3-234 東の王国38
「村長がお会いしたいとのことです……ご案内いたしますのでこちらへ」
「は……はい!?」
案内されたメイドに”荷物はそのままで良い”と言われ、わきに抱えた荷物を椅子の上に置いて照れ笑いを浮かべる。
そして屋敷の奥、大きな扉の前。
メイドは立ち止まり、扉をノックする。
中からは部屋の主から、入室を許可する声が聞こえる。
その声を聞いてから、メイドは扉を開いた。
「……お客様、お連れいたしました」
「……入ってもらいなさい」
メイドは、扉の先で待っていたエイミとセイラに入室するように誘導した。
中には初めて見る男性、自分の父と同じくらいの年齢。
それと、旅の身なりから軽装になったエンテリアとブランビートの姿が見えた。
「よく……参られた」
この村の村長は、じっとエイミとセイラの顔を見つめている。
「あ、あの?」
「いや、申し訳ない。うん、それよりノービス……御父上殿はお元気か?」
「――え!?」
「父のこと……ご存じなのですか!?」
その言葉に対してニコっと笑顔を作って見せて肯定をする。そして、エイミとセイラを席に着くように促した。
そして、エイミは父親に渡された手紙――委任状を取り出し、エンテリアがそれを受けとり父親に手渡した。
蝋で封印されたた手紙を開け、中に入っている手紙を手にする。
エイミたち四人は、その顔に注目してく。
文字を読む目は横に流れ、最終行に達したと思われるときに少しだけ口角が上がった気がした。
そして村長は、読み終えた手紙と封筒を目の前の机にポンと放る。
「なるほど。今回は、我が息子たちが提案した”建国”について賛同し、その相手となる村に視察にこられた……そういうことですね?」
「そうです、村の代表として私たち二人がやってまいりました」
「それはそれは……女性”なのに”勇ましいことだ」
その言葉には少し棘があるように感じたが、そのことに反応しては村の発展のためにならないとグッと、エイミは嫌な感情を飲み込んだ。
セイラはブランビートたちに目線をやるが、こちらを見ない様に真っすぐ向いたままじっとしている。
村長もこの場の空気が変ったことを感付いてか、咳ばらいを一つしてお詫びの言葉を告げた。
「……っと。ゴホン、失礼しました。それで、条件は飲んでいただけるので?」
「え?条件……ですか?」
エンテリアもブランビートも、表情は変えなかったが一瞬見せた動揺は隠せなかった。
その挙動を感じ取った村長は、更に言葉を繋ぐ。
「どうやら、話しが通っていないようですね。であれば、ご説明しましょうか。条件というのは……」
「――村長!!!」
説明を遮ったのは、今まで黙っていたブランビートだった。
村長は言葉を止め、顔を向けずに眼球だけを動かしてブランビートの姿を見る。
そして、”ふぅ……”と軽く息を吐いて目を閉じる。
「ブランビート……今は私が話をしているのだが?」
「も……申し訳ありません。ですが、その件につきましては”責任者”である、我々の方から両名にご説明したほうが良いかと思いまして」
エイミは、ブランビートの次にエンテリアにも視線を送る。
二人の表情は怯えたように強張っており、短い期間ではあるが今までに見せたことのないような表情だった。
「勝手なことを言うものだな、ブランビート。私がいつ、お前に発言を許したのか?」
声のトーンを低くして、村長は押さえつけるようにブランビートに
「申し訳あ……」
お詫びをするブランビートの言葉に、待っていたかのように更に上から権威を前に出しさらに言葉を被せる。
「元はと言えば、お前たちが正しく説明をしていなかったことが原因ではないのか?お前たちを討伐のために村を出し、さらに建国に賛同する村の説得に出ることを許可した条件……忘れたわけではあるまい?それをなぜいま、この場で私が話さなければいけないのだ!?」
その言葉はゆっくりで重みがあるが、裏にある感情には怒りが滲んでいた。
「大変申し訳ありませんでした……全て我らの不徳の致すところです」
ブランビートに代り、エンテリアが村長に対して非礼と思われる行為を詫びた。
その言葉を聞き村長は前傾姿勢になっていた身体を、椅子の背もたれに再び預けて再度口からわざとらしい息を口から漏らした。
「ふぅ……お前たちでなければ、許されないことだぞ。まぁいい、ではお前たちの口から説明して差し上げなさい」
「寛大なお心に感謝します……村長」
そう言って、二人は村長に頭を下げ非礼を詫びる。
しかし、村長はイスにふんぞり返ったまま目を閉じてその行為を見てはいなかった。
だが、二人にはその態度に怒りを覚えることはない。
伝えなければならないことを、伝えられていなかったのは自分たちの責任なのだから。
ブランビートは身体の向きを村長から外す途中、エンテリアと視線を交わしそのまま身体をエイミとセイラに向けた。
そして、セイラが言い辛そうにしている二人に話し始めるきっかけを作った。
「それで……その条件って?」
「はい……建国の条件とは、”他の村から伴侶を連れてくる”という条件なのです」
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