4-60 反撃







「そうか……メリルは無事だったか!」




ステイビルはメイヤからの報告を受けて、安堵の声をあげる。


ソフィーネに連れられポートフ家に借りた一室に連れてこられたメイヤは、ステイビルにこの数日間に調べてきたことを報告する。

そして、ステイビルは早速メリルを救出するための作戦を立てると口にする。

しかし、そのことを止めたのはメイヤだった。





「ですが、ステイビル王子……今回、メリル様を助ければよいというわけでもないかと思います」





メイヤはソイランドに到着するまでに考えていた内容をステイビルに伝えた。


既にべラルドがメリルとパインを自らの範囲から離れられなくしているのではないかと考えた。


この町において犯した罪に対する裁量は、全てべラルドに一任されている。

二人がべラルドを裏切った際には、その権限を使って何らかの罪を与えこの町の中に引き留めておくことも考えられる。

もし、誰か他の協力者がいたとしても、共謀罪によって罪をかぶせるつもりだろうとメイヤは考えた。

……そうなれば、あとはまたべラルドの自由にできるのだから。





「まさか……そんなこと……」





エレーナは、メイヤの推測を飲み込めないでいる。

自分の家も今は一つの町を任されているが、警備兵もエレーナの家も協力し合い治安の維持を保っている。

どちらか一方の力が、相手の力を自分のものにしようとする考えが愚かで誤っている。


王都での騎士団と精霊使いも仲が悪そうに見えて、お互いの力を尊重し合っている。

この二つの力の存在は、王国が建国された時の歴史を……王家の名のもとになった二人の男性と、それに協力をしたエイミとセイラの精霊使いを知ったいまでは、その力は自然に正しいバランスを保つために生まれたのだとも考えていた。



その力を独占するとこのような事態になる……悪い見本を見たような気がした。





「……まずは、その辺りから探りをいれるべきか?」



「はい、メリル様とパイン様……さらにはグラム様の安全を確かめませんと、チェリー家を救うことは難しいかと」



「厄介だな……だが、この状況を見過ごすことはできない」






ステイビルの言葉にハルナは。腕を組んでその意見が呑み込めないでいた。






「でも……そう考えると一気に攻め落とした方が案外スッキリするんじゃないかなぁ」



「ちょっと……ハルナ、何言ってんの!そんなことができるわけないじゃない!?相手の拠点だって、メリルさんが囚われている場所だけとは限らないじゃない!」





エレーナの言葉に反応することなく、ステイビルは腕を組んで言葉をつぶやいた。






「……そうか。そういう手もあるなぁ」






その言葉に驚くエレーナに、更なる予期せぬ言葉が降りかかる。





「そうですね……べラルドの悪事の証拠を集めるよりも襲撃する方が確かですしね。それにどんな理由であれ、罪のない者を監禁していいという理由にはなりません」



「あ、アル?ちょっとアンタまで何を言って……!?」



「エレーナさん……ハルナさんがおっしゃることも一理あります。襲撃することで、相手の規模がわかることもあるかと」





ハルナの意見に更なる援護をするのは、腕の中で安心して眠るクリアを抱きかかえたサナだった。

何気ない一言をいろんな人に賛同され、逆にハルナは困った顔をしている。

ハルナは、助けを求めるためにエレーナに視線をやるが、エレーナはそれを勘違いし自分だけが反対をして責められていると感じていた。




「んもぉ……わかったわよ!私だけ反対したら置いていかれそうだからね!でも、本当は早く決着を付けたかったんだよね、私も」



「……え?」





ハルナは、止めてくれると信じていたエレーナも賛成派に回ったことに、自分の不用意な発言を恨んだ。





「……うむ。それでは、今回はこれで行くぞ!王国に背くやつらに好き勝手させておくわけにはいかない……それに、これは王国の管理が行きわたっていなかったためでもあるからな」



「「はい!」」





そしてステイビルたちは、その夜サライとコージーを呼んでこれからの行動について説明をした。


当初は驚いていた二人は、次第にステイビルの話に賛同の気配を見せていく。

どうやら決意が固まったようだ。


その裏で、この作戦が失敗したとしてもステイビルが全責任を負ってくれると明言してくれた。

これで今までべラルドに使われてこられた権限のより強い力によって対抗できることになった。





「よし!これより、この町……ソイランドを取り返す。みんな力を貸してれ!」





ステイビルの呼びかけに、この場に居る者たち全員が肯定の意思を示した。



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