2-77 西の国の事情






王女は、一礼をしてハルナたち告げた。



「とにかく、ここから離れて場所を変えましょう。詳しいことはそちらでご説明いたします」



ハルナたちは言われるままに、ボーキンとニーナと呼ばれた王女の後ろをついて行った。







着いた場所は、ボーキンの自宅。

洞窟を出て大きな建物……警備兵の本拠地を堂々と横切っていった。

途中、何人かの警備兵にすれ違ったが、不思議と何も言われはしなかった。


そこから何の問題も起きず、本拠地をでて近くの大きな建物中に入ることが出来た。




「ようこそ、わが家へお越しくださいました。どうぞごゆっくりしてくださいね」


そういって、淹れてくれた紅茶を各席のテーブルの上に置いて回る。




「奥様、いつもお邪魔してすみません……」




ニーナはボーキンの奥さんに対して、感謝の言葉を告げる。



「そんな、勿体ないお言葉……有難うございます、ニーナ王女」



女性の言葉に、ニーナは更なる感謝の気持ちを乗せた笑顔で返した。




ボーキンはその女性を見て一つ頷くと、女性はドアの前でお辞儀をして退室していった。






「……さて、そろそろご説明させて頂いてもよろしいでしょうか」




ボーキンはこの部屋の中が、関係者だけになったことを確認して話を切り出した。




「今回の件……誠に申し訳ありませんでした。すぐにでもお助けしたかったのですが、西の国の事情があり遅くなってしまいました」



「西の国の事情……ですか?」





クリエがボーキンの言葉に対し、疑問で返した。





「そのことについては、私からご説明しましょう」





ニーナが身を乗り出して、クリエの言葉に応える。




「その前に東の国の方でも、先日から王選が始まったばかりでしたね。今年は少し精霊使いの方の選別もあったようですが……」




そう言いつつ、今度はハルナの顔を見る。

ニーナは、リリィとハルナのことを言っており、その結果も知っている様子だった。



「すみません、悪い癖ですね……こんな話の入り方をしてしまうなんて」




一瞬だけ寂しそうな表情を見せて、すぐに冷静な表情に戻した。

そのわずかに見せた表情は、まだ自分の力では何もできないことを不安に思う少女の表情が見えた。





「実は、わが国でもそろそろ王選が始まるのです。現在、その派閥の争いが水面下で既に起こっています」




ニーナはまず、東西の国の王選の違いを簡単に説明する。


東の国では、王子が精霊使いと組んで、それぞれ四つの属性の大精霊と大竜神の加護を受けたものが次の王様となる資格が得られる。



西の国では、候補者は国内の敵対する派閥を制圧してこそ王として認められるようになる。

おおよそ、以前アーリスが西の国についてレクチャーをしてくれた内容と一致した。


だが、その争いの中において、相手の生命を奪うようなことをしてはいけなかった。

そのことは西の国で生活している者全ての共通認識のひとつだった。



人材は国の財産。


攻めてくる敵であれば容赦はしないが、王選において味方同士で命の奪い合いをすることはタブーとされている。

その暗黙のルールを破れば、西の国は優秀な人材を失ってしまう可能性もある。

それを破った者は、厳重に処罰されると国の中では噂になっている。

幸い、今まで誰も犯したことのないルールのため実際に処罰を受けたものはいなかった。



そのため、先程の洞窟の警備兵へも生命を奪うような危害を加えたりはしなかった。





「……そして、最終的な決着は指定された日付に行われる投票において、八割を超える指示が得られれば、その者は次期王として認められることになっているのです」




「そうなんですね……誰もその決定に不満を持ったりしないのですか?」



「はい。一度決まれば、負けた勢力も新王の方針に従うようになっています。それこそ、従わない場合は”反逆罪”が適用されますからね」




「もう、王選の開始は正式に宣言されているのですか?」



「いいえ、これはまだ正式には発表されていません。ですが、王国内で検討され始められれば、直に始まるでしょう。既に、上層部では話し合いが行われていますし。それまで、何もしないのはその派閥の勝手ではありますが、もしもそれが負けの要因になったとしても言い訳にはならないでしょうね」




四人は、この国には”力が全て”といった印象を受けた。



そこで、ソフィーネが本来の問題に引き戻した。





「なるほど、現在の状況は分かりました。ですが、なぜ我々がこの国に入った途端に牢屋に入れられなければならなかったのでしょうか」





その問いに対して。ニーナは答える。




「あなた方が捕まえた警備兵は、”王子の派閥”だったからです」





そう説明されたが、ハルナは自分たちが受けた酷い待遇とは結びつかなかった。







「王子派閥は、森を焼いたという暴挙を世間に知られたくはなかったのです。ですから、状況が落ち着くまたは偽装できるまであなた方を拘束しておきたかったのでしょう」



「ということは、あの男は”王子”側?……では、アーリスさんは?」



「アーリスは、私のためによく動いてくれています。私もアーリスを信用しています」





「よかった……ところで、ニーナ……王女?様?さん?」




ハルナは、とっさのことで自分より年下の位が高い人物への敬称に戸惑ってしまった。




「ハルナさん、そんなに堅苦しくなくていいですよ。ここで東の方とお知り合いになれたのも何かのご縁です。できれば、今後ともよい関係でいたいのです」




「わかりました、ニーナ”さん”。こちらこそよろしくお願いします!」






そういわれて、ニーナはにっこりと笑った。



「それで、何かお話しがあったのではないですか?」




「あ、そうでした。今回の件ですが、あの警備兵の処遇について何ですが……」





「実は、それについてご相談があるのですが……」





ニーナはハルナの顔を見て、自分の考えを告げた。







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