3-110 確認3
「さぁ、ブンデルさん。教えてください、あなたはサナを町の外に出した時、もしサナの身に何かが起きた時……私たちが決定しサナが町を出て戻れなくなった時、あなたはどのようにこの”責任”を取るおつもりなのかしら?」
イナからの問いかけに返答するまで、周りから見れば数秒程度の間だった。
だがブンデルには、その間が一分程度の時間が流れた様に感じていた。
その考えをまとめている間、頭の中では高速に情報処理が行われていた。
ブンデルは思い出していた、ステイビルから逃げ出そうとしたとき偶然にもサナが追われていた。
その時、自然と身体が動いてサナのことを守っていたこと。
サナの魔法と、やさしさで看病してくれたこと。
その後もずっと、ブンデルに付き添ってくれていたこと。
いま思えばわずか一日だが、いつも隣にいてくれたサナは、居心地が悪いものではなかった。
(何なんだろうな……この感情は)
ブンデルは今までも味方がおらず、家族もいなかった。
誰かに助けてもらったり、心配されたりすることもなかった。
心の中に空いていた隙間が、ちょうどよく収まったように感じられた。
そうだ。今まで、こんなに誰かのことを考えることなんてなかった。
昨晩も眠る前、ついついサナのことを思い出していた。
ドワーフ特有の土のような匂いと、気にしているのか髪の毛からは花から採取したいい匂いが、雨上がりの森の中を思い出させる。
(決して嫌いではないな……)
それにいつも身体を寄せてくれて、寄り添ってくれる腕に触れたサナの肌の柔らかさとその温かさがそんなに時間が経っていないが懐かしく思える。
(嫌だ……あの心地よさ、手放すなんて嫌だ)
ブンデルは、ゆっくりと息を吸い込み頭のなかでまとめたことを口にした。
「責任……か。あぁ、いいさ。私がサナのことを責任をもってその身を守ろう。エルフはドワーフよりも寿命が長い、サナのことを見守るくらい訳がないさ。だが、この世の中には私だけでは守れないこともある。その時はステイビル、それにイナたちにも協力してもらいたいが……それはいいか?」
ステイビルは笑みを浮かばせながら、ゆっくりと頷く。
「それと、これはお願いなのだが……」
「なんでしょう?」
イナは、表情を出さずに言葉を返す。
「サナを町の外に出す……いや、町以外の世界のことを見せてあげて欲しい。私と違って、サナは決してこの町が嫌いで出ていくわけではない。だから……その……この町に戻ってくることも……許してあげてくれないか?」
「……サナやあなたにとって都合の良いことばかり言うのね。残された者たちのことは、考えられていないんじゃない?」
「うっ!?」
「先ほどからあなたがおっしゃることは、”サナ”のことしか考えていないんじゃないですか?なぜ、そこまでサナのことを庇っているのですか?」
「そ、それは……」
また、ブンデルは言葉に詰まってしまっていた。
「どうしました?何か言いたいことでもあるのですか?」
「私は……自分の育ったエルフの村を捨ててきた。半ば追い出された、いや逃げてきたのだ」
「それが、サナに何の関係が?」
「聞いてくれ……私は、その村で邪魔者扱いされ続けてきた。助けてくれる家族も、仲間も誰もいなかった。苦しい年月を過ごしてきたよ……もう我慢ができなくなって、村を飛び出した。もちろん、誰も探しに来てはくれなかった」
ブンデルは椅子に座り、膝の上に肘を置いて祈るように前かがみになり目をつむって手を組む。
「でも、よかったと思えるのはいろんな世界を歩き回って見れたことだ。孤独だったが、エルフの村にいた頃には見えないものが見ることができた。確かに村の中だけで生き続けるには、必要のないことも多いだろう。だが、世の中には外に出ないと知らないことがたくさんあるんだ」
ブンデルが次の言葉を発する前にイナは、黙ってその言葉の続きを待っている。
「サナが外に出たいというのは、そういう好奇心から生まれたものだと思っている。知らないよりは知っていた方がいいだろうし、知識だけよりも体験した方がずっと成長できるからな」
ブンデルは自分の胸に手を当てて、体験することの大切さを力強く話す。
「それにうまくは言えないが、それがサナにとってもこれからのドワーフの町にとっても良い結果につながると思ったんだ……」
うまく伝えられたとは思っていないが、言い終えたブンデルはまた下にうつむいて手を組んで黙り込んでしまった。
「”町が変わるなら、我々も変わる必要がある”……ですか。先ほども言いましたが、確かにその通りではあると思います」
イナが、ブンデルに対して先ほどは違う厳しい口調を解いた。
だが、ブンデルはその言葉に対して先ほどのように顔を上げなかった。
「イナ……もういいんじゃない?」
「そうね、ブンデルさんのことも分かったわ」
先ほどとは違う二人のドワーフの声に、ブンデルは驚いて顔を上げる。
その表情は、今までの冷たい表情ではなく昨夜の会食で一緒に楽しんだ信頼している顔つきだった。
「それじゃあ、もういいのですか?」
ステイビルも、イナに確認を取る。
「はい。お手伝いしていただき、ありがとうございました」
イナがステイビルに、笑顔で返答をした。
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