3-250 東の王国54






「ですから私は、この村を出てあの集落でウェイラブ様のことをお待ちしております。ウェイラブ様は、今この村にはいなくてはならない存在です、すぐにはいらっしゃることはできないでしょう。……私はウェイラブ様がその役を終えた時に、その時に一緒になりたいと思います」



「スミカ……」



その言葉にウェイラブは泣きそうになる。

自分のことをそこまで慕っていることの嬉しさと、離れ離れになってしまう悲しみ。

個人と村の長である公人の立場、様々な思いが頭の中を駆け巡り破裂しそうになる。





「そこで、今後についてこのようにするのはいかがでしょうか……」





スミカは自分が独自で取得していた情報と、今回の自分の気持ちなどすべてを踏まえ最善と思える案を提示した。





まず、これから産まれる子供については、二人の証としてウェイラブの傍で育てて欲しいと告げる。

この案には、作戦の他にウェイラブとの証である我が子を、近くで育てて欲しいと願った。

初めの子は、悲しい運命を背負わせてしまうことになってしまった。

今回は二人の気持ちが通じ合って誕生する子である、自分の傍で不自由な環境で育てるよりは、表向きには偽の親子関係だが村長である本当の父親の傍で育って欲しいと願っていた。




別な理由(本来はこちらが本題だが)として、ウェイラブと我が娘との結婚を企んでいる派閥の者には、その子を引き取ることを条件として提示する。

その娘は生まれつき身体が病弱であると聞いており、子産めない可能性もあるためウェイラブがその子を更に里親として引き取るという条件を出せば相手も納得するという考えだった。




流石は村一番の諜報員であると納得するウェイラブ……しかし、一つだけ気になることがあった。





「だが……その……」



「――はい?」





口の中でもごもごとはっきりとしない言葉を話すウェイラブのことを、不思議そうな顔でスミカは見つめる。

そして、踏ん切りがついたように勢いに任せて頭にあることを伝えた。




「スミカは、その……嫌じゃないのか?私が他の女性と……その気持ちがないにしてもけ、け、け、結婚するのだぞ!?」





スミカはその言葉に、きょとんとした顔をしている。

その表情は、次第に笑顔に変わり、スミカがクスクスと笑った。





「な、何が可笑しい!私は逆の立場だとしたら、その……すごく……嫌なのだ……スミカが他の……男と一緒になるなど」





スミカはそっとウェイラブの手を握り、自分のお腹に手を当てさせた。




「ウェイラブ様、この中に二人の証がおります。正直も仕上げれば……誰にも渡したくありません。……ですが、その事実を胸にウェイラブ様と一緒になれる日まで我慢をいたします……ですから、ひとつお願いがございます」


「ん?……な、なんだ?」





ウェイラブの頭の中に、様々な推測が駆け巡る。

その娘と寝ない、お金?、身体の一部を……などと、これから提示されるスミカからの要求について巡らせた。





「失礼とは思いますが……これから、二人の時は”あなた”とお呼びしても……あのぉ……構いませんでしょうか?」





スミカは恥ずかしそうに下を向き、ウェイラブの握ったままの手に力がこもっていく。

ウェイラブもその力が入った意味がわかり、スミカのことを改めて好意を頂いた。





「あぁ、もちろんだとも……スミカ」


「ありがとうございます……」





ウェイラブはスミカを引き寄せて、力強く抱きしめた。

離れ離れになるが、必ずスミカのことを迎えに行くことを決意して。







数日後、ウェイラブはスミカをこの村での任務を解き出ていかせることにした。

表向きの理由として、スミカを結婚騒動の責任を取る形として追放という形にした。

これに関しては、誰からも反論が出ずに承認された。

前回はごり押しで娘のことを紹介してきたが、今の状態では強引なアピールでは返って印象が悪くなると大人しくしていた。



その数日後、スミカは自分の簡単な荷物だけを纏めてこの村を後にする。

誰ひとりとして、その姿を見送る者はいなかった。

ウェイラブは途中まで同行することを提案したが、スミカからそれは止めた方がいいと断られていた。



ウェイラブは、切り取ったスミカの髪が入っている包み紙を手に、道中の無事を祈った。







そこから半年が過ぎた頃、一人の女性がウェイラブの元に面会を要望してきた。

聞くとその女性は、商人で様々な村を渡り歩いている人物だとという。

記憶にない人物のため、メイドを通じ断るように命じた。



すると、メイドは一枚の封筒を持ってきてウェイラブの前に差し出した。

封がしてあったが、危険なものが入っていないかを確認するために開けていたが、中にはただの布の切れ端が一枚だけ入っていたという。






(布……?こ、これは……!?)





その布からは懐かしく、忘れられない匂いがウェイラブの嗅覚と心を刺激する。

ウェイラブは、悟られないように心を静めその商人を”仕方がなく”通すように命じた。




その者は重要な人物でないということを表すために、ウェイラブは小さな汚れた部屋に通させた。

怪しまれないようにメイドも付き添わせたが、お茶など出さずにただ相手の話を聞くだけの雰囲気を創り上げた。




「貴方の名は?」



「私の名は、”エフェドーラ”と申します。様々な村を渡り、行商人をやっております」











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