4-7 穢れた男
「お主の相手はこの男がしてくれるわ!いけ!!」
男はメイヤに向き、殴りかかった。
メイヤはその軌道から外れ、攻撃を交わす。
一旦反撃をせず、様子を見ることにした。
「もちろん、私が王国の権限を背負ってこの任務をしていることはご存じよね?」
「うるさい!お前たちはここで死ぬんだ、マーホンとメイヤを倒してもっと上にあがって力を手に入れてやる!!やれ、こいつらを始末しろ!!!」
ザンタックに命令された男は、ザンタックの気合いに応じた雄叫びをあげて左右交互に腕を振り回してメイヤに襲い掛かる。
メイヤの肌は、空を切る襲い掛かる男の腕は何も捉えることが出来ず通り過ぎていった風が撫でていく。
その速さにメイヤが身にまとっているなびくローブの裾にも掠ることはできない。
男はイライラした様子でスピードを上げ、手数を増やしていく。
だがそれも、メイヤの前では無意味となった。
「な、何を遊んでいる!?さっさと捕まえていつものように片付けてしまえ!!」
「グオォオォォオォォ!!!」
男の咆哮は、人ではない別な声を出していた。
「”いつも?”……やはり、いろんなことをされているようですね。あと、どうして魔物と一緒にいらっしゃるのかも、後でゆっくりとお話しを聞かせて頂きますわね」
よそ見をしながら、自分の攻撃を避けられる男の姿をした魔物が、相手にされていないと気付きこの店を破壊しながらメイヤに襲い掛かる。
「あらあら。女性の扱いも雑な上に乱暴な方ですのね……」
そういってメイヤはローブの中から、腰に下げていたダガーを両手に取った。
メイヤの首に向かって飛び掛かる魔物を、メイヤは腕の間をすり抜けて飛び越える。
魔物は飛び掛かった対象物が目の前から消え、その勢いで顔から床に倒れ込んだ。
魔物は手をついて起き上がろうとするが、その違和感に気付く。
腕の途中から先が無くなっていた。
――ドン
魔物口からは、頭の後ろから突き刺さったダガーの切っ先が見える。
「……グギョオォォ」
魔物はひと声鳴き、動かなくなった。
「さて……これでゆっくりとお話しができるわね」
メイヤは、ダガーについていた黒い血のようなものを一振りして払う。
それを手に持ったまま、ザンダックに向かって近寄っていく。
「よ……よせ!やめろッ……来るな!?」
手にしていた杖を両手で持ち、ブンブンと振り回すがメイヤにとっては何の意味もない行動だった。
メイヤは振り回す杖にダガーを突き刺し、その動きを止めてみせる。
杖の自由を奪われたザンダックは、なんとか取り戻そうとするが無駄な抵抗で終わった。
「もうお終い?それじゃ、お話を聞かせていただこうかしら」
「わ、わかった……なんでも喋る!?そ、その代わり、い……命だけは助けてくれ!!」
「……私は、あなた達と違って人殺しを楽しんでいるわけじゃないのよ……正直に話してくれれば、命の安全は保障するわ」
その言葉を聞き、ザンタックは杖から手を離した。
「あなたの狙いは何だったの?」
諦めた様子で項垂れたザンダックは、マイヤの問いかけにゆっくりと口を開き始めた。
「狙いは……王国を壊すことだった」
「壊す?……どうしてなの?」
何かを言葉にしようとしたザンタックだが、
「私には……娘がいた。その娘は”精霊使い”を目指しておった……」
ザンタックは、とある村で娘と二人、商人をしていた。
その当時は今とは違い、まともな商いをしていた。
ザンタックは娘のために、ラヴィーネに行くための資金を貯めることが当時の生きがいだった。
ある日、娘にラヴィーネの精霊使いの育成施設への話が訪れた。
ザンタックと娘は喜び、その話しに乗ってしまった。
だが、それは当時流行っていた詐欺だった。
資金は根こそぎ持っていかれ、娘は男たちに弄ばれ帰らぬ人となった。
その日から、ザンタックは復讐の鬼と化した。
騙した男たちは、王国の警備兵を名乗っていた。
だが、王国に確認してもそんな者たちはいないという。
その時に聞いたことは、最近精霊使いの勧誘をうたって誘拐する事件が流行っているという情報だった。
その時、ザンタックはあるダークエルフに話しを持ち掛けられた。
”仇を討つための力ヲ貸そう……その代わり王国を潰すために我らに協力せよ”と。
これから先の人生、復讐のためと誓ったザンタックは迷うことなく返事をした。
ダークエルフの力を借り、ザンタックは見事復讐を遂げる。
後で気付いたことだが、その者たちは自分の組織の中の者たちだったという。
しかし、そんなことは関係がない。
この組織の中では、力や知恵のある者が生き延びていく。
そして、生き残った者が更なる力を与えられ、のし上がっていく……そういう組織だった。
ザンタックは商人のスキルを活かし、その組織の中でのし上がっていく。
そして、計画を成功へと導くたびに組織からは強い助っ人を与えられていくようになり、少々強引な手段でも成功率を高めていけることができた。
そうしてザンタックは、悪しき組織の中で上位三人の中に入り王国を蝕んで行くことに人生のすべてを費やしていった。
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