4-145 チェリー家の屋敷で3
夜も更け、チェリー家の屋敷の敷地外から町の中を巡回する警備兵の馬車の鈴の音色が聞こえてくる。
見回りの際に、警備兵であることを知らせるため、馬車に鈴をつけて走るようにした。
警備している居場所がバレて犯罪に、利用されるのではないかという意見もあった。
しかし、騒動のあとこの町の犯罪件数はほぼゼロになっていた。
あったとしても、組織が関わっていない個人的ないざこざが起きているだけだった。
そのため、何か起きた時にすぐに頼れるように居場所を知らせている方が、町のために良いという判断となった。
今では夜に響くその鈴の音が、短期間ではあるが市民が安眠するために欠くことのできない音となっていた。
寝室、ベットの上で横たわるステイビル。
その隣にはメリルがゆっくりとした呼吸で眠っている。
ステイビルは、メリルの言葉を思い出す……
『私は側室でも構いません……ステイビル王子のお傍に居られるのならば……』
その前に、メリルに今のメンバーの関係性について問われた。
メリルはハルナがステイビルの相手にふさわしい女性だと思っていた。
女性特有の”勘”がそう告げていたという、エレーナはアルベルトという男性がいるようなので、消去法で考えてもハルナになる可能性が高いとも考えていた。
メリルも王国の法律を調べても、どこにも妻を一人と制限する法律はない。
一般的な常識として、国民が妻や夫を一人としてきめているだけなのだ。
中にはそういった一般的な枠組みから外れ、自分たちの思うがままに生きている者もいた。
もちろんそこには、それなりの生活力を持つ者、そのような状況を許されるような人間性を持った者たちであった。
ステイビルはさらに昔のことを思い出していく。
それは、ステイビルとキャスメルと共に過ごし、いよいよメリルが役目を終え二人の傍を離れようとした時……ステイビルはメリルに今の自分の気持ちを伝えた。
当時メリルはその言葉に驚きを見せたが、ゆっくりと微笑んで気持ちだけ受け取っておくと返事をくれた。
その言葉にステイビルは、本気にされていないと感じ、王選に選ばれるようにとメリルに告げ、一緒のメンバーになった際には必ず一緒になることをメリルに誓った。
その言葉にメリルは涙を流し”自分も必ず精霊使いになる。そして、王選に選ばれた時は……”と約束を交わした。
そしてメリルは王都を離れる際に、メリルを精霊使いの訓練施設に入れることを約束し離れた。
だが、王選は結果はこのような形となった。
このことについて、ステイビルはどう思っているのか……約束をこちらから破ってしまったことに対して。
もともと無理のある話しで、小さい頃の約束を交わしたあの時のままのステイビルでいるはずがない可能性もある。
メリルは一年近く砂漠の中で閉じ込められている間、希望と絶望が入り混じる中で過ごしていた。
だが、こうして助けに来てくれたことが、メリルにとっては嬉しかった。
メリルは、約束を破ってしまったことと、助けてくれたお礼を直接ステイビルに伝えたくてこの部屋にやってきた。
ステイビルもいまだに、あの頃の想いが胸の中に残っている。
だが、棘が刺さったような痛みも覚える。
メリルのことは、キャスメルも心を寄せていた。
お互い言葉には表していなかったが、双子にはそのことが分かっていたはず。
一緒にいる間は、二人の姉として認識をしていた。だが、王都を離れると決まってからは、二人に独占欲が生まれてくる。
どちらに傾いても、片方は傷付くことになることも分かっていた。
だからこそこちらからではなく、メリル自身に選んでもらうように二人で決めた。
ステイビルは、その約束を破ってしまった。
ステイビルは、キャスメルがいないところでメリルを呼び出した。
そして、自分の想いをメリルに告げた。
(私は……なんと自分勝手なことをしたのだろう……)
このことを知ったら、キャスメルはどう思うか……
ステイビルは、キャスメルがこの町を早々に離れてくれたことに安心していた。
だからこそ、キャスメルがソイランドを急いで離れたことに対して何の感情も抱かなかった。
そしてステイビルは視線を自分の隣で眠るメリルに向ける。
今でもあの時の想いは決して嘘ではないと言える……はずだ。
こうなったことにも、喜びしかないはず。
ステイビルの心の奥には、何かモヤモヤと霧がかかったまま晴れなかった。
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