4-134 ガラヌコア
「あ、見えてきました!あの建物がそうです!」
ハルナに声を掛けられたステイビルは、進行方向にある板を横に滑らせ窓を開ける。
馬車は砂漠の上を走っているため、車輪に板状のものを装着して走行している。
そのため速度は車輪に比べゆっくりではあるが、これだけの人が歩いて行くよりかは早く到着できた。
そこから時間も掛らずに、初めの目的地へ到着した。
「それでは、頼んだぞ」
「「お任せください、王子!」」
ステイビルの声かけに、勢いよく返事をするクリミオとシーモ。
調査をし日が落ちる前にステイビルたちが戻らなければ、異常が起きたと考えソイランドに戻るようにした。
行き来は問題ないが気軽に移動できる距離でもないため、ステイビルは時間をかけて調査したいところではあった。
その言葉にソフィーネは、ある程度村の中を見て回ったが特に何もなかったことを告げる。
だが、その周囲の状況について問うと、その情報は持ち合わせていないとのことだった。
ステイビルが気になっていたのはソフィーネほどの人物を惑わし、エルフの村を混乱に陥れたその存在。
王国に裏から仕掛けてくるような存在が、軽視できない程になってきた気がしていた。
だからこそ、接触をしたことによる形跡が濃く残るうちに、何らかの情報を持ち帰りたいと考えていた。
その探索がいつまで続ければよいのかわからず、そのために人を動員すれば気付かれて逃げられてしまう可能性もある。
だからこそ、二つの拠点の探索を行うことのついでとして、今回はステイビルの意見を取り入れたのだった。
二つの馬車は、移動を開始する。
ここからガラヌコアまでは、同じような距離を進んでいかなければならない。
手綱を握る者も、アルベルトとソフィーネに代わり、ここからはステイビルに近い者たちだけで進んでいく。
幸いにして、あの強い風は夜中にしか吹いていないため進みやすい状況ではあった。
反対に照り付ける太陽の熱によって、馬車の中の温度はサウナのようになっていた。
メリルの案によって大きな氷を作り、フウカとハルナがそれに向けて風を起こすことによって馬車の中の温度は快適とまではいかないまでも、体力を奪うほどの暑さを回避することはできた。
移動の際の荷物で、水が不要だったことも進行速度に貢献している。
砂漠を超える際に、必要な水を用意するとなるとそれなりの重さが馬車にかかってくる。
その分、人員または荷物を少なくする必要があるが、水の精霊使いが二人もいればそういう心配は無用だった。
この辺りの治安が良くなれば、旅をする者たちに水の精霊使い達を同行させるサービスもあると便利かもしれないとステイビルは頭の片隅に記憶した。
太陽が頭の上を越えて、影が少し伸び始めた頃。
ある一区画の中で不規則に建物が点在するのが視認できるようになった。
「あれが、ガラヌコア……か」
独り言のように発した、ステイビルの言葉が間違いでないことをソフィーネが告げた。
町の入口に到着し、ステイビルたちは馬車を降りて町の中を進んでいく。
いまにも誰かが出てきそうな感じがするが、ここの住人はすでにこの世にはいなかった。
ソフィーネの手によって、全ての住人の魂をこの世から解き放っていた。
もともとガラヌコアには、昔からここで生活を営んできた者たちがいた。
だが、いつの日かこの場所に目を付けた者たちが次第に乗っ取り、元いた住人はこの町を手放していった。
そして、砂漠を往来する者たちを餌食とする者たちが住まう拠点に代わってしまった。
ステイビルはとある建物の扉を引き、開いてその中を見る。
血の付い床の上には、その持ち主であった死体はすでにない。
これも警備兵が、すでに回収をし調べるためにソイランドまで持ち帰っていた。
そして、ステイビルはさらに奥の部屋へと進んでいく。
「王子!ステイビル王子!!」
メリルが、大声を出して辺りに呼び掛けているが返事はない。
声を聞きつけた、ハルナとエレーナたちが何事かと集まってくる。
その顔は白く、怯えて何かが起きたのだと感じエレーナが声をかけた。
「……メリルさん、どうしました?」
「王子が……ステイビル王子が……見当たらないんです!?」
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