3-107 サナのお願い
「助けてください、ハルナさん。サナさんが一緒について行かせてくれって……しつこいんですよ」
この会食が始まってから、サナはブンデルにべったりとくっついている。
傍から見ても、”これは……”と思わせるほどの状況だった。
だが、ブンデルの方は迷惑そうにしているが、拒絶するといった態度でもない。
そのため、サナはいつまでもブンデルの隣から離れなかったのだ。
周りも”気を使って”二人にはなるべく話しかけない様にしていたが、ハルナはそれぞれの場でそれぞれの話で盛り上がっているため自分の居場所を求めてこの場にたどり着いたのだった。
「ハルナさん……私も連れて行ってもらえないでしょうか?ヒールも使えますし、お役に立てると思うんですけど」
サナは、ブウムの服の端をしっかりと握りしめて、ハルナにもお願いした。
「そ、それは私の判断だけじゃ、何とも言えないわ……」
「それでは、ハルナさんから皆さんにお願いしてもらえませんか?よろしくお願いします!」
「う、うーん……ちょっと聞いてみるけど。その前に、一つだけ聞いてもいい?」
「え――?あ、はい」
「ブンデルさん、少しサナさんをお借りしますね」
「どうぞ」
ハルナの言葉に対して、ぶっきらぼうに答えるブンデル。
ブンデルは、ハルナから断りを入れられる理由がわかっていなかった。
ハルナは周りを見渡して、誰も近くにいないという場所がなかったため、二人でいったん部屋の外に出た。
部屋のガヤガヤした音が小さくなる廊下の突き当りまで行き、一応ハルナは周りを見回して誰もいないことを確認する。
時折、遠くから楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
確認すると、ハルナは背が小さいサナの目線に合わせて膝を曲げて屈む。
サナも黙って、ハルナの顔をみつめ返す。
「あの……サナさんって、ブンデルさんのことが好きなんですか?」
その言葉を聞き、サナの顔が一瞬にして真っ赤に染まった。
「ど、ど、ど……どうして……わ、わ、判ったんですか?」
ハルナは、サナが周りが気付いていないと思っていることを不思議に思ったが、ここはサナを気使い知らないフリをした。
「えーっとね、それは……そう!勘よ、女の勘っていうやつよ」
ハルナは少し言葉の使いどころが間違っている気がしたが、そのまま押し切ることにした。
「……で、どうなの?やっぱり好きなの?」
「……はい」
いつもは堂々としてハキハキしているサナが、照れながら恥ずかしそうにしている姿は、ハルナの目にかわいらしく映った。
「そうなのね……それでブンデルさんといっしょにいたいから、付いてきたかったのね?」
「は、はい。それもありますけど、外の世界を見てみたいっていう気持ちもありまして……」
サナたちは、前長老からいろんな勉強をさせられていた。
歴史、生き物、植物、自然現象、魔法、精霊……長老に必要な様々な知識を得ることが出来た。
知れば知るほど、外の世界がどうなっているか知りたいという気持ちが強くなっていく。
他の二人に話してみたが共感が得られず、いつも一人で外の世界への空想を広げていた。
今回、町が解放されることと同時に、旅をしている人間とエルフが現れた。
サナの中では町の外に出られるタイミングときっかけとして、二度とないくらいの条件がそろっていた。
サナの好奇心は、この騒動が終わってから破裂寸前なほど膨れ上がっていた。
その気持ちを聞いたハルナは、このことを一度ステイビルに相談するので待って欲しいと告げた。
それとサナと旅をするも楽しそうだということも付け加えて。
「……だけど、サナさんの望み通りにならないこともあるから」
「はい、わかっています。そのことを伝えてもらえるだけでも、うれしいです」
「分かったわ!それじゃ、向こうに戻りましょ!」
「あ、ハルナさん……さっきのことは、黙っててもらえますか?」
「え?……あぁ、ブンデルさんが好きってことね?分かったわ、誰にも言わないから!」
「ハルナさん、声が大きいです!」
「ご、ごめんなさい」
ハルナが謝ると、サナは笑いながら手を引いて元の場所に戻っていく。
(多分、みんな知ってると思うんだけど……)
ハルナは心の中で、さっきの件を思い返した。
そして会食は終わり、今夜はドワーフの町に泊ることになった。
ハルナは落ち着いたころに、先ほどの話しをステイビルに伝えた。
サナとの約束通り、恋愛感情の部分は伏せておきながら。
ステイビルは一同に確認するも、反対する者はいなかった。
だが、ドワーフの長老の一員とする者が、この町を離れてしまうことについては問題があるのではないかといういう意見がアルベルトから出た。
「……そうだな。そこは、あの三姉妹やドワーフ側の方で問題が無ければということになるな」
この決定で、ハルナたちも同意した。
「ブンデルさんも、それでいいか?」
「わ、私は特に……何もありませんよ。私は、この水の問題であなた方のお手伝いをしているだけですから」
この場にいる誰もが、サナはブンデルについて行きたいだけだということを思っていたがそれを口にする者はいなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます