2-111 ステイビルとカステオ





ステイビルはフェルノールのことを魔物と呼んだ。

二人はその言葉に驚きもせず、ただステイビルの顔を見つめるだけだった。



「私の従者になぜそのようなことを、失礼ではありませんか?」




その言葉の裏側に、全く怒りの感情を含まない言葉でカステオは返した。


「警備兵から、稀にフェルノール殿が夜間外出しているとの報告を聞いている。そしてその際には、必ず町に行方不明者が数名出るとのことだ。それに我々のものが仕掛けた情報に嵌ってくれた時、寄こしたアンデットから行方不明になった人物の遺留品が見つかった。こんな偶然はなかなかあるまい?」





「……ああいう金属はなかなか消化できないのよね」





フェルノールは面倒臭そうに前髪をかき上げ、申し訳なさそうに笑う。




「いいのか?私にバラしてしまっても」



「あなたにバレたところで、この国で私をさばいたりすることはできないでしょ?それよりも、正直にお話ししてこちらに付いてくれるようにお願いした方が良いと思ったの」



「信用されている……のか?」



「信用とは、ちょっと違うわね。興味があるのよ、あなた自身にね」



「あまりうれしい話ではないな……」



「まぁ、そんなこと言うなよ。こんな素敵な女性に気に入られているんだから」



「お前には、この化け物が女性に見えるのか?変な趣味があるんだな、西の国は」



「……なんだと?」



このやり取りの中で初めて、感情の波が揺らぐ姿を見せた。




「カステオ様!?」




カステオのその反応に驚いたのは、フェルノールだった。




「止めるな、フェルノール。いまこの男は我々のことを侮辱したのだぞ……」




「侮辱はしていないさ、本当のことを言ったまでだ」






――ガタッ






カステオはその場に立ち上がり、ステイビルを上から見下ろす。





「……そんな大口を叩くということは、実力も相当なものなのだろうな?勿論、その腰に下げているものは飾りではないのだろ?」



「当然ですよ、カステオ殿。何ならお確かめになられますか?」





ステイビルはわざと下手に出て、カステオの感情を逆撫でする。




「やめてください、カステオ様!相手の挑発に乗ってはいけません!」



「邪魔をするな、フェルノール!ここまでされたら、西の国の沽券にかかわる問題だ。西の国のルールに従い、この者に己の愚かさを判らせてやる!」





ステイビルもソファーから立ち上がり、警備兵の装備品であるチェストプレートを外した。





「どうした?着けたままでも、構わないぞ」



「逆にこういうものは邪魔だしな……なんだったら、着けても構わないぞ。サイズも、丁度合いそうだろ?」






そう言ってステイビルは防具を差し出すが、カステオはそれを手で払いのけた。






「ふん、痛い目を見ても後悔するなよ?」





カステオはステイビルを連れて、王宮警備兵の訓練所まで案内する。

そこには木製の剣もあるが、二人は今身に着けている装備品で構わないと言った。



お互いに腰の剣を抜いて構える。共に盾は使わず、両手持ちの状態で剣を構えた。





「……それでは、いくぞ」





カステオはそう告げて、ステイビルも応じる。

構えは共に剣先を下に向けた下段の構えだが、ステイビルは左利きのため同じ方向に剣を構えた。



二人は、ジリジリと距離を詰めていく。

そして、ほとんど同時に足を前に進め相手に飛び込んだ。




――ガギン!





二人の剣は鈍い金属音を立てて、鼻先で交差する。



お互いの息がかかるくらいの至近距離で、力比べが続く。

二人ともこのままでは拉致があかないと踏んで、相手の剣を弾くようにバックステップで距離を置いた。




そこから中距離で剣が何度もぶつけ合う。

様々な方向から剣を切りつけていくが、お互い一歩も譲らない状況が続く。


フェルノールも横で見守っているが剣技については詳しくなく、サポートしようにもどこで割り込むべきかわからないくらいの高度なやりとりが続いていた。




しかし、あることをきっかけに均衡が破られることになる。




ステイビルは、剣の構えを左から右に持ち替えた。

今まで左側からの攻撃に慣れていたカステオは、急に右にスイッチした攻撃に、一瞬対処できなくなった。




その一瞬の隙を、ステイビルは見逃さない。




カステオの手から、剣が弾き飛ばされて宙を舞う。




――ガシャーン





カステオはそれと同時に力尽きて、崩れ落ちるように床に膝をついた。





「負けた……好きにするがいい」



「カステオ様!?」





フェルノールは、悲痛な声で叫ぶ。





「次は私が相手です!」






凄い形相でフェルノールは、ステイビルに向かって勝負を挑む。

その手からは、ハルナたちが言っていた黒い炎が見えた。





「待て!」





カステオが叫び、フェルノールを止める。






「これ以上恥をかかせるな、フェルノール。私は勝負を挑みそれに負けた、強いものに従うのはこの国の掟だ。それにお前ではこの男の相手にならんよ」



「しかし、この者はあの剣を持っておりません。ですので、私が負けることはありません!」



「……ほう、それがあの剣を探している理由か?」






フェルノールは、ステイビルの言葉にハッとする。




「我々の精霊使いが言うには、あの剣には黒いものに侵されているものを消し去る力がある聞いたのだが……」



フェルノールはカステオの顔を伺う。カステオは負けた悔しさから、顔を下に俯いたまま反応をしない。

その様子を見て、あきらめた様にフェルノールは語り始めた。






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