2-119 対決
「ボーキンさん、ボーキンさん!しっかりして!!」
ニーナは必死に、ボーキンに話しかける。
きっと自分の声が、人間ではないものに変わろうとしているボーキンに届くと信じて。
しかしその声も虚しく、起き上がるボーキンの顔は既に生気を失った顔付きだった。
「あたしは関係ないからね、ボーキンに呼び出されて手を貸してくれって言われたから、手伝っただけなんだから」
その無関係な態度に、不満そうな態度をとるフェルノール。
そのまま逃げようとするヴァスティーユの足元を、黒い物体で絡めて動けなくしようとした。
「……出来損ないのあんたが、あたしに敵うと思ってるの!?」
ヴァスティーユは、足元の物体を掌から吸収していく。
フェルノールも負けじと、さらにその量を増やしなんとか捕獲しようとする、
が、その努力をあざ笑うように、ヴァスティーユは消し去っていった。
「全く成長してないわね、あんた。こんなので、あたしに手間を掛けさせないで」
「フェルノール。もういい。よせ!」
そう声を掛けたのは、カステオだった。
束縛の力の量が増える程、フェルノールの皮膚が溶けていく
「人間なんかに心配されるとは、やっぱりお前は出来損ないだね、フェルノール!!」
カステオに支えられたままヴァスティーユを睨みつけるが、もう、これ以上相手をすると自分の存在に関わるほどのダメージとなってしまう。
――ザシュッ……ドサ、ゴロン
ヴァスティーユの首は胴体から切り落とされ、音を立てて床に落ちて転がっていく。
それをやって見せたのは、ハルナとフーカの合わせ技だった。
「……うーん、練習してみたんだけどどうかな?」
「あんた、いつの間にそんなの練習してたのよ!?」
いつも一緒に居たエレーナだったが、初めて見る力の使い方に驚く。
「ほら、家からあまり出られなかったし暇だったじゃない?その間、練習してたの。フーちゃんの光の力と風の力一緒にできないかって」
試してみたが、フーカが黒い物体を消す際の光を出している間は、風の力は使えなかった。
力の制御が難しく、風の元素を同時に使うことはできなかった。
その間、ハルナの風の力は問題がなかったため、ハルナの作り出した風に乗せてもらうとうまくいった。
正直、一発本番で上手くいくとは思っていなかったので、本人たちも驚いていた。
「気を抜くな、まだ動くぞ!」
ステイビルの声に、この部屋にいる者たちに再び緊張感が走る。
「くくくくく、やってくれたわね!ちょっと驚いちゃったけど、大したことなかったわね」
転げ落ちた顔から、声が聞こえる。
そして、首を切り離された身体が自分の首を回収しに動き始めた。
「うぇ、気持ち悪い……なんなの一体!?」
エレーナが思わず、悪態をついた。
ヴァスティーユの身体はしゃがんで首を持ち上げ、ソレが元にあった場所に乗せる。
切れた首からは黒い職種のようなものが切り落とされた面同士で結合し、切り落とされた痕は残るが元の状態に戻った。
「やられっぱなしじゃ、しゃくだわね……舐められっぱなしじゃ母様に怒られそう」
ヴァスティーユはさっきまで切り離されていた辺りを手でさすりながら、目を閉じて首を何度か回した。
目を開き、視線をハルナに向けターゲットにした。
「グワアアアアアアアアアア!!」
突然ボーキンが咆哮し、天を仰いだ。
「あ、やっぱりやーめた。後はボーキンさんの相手をお願いね!」
「待ちなさい!!」
エレーナがヴァスティーユに向かって、氷の礫をぶつけにいった。
それをヴァスティーユは、姿を消して避けていく。
「……どこに行ったの?」
「カステオ、後ろだ!」
ステイビルが、カステオに向かって叫ぶ。
カステオは、フェルノールを支えながら後ろを振り向く。
だが、すでにヴァスティーユは攻撃のモーションに入っていた。
「無駄……無駄よ」
その瞬間、ヴァスティーユはフェルノールの身体を横からを手刀で貫く。
「フェルノール!!!」
「それじゃ、あとはよろしくねー」
そう言いながら、ヴァスティーユは姿を消した。
ただ、魔物であるせいか血が流れるようなことはないが、明らかにダメージを追っていることは確かだった。
「エレーナ、ハルナ!ボーキンが来るぞ!」
ボーキンは、ハルナのいる場所に向かって飛び掛かってきた。
エレーナハステイビルの声にも反応し、ボーキンの襲撃を氷の壁で防いだ。
壁に阻まれて、一瞬ひるんだボーキンをステイビルは見逃さない。
ボーキンの横腹に、飛び蹴りを入れ込んだ。
ボーキンの身体が、横に吹き飛ぶ。
ステイビルの手には、剣を持っていたがそれを使わなかったのは、ボーキンに対する考慮だった。
「ゴゥワァアアアアア!!」
意識は無くしているが、自分自身が攻撃をされたことに対して怒ったボーキンが叫んだ。
そして、直前に攻撃をしてきたステイビルに向かって素手の攻撃を仕掛けてくる。
ステイビルはボーキンからの攻撃に、
強者を感じさせた高い技能は全く感じられなかった。
ボーキンは自分の攻撃が通用しないと感じ、攻撃方法を変えてきた。
一旦距離を取り、掌の中に黒い炎を作り出し、その炎をステイビルに向かってオーバーハンドで投げつけてきた。
「――マズい」
ステイビルは、剣を構えその炎を弾いた。
しかし剣は、黒い物が纏わりつき溶け始めている。
手持ちの武器はなく、これ以上の炎を防ぐことはできない。
ボーキンはステイビルの不利な状況を構わずに、再び炎を投げつけてきた。
「危ない!」
後ろから声がして、炎を剣で切り裂いた。
「シュクルス、助かったぞ」
小さな身体のシュクルスがあの剣を持ち、ステイビルの前に立ち炎の攻撃から防いで見せた。
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