3-81 ドワーフとの試練
「ちょっと待って……そこにいるのは、エルフじゃないの!?」
「ま……マズい!?」
ブンデルは、ドワーフの町に入る際に変装をしていた。
ドワーフの縄張りの中で、一人山の中に置き去りにされてしまうのは問題と感じていたからだ。
この局面で相手の状況を知ることや、この結末を見届けるにあたり詳細を知らなければエルフの村に戻った時に報告ができない。
それに、ブンデルは変わり者でドワーフの町に興味があった。
そもそもなぜ、二つの種族は争っているのか?
ブンデルは、ある日こんな疑問を持った。
これに関しては、エルフの有識者に聞いても納得のいく答えが得られることはなかった。
逆に、疑問を持つなと叱られるほどだったのだ。
いつからか二つの種族は争い始めた。
ここ数年はエルフが水の問題で大人しくなっていたが、それ以前は何度か争いが起きていた。
因縁の対決のような対決は、いつしか理由もわからない争いに変わっていた。
エルフはドワーフを、ドワーフはエルフを目の敵にする。
反射的に相手を敵認定してしまうのだった。
ブンデルはみんなに認められたいが、戦闘技術も魔法も特段眼を見張るものがあるわけではなかった。
むしろ、"役に立たない"レベルだ。
その上、誰もが疑問に思わないようなことを口にするので、変人扱いされていたのだった。
「ちょっと待ってください!?ブンデルさんはエルフですが、悪い方ではありません!今回の水の問題を解決したいと、エルフ"代表"で解決に当たっているのです」
「え!?」
エレーナは、エルフを見つけた長老の一人に進言した。
それに驚いたのは、ブンデル。
エレーナの勝手な思い込みで"エルフ代表"にさせられてしまった。
「そうだ、われわれはこのグラキース山で起きている問題について解決していきたいだけだ。ことを荒立てるつもりはない、ここは一旦兵を下げてくれまいか」
ブンデルが訂正しかけたところを、ステイビルが言葉を重ね発言を止めてしまった。
その上でさらに発言できるほど、ブンデルの心臓は強くはなかった。
左端に座っている長老が、片手を挙げて兵に武器を下げさせた。
そのまま兵は、ハルナたちの後ろに並びいつでも対応できるように準備をする。
「わかりました。あなたの言葉をここは受け入れましょう、人間の王子、ですが……」
すると言い終える前に、最初に言葉を発した真ん中に座る長老が手を挙げて発言を制する。
そして、左側の長老に向いて頷き、椅子から立ち上がりステイビルの目を見る。
「ですが、我々はあなた方を信用するに至っていません。その実力と真意を確かめさせてもらいましょう。……”ワイト”、”グレン”」
「「はっ!」」
長老の段差の前で構えていた二名のドワーフが、長老の言葉に歩を前に進めステイビルたちに近づく。
「長老の命に従い、お前たちを試させてもらう」
「我ら二人を見事倒した際には、長老と話し合いが行える権利を与えてやろう」
ルールは、参加者一名だけ。
ワイトとグレンと対峙し、砂時計の砂が落ち切る前に背後を取れば勝ちとするとのことだった。
武器は一つだけとし、防具の着用は許されない。
これによって、防具による”甘え”を無くし攻防の全てを手にした武器だけで行わなければならない。
武器以外での攻撃は認められず、その時点で失格となる。
兵士が手押しの棚を部屋の中に運び入れて、その扉を開く。
そこには様々な武器が掛けられており、一点だけ自由に使用してよいとのことだった。
今回、誰がこの試練を受けるかということになるが、ソフィーネはまだ体調が万全ではなかった。
武器を使用するということで、当然ハルナたちの精霊使いの出番はない。
となれば、残るはステイビルかアルベルトかということになる。
万が一ステイビルに”何か”起これば、大問題となってしまうと考え、アルベルトが名乗りをあげた。
「いけません!いまは中で……あ!」
外の警備のドワーフを押しのけ、扉を開けて入ってきたドワーフがいた。
「あ、ジュンテイさん」
「おう、間に合ったようだな。アルベルトとか言ったな、どうせお前がこの二人とやるんだろ?これを使ってみてくれ」
そう言って、一本の剣をアルベルトに向かって投げた。
「――これは?」
「嫌な予感がしたんでな、急いで整備して持ってきた。たぶん、こういうことになっていると思ってな。……そいつでこいつらの目を覚まさせてやってくれないか?」
「ジュンテイ殿……私は”目を覚まさせる”なんて、おこがましいことはできません。ですが、私たちのためやこの山に住む方々たちのためでもあるため、全力でやらせて頂きます」
そういうと、アルベルトはワイトというドワーフと向き合った。
向かい合った瞬間、デイムよりも強いことがわかる。
「ジュンテイ様は、お年を取られましたな。昔はドワーフの誇りの塊だったようなお方でしたが……あの頃は尊敬しておりましたのに」
その言葉を聞き、ジュンテイは鼻で笑う。
どうやら、ジュンテイと長老との間に何かあることは感じ取れた。
だが、目の前に立つ男は簡単に勝てる男ではない。
今まで先頭に立ちドワーフの町を守ってきた実力があるのだろう。
そう思いながらアルベルトは、鞘から刀と呼ばれていた剣を抜いて両手で構える。
切っ先に反射する光が冷たく輝いていた。
「それでは準備は良いですか……はじめ!!」
長老の合図で、大きな砂時計が返され砂がゆっくりと時を刻み始めた。
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