3-222 東の王国26






「さぁ、早く!!」




ブランビートは、エンテリアが仕掛けた状況をが十分に目隠しとなったことを確認して二人の女性の元へ走っていく。




二人がいた辺りに、手を伸ばすと柔らかい腕に触れることができた。




(これでは武術など……無理な体つきだ)



その腕に振れたブランビートは、今までの二人が持っていると思っていた”自分自身を守る技術”への期待が全て無くなっていた。

水汲みや森での収穫した運搬など、日常生活に必要な動作には問題がない筋量しか感じられない。



だがその感触は妹や母親などとは違う、いつまでも触れていたいような肌触りだった。




(こんな非常事態に何を考えている!?)




一秒にも足らない時間の間、この場に相応しくない思考を振りほどきブランビートは自分を叱咤した。




「さ、お互いに手をつないで……いきますよ!」


「「はい!」」




三人は白い世界の中を、敵とは反対の方向へと走っていく。

ブランビートは、エイミの手を取りながら自分の村のような感覚で走っていく。


少し走れば三人は白い世界を抜け、とある家の中に入り込んだ。






「いいですか、あなた方はここにいてください。もしチャンスがあれば、逃げてください……それと、こんなところへ連れてきてしまって申し訳ありませんでした」






その言葉に対し、セイラは怒りを感じ思ったことをそのまま口にした。






「ちょっと、それはどういう意味ですか!?私たちは自分からお願いをしてここに来たんです!あなた達のせいではないんですよ!!」



「ちょっとセイラ!?……すみませんブランビートさん、こんな時に……」





親切心から二人を無事に逃がそうとしたブランビートは、なぜ強い口調で文句を言われなければならないのかと目を丸くする。








「い……いえ。問題ありません……とにかく、私はエンテリアの元に戻ります。あなた方もどうか……ご無事で」




それと同時に、金属音が少し離れたところで鳴り響く。

その音に向かいブランビートも家を飛び出し、エンテリアの加勢に走った。




そこに新たな金属音がぶつかる音が追加され、音は一段と大きくなって響き渡った。


セイラは心配になり窓を少し押し開け、戦況の様子を確認する。




二人は再び、同時に相手に対して攻撃を加えている。

先程と異なるのは、トライアも二人に対し防戦一方ではなく攻撃を加えていた。





遠くから見て、戦況は五分と五分。

それでも、二人掛かりでこの状況ならばエンテリアとブランビートのどちらかが倒れてしまった場合には、悪い方向に一基に傾いてしまうことが戦術を知らない二人でも容易に推測できた。







「……ねぇ、どうする?」




エイミは、窓をのぞき込んでいるセイラに後ろから問いかける。





「助けに行った方がいいんじゃない?」






答えを返さないセイラに、エイミは続けて言葉をつなぐ。




「でもさっきあんなこと言っちゃったし……それに私たちがいても足手まといになるんじゃないの?」





セイラが言うには、精霊の力のトレーニングによってある程度の対応はできるであろうと考えていた。

だが、実際に”実戦”というものを行った経験がないため、エイミやあの二人と共闘となった場合に上手く立ち回ることができるのかガ不安だった。




では、どうすることが現状で最も正しい判断なのか。







――誰か助けを呼んでくる


一体誰が来てくれるのだろうか?

それに呼んでくるまでにあの二人は持ちこたえてくれるだろうか?


実力のない者たちをそろえても犠牲が増えるだけなのではないか……






――遠くから精霊の力で援護する


上手く援護できるか分からない。

それに、二人は現在の人間の中で誰も持っていない力を有している。

その姿を見られ、”化け物”扱いの目であの二人に見られてしまったら……







「ねぇ、セイラ……もしかしてあなた……あの二人のどちらかのこと」




「え!?……う、うん……あ、でもね、まだはっきりとね、そういう気持ちか分からないんだけどね!でも、ちょっとだけ……いいかなぁ……って」





「はぁ……そうなの……ね」





ため息混じりの言葉でエイミは、セイラからの感想を口にする。



この姉妹の中では、ほとんど……全くと言っていいほど隠し事はなかった。

小さい頃から、感想を聞いても全く同じ感想を抱いていた。


それに気付いてからは、黙っていることの無意味さに気付き、お互いの胸の内を明かすことが多かった。

生活環境や行動も常に二人で一緒にしていたため、ほんのわずかな趣向や経験の差はあっても技術や知識の習得時期も全く差がなかった。





「まさか……やっぱり……エイミも?」






セイラの質問にも似た確認に、エイミは”こくん”とひとつだけ頷いて見せた。


当然この結果も、二人にとっては驚くようなことでもなく、当たり前の結果だった。





「ということは、セイラ。考えてることは同じよね……きっと」



「勿論よ……エイミ」




目が合いその奥には、お互いの決心が映し出されていた。



二人はこんな状況でも、可笑しさが溢れてきて楽しい気分になる。

だが、今はそんな状況ではない。





ゆっくりと深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、これから起こることのために冷静にする。




そして、また目が合い同じタイミングで頷きあった。







「……いくわよ!?」



「えぇ、あの二人を死なせはしないわ!!」






二人は、身体の中に巡る精霊の力を確かめながらドアを開けた。






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