3-152 ナンブルとナイール6







ナイールはゆっくりと、ナンブルの傍に近付いて行く。

そして、ただぶら下がっていたナンブルの左手を優しく両手で包み、ナイールの胸の高さまで持ち上げた。








「お願い……ずっと私の傍にいて…」










「どうしたんだ?何かあったのか!?」




今までにない様子に、ナンブルはナイールのことを心配する。






ナイール辺りを見回して誰もいないことを確認し、念のためサイレントの魔法で辺りに音が漏れないようにする。

ナンブルもそこまで手をかけて話そうとする内容が、ナイールにとって重要なことなのだと察した。






ひと通り準備が終わったことを確認して、ナンブルはもう一度いつもと様子が違うナイールに確認をする。






「それで……どうしたんだ?何かあったのか?」








「私……ね、村を出ていくことにしたの」






その言葉にナンブルは、あの人間の言っていたことを思い出した。


その情報はナイールには伝えていなかった。






「それって……あの時の……」







ナイールはナンブルの推測に、首を横に振る。





「違うわ、そうじゃないの。私は単純に外の世界のことが知りたいだけなの……判るでしょ、ナンブル」





ナイールはナンブルの手を持った両手を胸に当てた。

それだけ強い意志が、力として伝わった。





ナイールは気付いていた、あの時のことを誰も自分に話さないことを。

それは裏を返せば、ナイールにあの日のことを思い出させないためだと感じていた。




サイロンと村長がナイールを牢獄のような部屋に閉じ込め軟禁するほど、ナイールを外の世界に出すことを阻止していた。


あの日以来、村の外に出ることに対して制限とそれを破った者に厳重な罰が設けられた。









これはこの村の孤立を意味し、全ての発展と進化に影響を及ぼしてしまう。

ナイールは、そう判断していた。





(ナンブルならこの私の考えを判ってくれる……)





そのことをナイールは、同じように学び判断してきたナンブルだからこそわかってくれると信じて自分の胸の内を初めて誰かに話した。







「おい、ナイール……俺にそんなこと言っていいのか?俺はお前の……」





「わかってる。サイロン……父親の部下でしょ?だからこそ、うちの家の可笑しなところも知っているんじゃないの?それに……」




ナイールは、一度言葉をのどに詰まらせた。

掴んでいた手を離し、そのままナンブルに背を向ける。









「それに、あなたの家は知っているんでしょ。私の家がこの村を治めることになった、あの大竜神の神託を受けたものではないってこと……」






「――!?」








ナンブルは、ナイールがそのことに気付いていたことに驚いた。

父のゾンデルに聞いたところでは、村長は代が変った時に真実を伝えているようだと聞いていた。





ナイールは、まだそのことを聞いていないだろうとナンブルは思った。

それは全てナイール自信が自分で調べ、考えて判断した結論付けた。





その結論に辿り着いた時、ナイールはどういう気持ちだったのだろうか。


普通であればこの村の最高権力者である村長が、虚構の上にできたものだと知った時。

更には、自分の親族であるものがそのようなことをしていたと知ってしまった時。





ナイールの性格から考えれば、相当の罪悪感に押しつぶされそうになっていたと推測する。





いつそのことに気付いたのかはわからないが、今までナイールはそういうそぶりを見せたことはなかった。





村の外に出たい気持ちも、この状況から逃げ出したいというわけではないのだろう。

ナイールが、そんな無責任な選択をするようには思えない。






何か考えがあってのことのだろうと、ナンブルは理解した。




だからナイールの言葉に、”何故?”とか”いつから?”という言葉はこの場では無意味だろう。










「……っとに、昔っからとんでもないことを言い出すよなぁ。ナイールは」






ナンブルは困ったような口調で腰に手をやり、反対の手で頭を掻いている。

しかし、その声の色には悩んでいる要素は全く含まれていなかった。




その声を聞き、振り返って笑顔で迎えるナイール。







「あら。でも、ちゃんと助けてくれたり手伝ったりしてくれてたじゃない。そんな”とんでもないこと”に、ちゃーんと付き合ってくれたのはあなただけなのよ。それにね、あなたも時々とんでもないことを言い出すのよ。そこんところは、あなたもきちんと自覚して欲しいわね、ナンブル?」






ナイールは腕を組みながら、ヤレヤレといった感じを出しながらナンブルの軽い嫌味に応じる。

そのナンブルの難題にも付きあってくれたのは、やはりナイールだけだった。






いつもこういう時に見せる悪戯っぽい笑顔は、昔から変わっていない。

その笑顔で頼まれると、ナンブルは断ることができないことは自分でも分かっていた。





ナンブルは、両手をあげて肩をすくめ仕方ないといったポーズをとる。







「わかったわかった。……で、どうすればいい?何かいいアイデアでも?それとも、いま俺が考えた助けがいるか?」



「私もね、ここのところずっと考えていた作戦があったのよ。……もちろんあなたが私の”味方”立って事が前提なんだけどね」




ナイールは、ナンブルも自分と同じ作戦に辿り着いているだろうという確信がどこかにあった。


そのため、まず二人は次の行動をお互いに同時に言い合うことにした。








ナイールは掛け声を合わせて、タイミングを合わせる。






「それじゃいい?せーの……」






「「俺たち(私たち)一緒になろう(なりましょ)!」」








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