4-65 ブンデルとサナ3
「あぁ、大丈夫です。ドワーフの中には嘘を見抜く魔法を使える者もいますから。あなたが嘘を言ったかどうかはすぐにわかりますので」
「それは……素晴らしい魔法ですね」
パインは感情を抑えつつ、いままで一言も言葉をしていないドワーフに意識を向ける。
だが、ドワーフはなにも言葉を口にせず表情も一定に保ったままパインの方を見つめている。
パインは思考を巡らせる。
人間には魔法を使えるものがいない。
そのため、その魔法がどのように発動し、どのようにその効果が表れるのか。
精霊の力のように、その場でその力を具現化させるようなものであればわかりやすいが、防御系や探知系といった力であれば対象者以外にはその力の効果がはっきりとしないであろう。
それ故に、いま既にこの魔法が発動され、監視されている状態と考えた方がいい。
でなければ、目の前のエルフは初めにそんなことを言う必要は全くないのだから。
黙っていた方が、有利に進められる状況をわざわざ反対の立場にいる我々に伝えたのだとパインは結論付けた。
パインはこの場の空気を五感以上の感覚を用いて、全て見逃さない様に気を張り詰めた。
だが、それも次のブンデルの質問で全てが崩されてしまうことになる。
「ところでパインさん……」
「は、はい!……なんでございましょう?」
「ステイビルさ……いえ、ステイビル王子を幼い頃からご存じとお伺いしていましたが。小さい頃は、どのような方だったのですか?」
「え?……あ、はい」
パインは、自分が設定した警戒レベルをはるかに下回る内容にの問いに気が抜けた返事をしてしまった。
「……どうでした、王子の幼い頃というのは?やはり今でもその面影があるのですか?」
「そ、そうですね。王子は双子で、幼い頃は……」
そこからブンデルは次々と質問を繰り出していく。
昔の思い出、パインの好物、ソイランドに存在する古い家系の一つとしての内情……
王選の関係の有無にかかわらず、ブンデルは話題を投げかけていく。
始めのうちは誘導尋問をされているのかと警戒をしていたが、ブンデルの問いかけはこの場にふさわしくない落ち着いている内容だったため一つ一つ怪しまれないよう丁寧に返答を重ねていった。
――サナは感心する
ブンデルが、こんなにも初めての相手に対して会話を進めていく能力が長けていることに。
時々、自分も楽しそうな会話の中に入っていきたい衝動に駆られるが、それはブンデルから事前に止められていた。
表情は変えずに、ただ相手のことだけを見ているようにと言われていた。
サナは”もし話しかけられた場合は?”と、ブンデルに質問した。
その答えも、”何も言わなくていい”だった。
実際に何度かサナに話題を振られていたが、全てブンデルがその質問を引き取りパインに返していた。
時間にしておおよそ二十分が過ぎた頃、この場の流れをブンデルが変えた。
「いやー、楽しいお話を聞かせて頂きありがとうございました。パインさん」
「こちらこそ、ステイビル王子の近況を聞けて嬉しい限りです。ブンデル様」
パインはこのままブンデルたちが立ち去ると感じ、メイドに帰りの案内の指示を出そうとした。
その時――
「そういえば、パインさん」
「なんでしょう?」
「メリルさんは、”いまなぜあんな場所に捕らえられている”のかご存じですか?」
「――メリルがどこにいるか知っているのですか!?」
パインがソファーから立ち上がり、ブンデルにその身を寄せて詰め寄ろうとした。
『……ログホルム!』
「――!!!!」
テーブルの上に置かれていた花束から草が伸びてパインの姿を覆い草の殻が瞬時に出来上がった。
その背後から、覆った草の殻に一本のナイフが突き刺さっている。
「サナ!!」
「はい!!」
サナはドアの前に立っていたメイドの足元に向かって、両端に石が付いたロープを取り出し数回転させて投じた。
そのロープは回転を保ったまま、この部屋から逃げ出そうとするメイドの脚に当たると絡みつく。
――ドサ!!
メイドは足をロープによって拘束され、前のめりにその場に倒れ込んだ。
「くそ!!!」
メイドは隠し持っていたナイフを手にして、足に絡みついたロープを切断しようとした。
「悪いが、気を失ってもらう……『ライトニング」!」
ブンデルの人差し指の先から、威力を抑えた稲妻がメイドに向かって走る。
ナイフの先に落ちた雷は、それを手にしたメイドの身体を一瞬にして飲みこんだ。
「――がぁっ!!!」
メイドは女性らしからぬ声を上げ、身体を駆け抜けた衝撃によって気を失った。
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