途中で、メリルはハルナの手を取り握る。
驚いたハルナは、何を話そうとしたのかも忘れてしまい口が開いたままになった。
そしてメリルは、真剣な目をハルナに向けたまま告げた。
「私……二番目でもいいです。ハルナさんなら……ステイビル王子と……」
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