3-188 ドワーフの代表者
ハルナたちは、再びエルフの村に着いた。
今回は、ノイエルたちの帰りに合わせて付いてきた。
そこにはデイムとイナ、人間からはカイヤムとマーホンの信頼のおける人物が付いてきていた。
大がかりな移動となったが、一日歩けば山の裏側のエルフの村までは到着できることがわかっていたため楽だった。
朝日が昇ると同時に出発した旅も、エルフの村に着いたときには夕日が夜の暗闇に飲み込まれる直前だった。
「ここが……エルフの村」
イナが思わずその景色を見て、言葉をこぼす。
崩れた家、焼けた道路、破壊された残骸……
ここに到着するまでに、サナから一応話しは聞いていた。
いかし、目の前にした風景は想像していたもの以上の惨劇だった。
「イナ!デイム!……こっちよ!」
サナは、イナとデイムを屋敷の方へ案内する。
「え!?えぇ……」
イナは、案内するためにスイスイと進んで行くサナのその姿を見て驚いた。
それはまるで、いかにも自分が住んでいた町のような雰囲気でイナたちを先導する。
サナは、屋敷の世話をしてくれているエルフに、”ただいま!”と声を掛けた。
相手のエルフもサナの挨拶に対して、”おかえりなさい!”と返事をする。
それは決して見下したものでもなく、同等……それどころか敬意を抱きつつ仲間として気軽に対応する様子だった。
そして、立派な屋敷の中もぐんぐんと進んで行くサナ。
イナは驚きの中、その後ろをついて行くことに必死だった。
「イナはこの部屋を使ってね……それじゃ!」
「え、ちょっと。どこ行くの?サナも一緒じゃないの!?」
デイムと二人にさせて出ていこうとするサナを、イナは腕を掴んで呼び止める。
「え?私は部屋があるもの……そこに荷物も置かせてもらってるし」
「ちょっと……でも……デイムと……二人……おかしくない!?」
その言葉に賛同するように、デイムも焦りながら”ウンウン”と頷いている。
「なぁに?一人一部屋がいいってこと?今日はマーホンさんのお使いの方もいらっしゃるから、これ以上部屋が空いてないのよ……」
サナは、腰に手を当てて聞き分けの悪い姉に少し腹を立てた表情で振り返る。
「いや、そうじゃなくってね、サナ。えっと……そう!あなたと一緒じゃダメなの?」
「私のところは、もうブンデルさんがいるんだけど?まさか……三人で寝たいってこと?」
「「――え!?」」
その言葉を聞いたイナとデイムは固まってしまい、サナもその様子を見て頭に”?”が浮かぶ。
「ちょ、ちょっとサナ。あんたブンデルさんと……その……一緒に……?」
「もう、何が言いたいの?”一緒に寝てる”わよ?それがどうしたの!?」
きっぱりと言い切るサナに、イナとデイムはそこから先に言葉が繋がらなかった。
三つ子の姉妹で、一番下のサナ。
イナとニナで面倒を見ないと、何もできないと思っていた。
その子が異性と同じ部屋で、ともすると同じベットで寝ている可能性がある。
(あのサナが……)
イナの中で、”先に越された”とか”サナの癖に”とかいう感情がぐるぐると巡っていた。
「うん……わかった」
「しっかりしてよね……イナ。あなたドワーフの代表で来たんだからね!?」
心の隅で、”あなたの方がいいんじゃ……”という気持ちが言葉としてこぼれそうになるが、必死に姉としての立場で抑え込んだ。
「あら、サナさん。こちらにいらしたんですね……」
サナの後ろから声を掛けたのは、ナルメルだった。
「はい、いま姉に部屋に入ってもらったところです……とても喜んでますよ」
サナはわざとらしい、感謝の言葉をイナの代わりに告げた。
ナルメルは、その言葉に軽くお礼を返し本題に入る。
「おくつろぎのところ大変申し訳ございませんが、エルフの村の村長代理であるゾンデルがご挨拶したいとのことなのですが……」
突然の誘いにイナは少し身構えたが、話し合いの他にエルフの村に来たもう一つの理由がある。
それを実行するために、イナはその誘いを了承した。
「わかりました……ですが、少し準備を整えたいのでサナに案内してもらってお伺いします」
一瞬サナは”え?”という表情をしたが、確かに準備は必要だと考えイナの提案に応じることにした。
「では、そろそろ皆さまお集まりしておりますので……サナさん、父の部屋までよろしくお願いしますね」
そういうと、ナルメルは礼をして部屋を出ていった。
ここはゾンデルの書斎。
前村長のサイロンが使ってた部屋を、そのまま使わせてもらうことにした。
ここには既にゾンデル、ナンブル、王国からはステイビルとハルナたちとマーホンの代理が既に座っていた。
イナは程なく支度を終え、サナに案内をお願いする。
エルフの村の代表と会うため、催事の時に使用する豪華なドワーフ特有の芸術性の高いローブを羽織り、指定された部屋に向かっていく。
部屋の手前で、デイムがイナに声を掛ける。
「サナ様、少しお待ちいただけますか?イナ様、そろそろ……」
「ん、わかってる……」
イナは、集中し胸の前で両手を組んで魔力を高め呪文を発動させる。
「……”ヴェリタム”」
呪文を唱えると、イナの身体に淡い光の輪が頭からつま先までイナの身体を通してく。
これで、イナの前では誰も”嘘”をつくことはできなくなった。
「さ、行きましょう」
イナは、サナに合図をしてゾンデルの部屋の扉を開けてもらった。
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