第四章 【ソイランド】
4-1 これまでの報告
――ここは東の王国の城内
ステイビルたちは今朝到着し、すぐに城に向かい王選に関しての報告があると取り次いでもらう。
集まってもらった場所には、グレイネス、ローリエンとハイレインがいた。
報告する側には、ステイビル、エレーナ、ハルナ、アルベルト、ソフィーネ。
同行者としてブンデルとサナもこの場に同席していた。
マーホンは、ギルド内での仕事があるとのことでハルナたちとは別行動をとっていた。
この場にはメイドはソフィーネだけだったため、またしてもソフィーネが全員分のお茶を用意する。
その間誰一人声を掛けることなく時間が進み、話しは全員分のお茶が用意されてから始められた。
まずステイビルは、大きな出来事の方から報告をした。
「こ……これは!?」
「本当にモイス様……なのですか!?」
「……」
テーブルの前には一匹のヤモリの姿をしたモイスが、四方からの視線を浴びている。
『直接会うのは久しぶりよの、グレイネスよ』
「は!モイス様もお変わりな……いえ、お変わりになられて……」
『わははは!形はこのようなものだが能力は元のままだ、心配するな!』
ローリエンも今までに見たことのないような、ひきつった笑いを浮かべている。
ハイレインは、モイスよりもハルナの顔をずっと見つめていた。
その視線を感じたハルナは、怒られてしまうのではないかとビクビクしていたが”自分のせいじゃない!”と胸の中で何度も繰り返した。
「それで……モイス様の加護を受けることができなかったとのことですが」
『うむ、そのことだが。この国の王選において、すべての精霊と竜の神の加護を受けなければならない……そうだったな』
「はい、その通りです」
『もしも、その中の者が加護を受け取ることができなかった場合……どうなるのだ?』
その問いに、グレイネスは言葉を詰まらせる。
モイスがそういう質問をするということは、この中の誰か……特に王選に関する王子、精霊使いの
三人のうち誰かが加護を受け取ることができなかったということだろうと気付く。
「今までにないことですが……もしそういう者がいれば、”王選に参加する資格はなくなる”ということになろうかと思います」
『それは、どのような事情があったとしてもか?』
「仮定の話については何ともお答え辛いところがありますな。もしかして、この中で誰かそのような事があった……と?」
グレイネスの言葉に、ハルナの身体がびくっと一度だけ震えた。
『うむ……ハルナが、ワシの加護を受け取ることができなかったのだ』
「やっぱり……」
ハルナはこの時点で、まだ言葉を一言も発していなかった。
そのことを怪しんでいたハイレインが、自分の推測に間違いがないことを確信した。
「ステイビルよ……お前はこの件、”どう”見ているのだ?」
ステイビルは、王に”どう”と聞かれても、その返答をどうするべきか一瞬迷った。
何もなくこのまま事を進めようとすれば、ただ自分の欲だけで動いているだけのように聞こえてしまうだろう。
かといって、ハルナとの約束ではあるがモイスだけに頼ってしまうのは自身の判断力や統率力が問われる。
さらに言えば、この返答に時間を掛けているようでは王としての資質も疑われる。
そして、ステイビルは心の奥深くにあった、”ある思い”に気付く。
(そうか……そういうことか)
そのことに気付いたステイビルは、自分自身が恥ずかしくなった。
だが、ここで笑ってはいけない。
ステイビルは表情を引き締め、グレイネスの顔を見る。
「私は、ハルナを”信じます”……」
『……うむ』
その答えに、モイスが頷いた。
「少し時間がかかったようだが……よくぞその答えに辿り着いたな、ステイビル。モイス様から建国に至るまでの話しを聞いているだろう?建国に関わった人々の運命、そこからお前は何を思い何を感じた?そしてお前の心に何が宿った?……ステイビル、もしお前が王になった時には、いま思い出したそのことを決して忘れてはならんぞ!」
「……は、はい!」
エレーナもずっと緊張していたようで、ハルナは隣から大きな息が抜ける声を聞いた。
「ふー……これで、ハルナが王選から外されることはなくなったのね」
「……だが、本当の問題は片付いていないんじゃないか?」
その発言したハイレインに向かって、一斉に視線が向けられた。
「ちょっと、ハイレイン……」
ローリエンはハイレインを止めようとするが、逆に制された。
「モイス様の加護の能力は、生命力の上昇。実際にそのことを計ることはできないが、受ける前と後では体幹的に違うということはこの身を持って体験している。その加護が受けられないということは、これから先の旅においてハルナに危険が降りかかりやすくなると同時に、そのことで他の者も危険にさらされるということにもつながりかねない。加護を受けるということはそういうことだ……」
ハイレインは言い終えた後、目の前に置かれた紅茶を一口含み渇きを潤した。
「それで……そのことはどうするつもりなのだ?」
ハイレインはもう一度、逃れることのできない問題について触れた。
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