3-23 再びの町






(まずい、聞かれたか!?)



ステイビルは身体をこわばらせた。

ここで、モレドーネまでのルートが立たれてしまうことを恐れた。





「スて……イテっ!?」






警備兵の体調がもう一度ステイビルの名を呼びかけた時、どこからともなく氷の礫が飛んできて口をふさいだ。



そしてノーランの後ろから、ソフィーネが冷たい凍るような視線を二人の警備兵に送る。


それを察したのか、若い警備兵は震えながら隊長に告げる。






「た……隊長。こちらのお方は、ガヴァスさまと”申すよう”です」






隊長も、その視線の痛みを感じ取り悟った。





「が……ガヴァス様。た、大変申し訳ございませんでした。こ……こいつはまだ新人な者でして、手際が悪いのです。さ、お通り下さいませ。どうぞ、どうぞ」





そういうと、ステイビルは礼を言ってノーランを連れて馬車に戻った。


その際に今の状況が警備兵の不手際であることを説明し、ノーランの不信感を解こうとした。



ハルナたちも自分の馬車に戻り、街中の運転はアルベルトと交代した。








「ソフィーネ様、これは……一体?」






隊長は先ほどの視線を解き、自分の馬車に戻ろうとするソフィーネに状況説明を求めた。





「この行動は王選の一環です。先ほどの”ガヴァス”と”メイル”という名を周知させておいてくださいね。あと、むやみに話しかけたり驚いたりしないこと……いいですね?」





隊長はソフィーネに了解したことを示す敬礼をし、ソフィーネを見送った。







二台の馬車は方向転換し、関所の人用の入り口の隣にある馬車用の門の前に向かう。

先程の新人の警備兵は、ハンドルを回して門を開く。



門が完全に開き切ったことを確認し、アルベルトは馬車はゆっくり走らせて門を通り抜けていった。






そこから十数分ほど馬車を走らせると、モイスティアの市街地に入っていく。


ハルナは馬車の窓から見えるモイスティアの街並みを、とても懐かしく感じていた。





「ほんと、ついこの前までこの町でいろいろとあったわよね……」



「そうね……何かこう、感慨深いものがあるわね。そういえば、あの美味しい食堂のご夫婦はお元気かしらね?」





マーホンは隣で楽しそうに話すハルナとエレーナを見て、うらやましそうに見つめる。





「そうだ、マーホンさんも落ち着いたら行きましょう。とっても食事が美味しいんです!」



「え……は、はい!ぜひ!!」





マーホンのそんな気配を感じ取ってくれたのか、マーホンはハルナが声を掛けてくれたことを嬉しく思った。

そんな優しいハルナにこれからも付いて行こうと、改めて誓った。






馬車は、ある宿泊所の前に停まる。

ここも、モイスティアで初めて泊った宿泊所だった。


アルベルトが以前、エレーナから話しを聞いていた場所を覚えていた。

ここであれば、馬車が停められることもできこの人数でも問題なく泊まれると考え、ここに決定した。




アルベルトは馬車を降りて、宿泊所の中から出てきた人物と話しをしている。


途中何回かやり取りをしていて、アルベルトが相手の言い分を振り切るように背中を向けて馬車に戻ろうとしが、相手はアルベルトを呼び止めた。

どうやら、価格交渉が成立した様子だ。





「今日は、ここに宿泊します。降りましょう」




ソフィーネも必要な荷物だけを降ろしている。

ノーランも、荷物の降ろし運ぶのを手伝っていた。




「部屋は、三つ用意しました。私とガヴァスさん、エレーナとメイルさん、ハルナさんとソフィーネさんとノーランさんで」





「――!?」





エレーナはその取り決めに一瞬不満を言いかけたが、様々なことを配慮した結果であることを理解した。






「わ……わかったわ」





「それでは各自の部屋に荷物を置いたら、ロビーに集合だ。そのあと食事へ……」




「ちょ……ちょっと待ってください!?」






ステイビルの話の途中で、ノーランが割り込んだ。




「どうしました、ノーランさん?」




ステイビルが、何か問題でもあったのかとノーランに問い質す。





「わたし、昨日もお話しした通り……で、ですね……その……一銅貨も持っていないんです……こんな立派なところ、お支払いできません」





「フッ……そんなことですか。大丈夫、今回は私たちの方から出しておきます。返さなくても結構ですが、その気があればいつでも返しにきてください」






ハルナも、エレーナもステイビルの言葉に頷いている。






「え?でも、昨日お会いしたばかりで……しかも助けてもらったお礼もまだ……」



「そんなこと気にしないでいいんですよ。あ、そうだ。モレドーネに付いたら、いろいろと手伝ってくれればいいんじゃないんですかね?」





ハルナがそういうと、ステイビルもそれはいい考えだと賛同した。






「わかりました。その時は、ぜひご協力させてください!お金も……なるべく、早いうちに返します……たぶん」





これで、この場は一同納得した。





「では、荷物を置いてここに集合するとしよう。そのあと、食事に出かけようか」



「「はい!」」












「……アニキ。いま下の者から連絡がありまして、今日二台の立派な馬車がこの町に到着したとの報告がありました。どうやら、一泊するみたいです」



「なにっ、どこの商人だ?」




アニキと呼ばれた男は、口に付けていた酒のビンを外し報告に来た子分に確認をする。




「それが……商人の証を付けていない馬車でして」




「どこかの貴族か?まぁ、また王国を出た時みたいにちょろい仕事だといいな……おい、そいつらの動向を監視しろ。イケそうなときはすぐオレに知らせろよ」




「ヘイッ」



命令を受けた男は、駆け足で部屋を出ていく。






命令をしたその男の手には、家紋の付いたメダルを手の中でクルクルと回して遊んでいた。









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