2-19 伝言




「ま……まさか……」




「それ……それって……」





ハルナとエレーナが声を漏らした。




「……これは皆様方も知っておかれた方が良いと思います。あなた方だけではなく、王家にも関係のある話なのです」




カルディは神妙な顔つきで話をする。

一同は息を飲み込んだ。







「実は、貴族の中で今回のの王選に対して邪魔をしようとする動きがあります……」





……

…………

………………





「え?驚かれないの……ですか?」




「あの、実は先ほど聞いたのです。ルーシーさんから……」





ハルナは申し訳なさそうに、カルディに応えた。



その言葉に助け舟を出すかのように、ルーシーが続く。





「もう、ここまで来たらこのメンバーで隠しておくことはないでしょう……。その件に関しては、セイラム家でも調査を進めておりました。クリエ様がこちらにいらっしゃる前にこの内容をお伝えしております……あの……少し嘘を付くような形になってしまってごめんなさい」




ルーシーは素直に詫びた。

そうでなければ、この先の信頼関係に影響が出ると判断した。


やはり、嘘つくのは気持ちの落ち着き場所が悪いのだ。





「そうだったんですね……でも、同じ情報を共有できてよかったです!」




そう言って、まとめたのはクリエだった。



クリエたちも、できればこの王選の四人が協力してくれた方が助かると思っていた。

それにより、貴族たちの争いに抗うことが出来ると思ったからだ。


事前に状況を知っていてくれていたのも、説明する時間も省けて短縮につながる。

しかも、同じことを”気にして”いたのであれば方向性も間違ってはいないのだろう。


あとは、お互いの情報の内容とその信憑性。そして、どうやってその”こと”に対応していくか……





四人はとにかくこの場は解散して、また近いうちに状況を合わせていくことにした。






「……ふーん。なんだかいろいろと動き出しそうだね」






ディグドは、姿を消したまま呟いてハイレインの元へ報告に向かった。












ここは王都の中に建てられた別の場所。



数ある王国とつながりのある貴族、”ガストーマ家”の屋敷。






「……コルセイル様、連れてまいりました」




「よし、入れなさい」




コルセイルと呼ばれる人物は、ハイレインがまとめている施設の中で働いている貴族の中の一人。




「この者はリリィと申しまして、ガストーマ家に仕えている者の娘で精霊使いです」




リリィと名乗る娘は、下にうつむいたままだった。






「リリィ……顔を見せなさい」






リリィは顔を上げて、机の椅子に座っているコルセイルの顔を見る。

その表情は怯えていた。



「リリィ、貴女をこれから”王選”の精霊使いに推薦します。そこで成果を上げて王選に参加してみせなさい……いいですね」





「わ……私にはできません……そんな大きな仕事……なんて」




コルセイルは席を立ち、リリィの傍まで歩く。





「あなたのお父様、ガストーマ領地の森の管理業務から外されそうなの……ご存じ?」




「い……いいえ」




「そのことについて、私が”ひとこと”言ってあげてもいいんだけど……どうします?」





「……一度家に帰って相談したいのですが」




こんな重要なこと、一人で決めれるはずがない。

誰かに……相談したいと思うのは、当然のことだったが――




「それは、困るのよね。このことは他の誰かに漏らしてほしくないの……今、ここで決めてほしいの」




リリィは緊張のあまり、服をずっと握りしめている。

力が入り過ぎて、その手の感覚は既にない。



背中には何度か、汗が服の中で滴って流れ落ちている。






「どうする?」





どのくらいの間が開いたか分からないが、再度コルセイルの声が耳に入る。




リリィ自身も、この答えに承諾以外の答えがないのはわかっていた。

目を閉じて、ゆっくりと縦に首が動く。




「……そう、やってくれるのね。大丈夫……貴女ならきっとやれるわ」





(あの娘を……ね)












「ねぇ……エレーナ。他の町の人たちって、王選ってどういう位置付けなのかなぁ」




メイヤが淹れなおしてくれた紅茶で、くつろぐハルナ達。





「ハルナさん、王選とは大きなチャンスなのですよ。町にとっても精霊使いにとってもです」



オリーブが答える。





「それは、王家の人と知り合いになったり、親族になったりできるからでしょ?……でもね、王選に出たくて精霊使いになるわけでもないんでしょ?そうしたら、今回のことなんて”棚から牡丹餅”みたいなものじゃない」



二人が揃って”棚から……なに?”と聞き返した。





「確かにその通りね、最後の言葉の意味は何となく分かったような気がするけど。だけど、それを政略的に狙ってくることも、中にはあり得ると思わない?」



「うーん……確かに、無くは……ないわね。でもそれって、相当時間も手間もかかる話じゃない?」




「その手間暇かけることをする人もいる……ってことですよ、ハルナさん。私は、絶対に考えつかないですけどね」




肩をすくめるようにして、可能性を告げるオリーブ。





「オリーブのいう通りよ、ハルナ。私もハルナの意見には同意なんだけどね。自分に何ができるかよりも、王国に近い位置にいるっていうことの方が重要な人もいるのよね……」




ハルナは、エレーナの意見に納得した。

どこの世界でも、名誉な名前が欲しいという人もいるのだ。




「……で、エレーナはなんで精霊使いになったの?」



――ぶっ!




エレーナは口に含んだ紅茶を吹き出した。

そして、ゴホッゴホッと気管に入った液体を何とか出そうと試みた。




「い……いいのよ!そ……それはま……また今度、ゆっ……ゆっくりと……ね!?」




そんな変な質問をしたわけじゃないのに、とハルナの感がひらめくがここは黙っておくことにした。




(今度お酒飲みながらゆっくり聞いてあげよう……もちろんアルベルトさんといっしょにね!!)




嫌らしい笑いをエレーナに向けるハルナ。




そして、ディグドが姿を現す。




「あら、ディグド様。どうされました?」



ディグドはゆっくりと三人の前に降りてきた。





「ハイレインからの伝言で、”今回は何もしないこと”だって!」


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