3-41 水中での戦い




ヴィーネは距離を置いて、ナマズを前に対峙する。


しかし相手は、自分の動きを取り戻そうと必死になり、ヴィーネの存在を無視していた。

それは、ヴィーネの今までのことをみて脅威となるリスクが少ないと感じていたからだった。




今回の氷による足止めも、まぐれと自分が油断したものだからだと判断していた。







ヴィーネは、ナマズを足止めしている氷を解いた。


その瞬間、氷に当てていた鬚の電気がナマズ自身の身体に触れて、電流が流れビクッと動いた。





『小僧……何をしてくれるんじゃ!?思わず自分を攻撃してしまったぞ!?』






ナマズは茶化そうとしたが、ヴィーネの目が本気になっているのみてそれに応じようと決めた。




顔の前に付いた鬚は、意思をもって振りかぶりその流れで前にいるヴィーネを狙う。





ヴォン!!







水中の中で、狙った場所が高温になり蒸発する。

そこにはすでにヴィーネの姿はなかった。



もう一度、ヴィーネを狙い電撃が走る。






ドン!!







次は逃がさないようにと、やや強めに広い範囲を蒸発させた。





「いまだ!」






ヴィーネはフウカに指示し、それに応じてフウカはその泡の空気を回転させナマズに向かって飛ばした。








『うぉっ!?』





――マズイ!?







永い間の水中のの中で生活をしていたナマズにとって、これは見たことのない現象だった。


そう本能が感じ、動作が鈍そうな身体から考えられない速度で回避をする。



やはり、水の中では空気の円盤も徐々に水の抵抗で小さくなっていく。






「当ったれーーーー!!」








フウカは、ナマズに近付くほど小さくなっていく円盤に向かって叫んだ。



しかしナマズは、その攻撃を身体を反転し回避する。





『ほっほっほっ、今のは危なかったわい……ほーれ、お返しじゃ!!』




攻撃が失敗したと判断し、フウカもヴィーネも急いで今の座標から移動してみせた。



だが、どちらかがいたその場所に爆音と蒸発した泡が起きることはなかった。





「「――?」」




二人は、その現象を不思議に感じて相手の様子を疑った。





すると、放電する鬚が短くなっていた。

先程のハルナの攻撃は、当たっていたのだった。




導線を無くした電気は、ナマズの目の前で火花を散らしていた。






『この……お前ら……ワシの自慢の……ヒゲをよくもぉぉぉぉ!!!』






今まで、余裕を見せていたナマズは急に激怒する。





電撃が使えなくなったナマズは、大きな口を開き二人に噛みつこうとする。






「うわー!」


「きゃー!」







ナマズは何度か挑戦するが、二人は狙いを定めさせないために丁度良い距離を置いて離れていくため、その獲物を捕らえることができなかった。





『ぐぬぬぬぬ……ならば、お前たちに見せてやろうぞ。モイス様から授かった、ワシの本当の力を!』







フウカはその言葉に警戒し、どんなことを仕掛けてくるのかを見守った。



だが、一向に何も起きない。



何をしたのかわからず、自分の身体を見まわして確認する。

しかし、何も起きていなかった。







「ねぇ、ヴィーネは大丈夫?」



「……ぅぅぅぅぅぅ」





ヴィーネは目を開けたまま、一点を見つめている。







「――?ねぇ、ちょっと……」







フウカが声をかけた時、ヴィーネの身体がガタガタと震え出した。







「ねぇ、ちょっと。ヴィーネ、しっかりしてよ。ちょっと!?」








ヴィーネの身体を揺さぶったり叩いたりするが、何の反応を示さなかった。

フウカは、焦った。

あのナマズが今攻撃をしてくると、交わしきれない可能性が高いと。



フウカは周りを見渡し、ナマズが今どこにいて次の攻撃をしようとしているか確認した。







「――あれ?」






フウカは見回してみたが、ナマズの姿がどこにもなかった。

よく見ると、元の場所から動いていなかった。






――!?







フウカは気付いた、このナマズがヴィーネに何かを仕掛けているということに。






フウカはヴィーネと額を合わせて、何とかヴィーネの気持ちを読み取ろうとした。


するとフウカの意識は遠くなり、違う意識の中へ入っていった。






フウカは辺りを見回すと、遠くで鳴き声が聞こえてきた。


その方向へ飛んでいくと、ヴィーネをドラゴンが追いかけていた。








「誰かー、助けてー!!」



「あ、ヴィーネだ!」






フウカは、ハルナのように無数の空気の弾を作り出す。





「いっけー!」





無数の空気のホーミング弾は、青色のドラゴンの横顔に命中をしていく。






『グォオオオオォオオ!』







顔を吹き飛ばされたドラゴンは、よろけてそのまま倒れこんだ。






「あ、フウカちゃん!」



「何なのここ?」



「わからないんだ。水の力も使えなくなって……逃げることしかできなくなって。っていうか、フウカちゃん、どうやってここに?」







『グゥルルルルル……』






ドラゴンはゆっくりと身体を起こし、頭を振って目を覚ます。






「と、とにかく逃げないと!?」





ヴィーネはフウカの腕を引っ張り、逃げ出そうとした。

しかし、フウカはその力に反発して、ドラゴンと対峙した。






「ふ、フウカちゃん!?」




「……こいつね、きっとあのナマズだよ。ヴィーネの中に入って、幻覚を見せてるだけだよ」






唸り声をあげていたドラゴンは、おとなしくなり二人への威嚇を止めた。






『……ふん。よくわかったな、小娘よ』




ドラゴンの身体は光りを発して、その姿を変えていく。

光は小さくなり、ナマズの姿になった。





「あたし、ここに来る前に二人が動いてない姿を見たの。それでヴィーネが怖がってたから、もしかして…って思ったら中に入れたの。ディグドがやってたこと思い出して、自分でもできるかなーって」





『ほぅ、お主はワシの幻術に惑わされなかったということか……さすがじゃな。モイス様から聞いていた通りじゃ』




そういうと、フウカもヴィーネも意識が再び遠くに飛ばされていく感覚に見舞われた。




気が付くと、元の通り池の中にいた。





『わかった、これはお前たちの勝ちじゃ。ヒゲが切られてしまって残念じゃが、また生えてくるからの』







そういってナマズは水面に浮上し始め、フウカとヴィーネにも付いてくるように指示をした。










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