3-146 村の始まり








村長はゾンデルの前テーブルに座りでずっと下にうつむいている。




その周りをナルメル、ブンデル、サナ、マルスがゾンデルの背後で様子を見る。

ハルナたちは、部屋の一辺の壁に沿って用意された椅子に腰かけている。





ゾンデルが救出され、村人たちは今までいた元の村に戻った。




村の中では、”ゾンデルの娘が村の場所の秘密を破った。そのため、この村を放棄し新しい場所に移動する。ゾンデルは、責任を取り酸の池へ投獄する”と知らされていた。







ゾンデルが村に戻った際に、村人たちは戸惑いを見せていた。

その後ろに出ていったゾンデルの娘と知らないエルフがいた。

しかも、さらには敵対視しているドワーフと人間までいたのだ。
















村の中に緊張が走る。

今までに経験のない争いが起きる……そんな噂が村の中に流れていた。





新しい場所に移ってから体制も整っておらず、しかも食料事情が最悪なため力を発揮することが難しかった。



村民は違和感を覚えた。

一番後ろには、村長の姿があった。





そして、何も言わず村長はゾンデルたちの後を無言でついていき、自分の小屋に入っていく。

村長は村民たちの不安な顔つきで見つめてくる様子に、心がズキズキと痛んだ。













「それで、これからどうするつもりだ……サイロンよ」






ゾンデルは下に俯いたままの村長のことを、昔のように名前で呼んだ。







「どうすれば……私はどうすればいいんだ?教えてくれ、ゾンデル」






ゾンデルは久々にサイロンから頼みごとをされ、それを懐かしく思う。






















サイロンはゾンデルよりも年下だったが、人間の年齢で比較すると二、三才くらいの年の差だった。


同じ時代を過ごし、近くで暮らしていたため幼い頃は兄弟のように過ごしていた。






その関係は、サイロンの祖父が村を作ったことにより変わっていった。



サイロンは村長の家ということもあり、その位の威厳を保つため村民との遊びを制限された。




だが、ゾンデルはそんなサイロンを不憫に思い、何とかしようと誘いをかけるが祖父はそれを厳しく制した。





時が過ぎ、ゾンデルは青年になり様々な経験と知識を得ていた。

その中で、村長の独裁的な取り決めが行われている現状に不満が募っていった。




ある時改善要求を手紙にして、村長に送ったのだった。

その内容は、『村の存続は希望したうえ、大竜神の名を使った独裁から村人で話し合って決める手法に変えて欲しい』という内容だった。





ゾンデルは何度か送るが、全く変わる気配がなかった。

ついにあの日のことを、手紙の内容に書いた。





その日からゾンデルの家は、村の中でひどい扱いを受け始めた。

謂れのないことで責められ、ゾンデルの家は窮地に追い込まれていく。


ゾンデルはそのことを誰にも話してはいなかった。

自分の両親に対しても……






両親は、自分の責任と悩むゾンデルに『事情は知らないが、自分の良いと思うことを貫けばいい』と子供を責めることもなくこの状況を我慢してくれたのだった。


村長の一言で、こういうことが起きている。

大精霊の考えにそぐわないと、村長の気分一つでこういう自体が何度も起きていた。






時が過ぎ、初代の村長からサイロンの父親がその任を受け継いだ。


時期を見て、ゾンデルは再び新しい村長に進言しにいった。

その際、あの日に起きたことも説明をした。


だが、村の体制は先代からの状況は変化がなかった。

しかも、そのことは知っていると言ってきたのだった。


先代から引き継いだ時に、その話は聞いていたらしい。

それに、その内容で村の運営を揺すってくる者がいれば、容赦なく抵抗するように……とも。



そのことを聞き、ゾンデルが受けた不当な責めは先代のものであると確信した。



二代目は、ゾンデルにこう告げた。







『お前は、サイロンの面倒をよく見てくれていた。そのことについては、とても感謝している。だが、村のことは変えることはできない。自分たちの信じるものが嘘だったとしてもだ。村は、その力でまとまっているのだ……ゾンデル、何もしなければわたし達はお前やこれからできるであろう家族に危害を加えない。これはお前だから約束しよう』







代が変わって、村長の権限による締め付けや強制は少し落ち着いてきていた。

それは、村で集団で生活する様式が全体に浸透してきたためだった。



それまで個々で生活してきたもの達が、一箇所に集まって生活をする。

それぞれのルールをまとめるには、時には強く抑え込まなければならなかったのだろう。



そういう意味では、初代の村長がとっていた方法は功を奏したともいえる。



ゾンデルは、この体制下で様子を見ることにした。










村民は村での集団生活に慣れてきたせいか、二代目になってその権力を利用しようとしているもの達が現れた。

自分たちの訴えを強く求め、村長に意見を通させようとするものが出てきたのだった。


二代目はその状況を危険に感じ、何か手を打たなければと頭を悩ませた。



そこで二代目はゾンデルに依頼し、サイロンとともにそういうもの達の意見の真偽を調べる役目を命令した。


先代での罪を感じていたこともあり、二代目はサイロンの社会勉強とゾンデルの家の社会的地位の向上を目的としてその役割を命令していたのだった。








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