3-124 先輩









「またお会いしましたね”先輩”」





風に突き飛ばされた女は、元いた部屋の中に押し戻された。


そこに姿を現したのは、ソフィーネだった。




ハルナたちは、その隙に奥の部屋へと入っていきノイエルの母親が捕えられている場所を探す。





その様子を見ても、女は慌てない。

それよりもソフィーネの顔を見つめたまま、ゆっくりと倒れた身体を起こした。







「よくここまで来たね、ソフィーネ……だけじゃないみたいだね。さっきの力は一緒にいる精霊使いだろ?」




「そうですよ……ですが、あなたとの勝負には手を出さない様にお願いしていますから」





女は辺りを気にし、足音が遠くへ移動していくのを確認しソフィーネに告げる。







「よっぽど自信があるみたいだね。本当は、あんたにずっと興味があったんだ……ソフィーネ。あんたもマイヤとメイヤにやられてたんだろ?なぁ、あいつらを自分の目の前に跪かせたいと思わない?私とさ……一緒にあいつら目にものみせてやらない?……おっと、まだ名前を言ってなかったね。私の名前は“ランジェ”っていうんだ」




ソフィーネは、目を閉じてしばし考えた。





「そうね……あの二人は憎いわね。憎たらしいほど、強いのよ」





女は、その言葉を聞いてにやりと笑う。









「そうだろ?憎いと思うだろ?だから私と組んで、アイツらを負かしてやろうじゃないか!それにあんたの強さも中々だから、私と組めばこの組織の中でも上にあがれるってもんだよ!」




「ふふふ……」








ソフィーネは口から思わず、笑いが漏れた。

ランジェは、その様子を不機嫌そうに見つめる。









「あら、ごめんなさい。私こういう時に、笑ってしまう癖があるのよ……昔からね、本当に頭にくると笑ってしまうの」


「今の話でなにか、気に触るところがあったか?」









ランジェもバカにされたと思い、不機嫌な顔でソフィーネに言葉を返す。









「いや……あなたにではなくて、自分自身の力不足にね」


「だから、そこは私があんたを強くして……」









その言葉の先を、ソフィーネはそっとランジェに掌を向けて制する。









「私より弱い人に教わることなんて、何もないの。あなたじゃ、私に敵わないわよ?」









その言葉にランジェは、顔を真っ赤にしてソフィーネを睨みつける。







「わかったよ、交渉は決裂だね……かわいい後輩のために、せめて苦しまない様に殺してやるよ!!」





――バシッ!!






ランジェは背後から束ねられたあの鞭を取り出し、一度地面に打ち付けた。

そして、再び引き寄せると鞭は自然と折りたたまれ、ランジェの手の中に収まっていく。









「それじゃ、死ね!!」





――ヒュン!!








鞭につけられた尖った先がソフィーネの額めがけて、真っ直ぐに飛んでくる。









キーン!






「――何ぃ!!!」



音ともに、尖った先は狙っていない方向へ飛んで行った。





ソフィーネの手の中には、ブンデルが作った丈夫なロープが握られていた。

その先には、拳ほどの石が取り付けられていた。





ランジェは自分の攻撃を交わした道具が、ソフィーネの手に握られているものが交わしたのだと気付いた。





「なんだ……それは?」





「私、人の真似をするのが昔っから得意なのね。すぐに使えるようになったわ」






――バシッ!!







ソフィーネも先ほどのランジェの真似をし、石の付いたロープで地面を一度叩いてみせる。







「ふ……ふざけるなぁああ!!!」






ランジェは完全にバカにされたと感じ、怒りを全てソフィーネに向けた。

鞭を何度もソフィーネに向け、力一杯打ち付ける。



だがソフィーネはそんな攻撃を、さも何でもないかのように涼しい顔で手にしたロープで撃ち落としていく。







「く、くそぉ!」









ランジェは息を切らして、一旦攻撃の手を休める。

しかし、ソフィーネはその隙を見逃さない。








「あら、もう終わり?……それじゃ次はこちらからいくわね!」







ソフィーネは今まで仕掛けられてきたように、ランジェに向かって攻撃する。

しかし、ランジェと明らかに違うのは、一発一発が重くて速かった。








「ぐっ!?」








その一発ずつを打ち返すだけでも、重労働なのだった。








「どう?私のロープさばきは?二、三日前に始めたとは思えないでしょ」



「な!?」






ソフィーネのそれは、つい先日扱い始めたとは思えないほどのロープさばきだった。






「それでね、こういう攻撃パターンもあるのよ?」






ソフィーネは、ロープの先についた石を地面に打ち付けて反射させる。

すると石は、ランジェの予想しない方向から飛び跳ねて自分を攻撃してきた。








「どう、面白い動きでしょ?……あら、少し避けきれなかったみたいね。綺麗な顔から血が出てるわよ?」



「う、うるさい!!」









ランジェは激昂して、ソフィーネの額に向けて再度尖った鞭の先を飛ばしてくる。


ソフィーネはロープを軽くしならせ、ランジェの近くにあったロープの先に付いている石を弾いた。

石は一度地面をバウンドし、跳ねた方向にあるランジェの鞭の先を撃ち落とした。




攻撃を外されて、さらに頭に血が上ったランジェは次々と鞭をソフィーネに向かって打ち付けてくる。


しかし、ソフィーネは直接叩き落とさず、床や天井や壁を使ってバウンドさせ自在に跳ね返していく。








――ガッ!!



「ぐわぁぁあぁ!」







とうとう避け切れずに、ソフィーネの攻撃がランジェの側頭部に被弾した。








「もう、絶対に許さねぇ……」







そう言ってランジェは、鞭を捨て右手に短剣を逆手で握り構えた。








「……いいわよ、かかってらっしゃい」








ソフィーネはそう告げて、自分もロープを手放し接近戦の構えを取る。






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