第30話 南国慰問旅行の事(1)
ヒャッハッハッ水だ~~っ!
飛び散る水しぶき、サンサンと照り付ける太陽!
小型ヨットから伸びるロープを掴んで、水上を駆けています。
波を超える度に白波が立っています。
ここはグァムです!
地上の楽園です。
長かったぜ!
ちょっと信長ちゃんと南国ツアーに行こうと思ったら、3ヶ月越しになっちゃったよ。
やっと念願のグァム旅行です。
「忍様」
「信長ちゃん、楽しめている」
「最高です」
それはよかった!
四艘のヨットで、2つの浮きブイを回る競争中です。
参加者は信長ちゃん、私、藤八、弥三郎の4人です。
「負けないのです。わぁひゃあ!」
「最下位脱出です」
普通に競争しても面白くない。
私達をサーフィンを引っ張ると言う特別ルールです。
落水すると、そこから再スタートと言うペナルティーが与えられます。
ホントは水上スキーをやりたかったのよ。
ヨットの速度じゃ、スキー板では浮くのは中々に難しい。
サーフィンなら余裕と思ったけど、これも超難しいのよ。
波を超えるタイミングを間違うとあっと言う間に落水です。
10周勝負にしたけど、最初の2~3周は何やっているのか?
落水競争じゃないよ。
ヨットの操舵は二人です。
信長ちゃんは迷わず、佐治さん、飯母呂の水夫を選んだ。
私も迷わず、慶次様と宗厳様を選んだ。
弥三郎は長谷川と佐治の水夫、藤八は山口飛騨守と飯母呂の水夫のペアを選んだよ。
千代女ちゃんらはパラソルの日陰で観戦です。
賭け率は、信長ちゃんが2倍、私は6倍、藤八が4倍、弥三郎は18倍だ。
信長ちゃんが最有力なのは佐治さんがいるから鉄板です。
これは仕方ない。
私はお祝儀だ。
しかし、何と!
慶次様と宗厳様、ヨットの操舵は今日が初めてなのに、あっと言う間に習得しちゃったよ。
天才ズっ!
藤八が賭け率二位なのは、昨日のサーフィン大会を優勝したからだよ。
運もあるけど、空中で横に一回転する『スリーシックスティ』とか、初心者の技じゃないでしょう!
慶次様と宗厳様も挑戦したけど成功しなかった。
私なんて立つだけで精一杯だったぞ。
信長ちゃんはダントツの1位を独走し、私は何とか落水せずに2位をキープ、藤八と弥三郎は落水競争で最下位を争っている。
でも、藤八だけは上級者が使うショートボードを使っている。
「藤八、ショートボードは上級者用で扱いが難しいわよ」
「これが可愛いくでいいのです」
「藤八、いいならいいけど?」
「マイボードなのです」
嬉しそうに頬すりしていた。
みんな、楽しそうで私も嬉しい。
そして、ふんどし一丁だ。
ふふふ、美しい姿の見放題だよ。
ヨットを返す瞬間、慶次様と宗厳様が目と目でタイミングを語り合う。
おぉぉぉ、何と言う芸術!
ぐふふふ、慶次様と宗厳様と私のシンクロ率の勝利だよ。
“慶次、いくぞ”
“宗厳、大丈夫だ”
ザ・ワールド。
わちゃ、あぶぶぶぅぅぅぅ!
油断大敵、落水した。
「おい、余計な事を考えていただろう」
「ごめん」
「たくっ、しっかりしてくれ!」
「信長様に追いつくぞ」
「うん、ガンバぁ!」
まぁ、これもありと言う事で!
◇◇◇
出港までには苦難の日々があったのです。
その最大の障害が
「お願いや、連れていってなぁ~!」
尾張に帰ってくるなり、おねだり攻撃ですか!
恥も外聞もありません。
焼酎を取るか、南国ツアーを取るかと二者択一にしたら、あっさり酒を取ってくれた。
勝ったと思ったのよ。
しかし、荷止めされているので合法的に京に
転移を使えば楽に運べますが、それではどうやって運んだのかの説明が付かなくなります。
酒の辻褄合わせに練習艦4隻で船団を組んで堺に向かう羽目に…………!?
騙された!
言継のおっさん、これを狙って駄々を捏ねたのね。
最初から付いて行くつもりはなかったのよ。
航海中に織田で動乱が起こるのは必至です。
織田が勝っても負けても宮中は何からの対応を追われます。
行ける訳ないじゃん。
それを見越して言継のおっさんは宮中の多数派工作を引き受けていますよ。
平手のじいさんを口説いて、きっちり5,000貫文をせしめていたりしてます。
糞ぉ、騙された。
「これで宮中における織田の覚えは目出度いで!」
「酷いよ!」
「ははは、許してな! 行きたいのはほんまやで、今回は時期が悪いだけや! 宮仕えなんてするもんやあらへんな!」
「きっちりと焼酎を売って来てよ」
「まかしとき、ぎょうざん売ったるで!」
熱田と津島の衆が大喜びです。
新たな尾張の特産物を畿内で売るチャンスです。
さらに、ダブついている荷を一気に堺で売れる事ができます。
帰りは堺の珍しい商品と西国の米を買って帰る事もできるのよ。
言継のおっさん、熱田と津島の衆からも献金を頂いている当たりが強かですね。
こっちも尾張産の焼酎を京で売らせて貰いますから
元売りの窓口が言継のおっさんです。
屋敷の横に貯蔵蔵も作らせて貰っています。
明日から京で一番の金持ちの公家ですね。
もうすぐ、最初に植えたアマゾンのサツマイモが収穫期を迎えますから、サツマイモも蔵に入り切れないほど収穫された。
シドニーの小麦・大麦も大量に収穫済みだよ。
新酒なら1ヶ月で製造可能です。
今度は弾が尽きる心配はありません。
じゃんじゃん売ってくれたまえ!
4ヶ月後には、新酒のワインと清酒もできてきますよ。
熱田と津島の酒蔵は大忙しです。
わははは、酒と言えば、『尾張』、灘の称号を尾張の称号に変えてやるぜ!
さて、作った『天上の焼酎』は7,200ℓ、一斗樽で400樽です。
(他にも寄付してくれた城主や寺社にみなさんの分も作りましたよ。約束していましたからね!)
これは言継のおっさんが交渉で得た倉の焼酎をすべて『天上の焼酎』に変えた割り当て分です。
それをどう使うかは知りませんし、知りたくもありません。
特別に帝に献上する品は、『風神・雷神』のガラスボトルに麦・芋の焼酎を詰めておきました。
その小さな献上品を見てがっかりする公家衆がいたとか!
その後に持ち込まれた2つの一斗樽を見て大いに湧いたらしい。
何より喜んだのが、その献上酒の目録です。
尾張守護の斯波義統から守護代、奉行、城主、各寺々の寄付で造られているのです。
思わず、目頭を押さえたと聞きます。
「尾張は不穏な空気に包まれていると聞くが違ったのか?」
「お上、残念やけど大きな戦が起こりまっせ。でも、ご安心してや! どちらが勝とうが、帝への忠誠は揺るへん。心配いりまへんわ」
「そうであるか」
言継のおっさんは織田弾正忠信秀が勝てば、『
◇◇◇
【
言継が宮中の御殿回廊を歩いていると、それを追い駆ける公家がいました。
「これは、これは、権大納言様やありまへんか」
「内蔵頭殿、
「美味かったやろぉ!」
「あれは体に毒ですわ。呑みはじめたら止まりへん」
「ははは、そうでっしゃろ!」
そう公家衆が皆、酔い潰れてしまったのです。
帝まで檀上を降りて舞いを披露しました。
天魔波旬が心をたぶらしたのでしょう。
皆、そう、あれは幻に違いないと思うことにしたのです。
従二位権大納言
「で、どちらは勝つと思うとります」
「そらぁ、弾正忠はんやな」
「今川、北畠、土岐の方がぎょうさんおると聞かはりますえ」
「ちゃうちゃう、数の差やあらへん。弾正忠はんとこは、10年は先を行ってるんや」
「10年どすか?」
権大納言は少し考えます。
そして、扇を取って口を隠して、もう一度聞きました。
「ほんまのとこ、どうどすか?」
「ないしょやで!」
「承知してます」
「尾張の鬼、あれは鬼やあらへん。ほんまもんの天女や! 天女がついとる織田が万に一も負ける事はあらへん。織田に乗らんと、帝と公家もふっとんでしますで!」
権大納言も余りの返答に目を点にします。
しかし、言継の目がまっすぐに権大納言を見つめています。
とても冗談を言ったように見えません。
「ほんまどすか?」
「あぁ~度肝を抜かれたわ。そらぁ、天照大神が降臨したくらい、びっくりしたわ!」
「いけずやな、大神はおおげさでしゃろ」
「わて、嘘言うってどないなる」
「ほんまですか?」
「ほんとや!」
「はぁ~~~~! 困りましたな」
権大納言は大きなため息を吐きます。
聞かない方がどれくらい幸せだったのでしょうか?
帝に関わる事です。
見過ごせません。
「わてとこきて、お茶でもしばきはりますか(お茶でも呑みにきますか?)」
「しゃぁないなぁ~! 付き合うたるわ」
言継は権大納言を引き込む事に成功したのです。
この調子でどんどん行ってほしいね。
特に織田嫌いの先鋒になる従二位の准大臣
まだ、10歳だから出仕前くらいか!
足利義輝の従兄弟という事からか、ここからぐっと伸びて関白まで昇る人だ!
でも、長島と喧嘩をしているから無理かな?
関白を解任された時に逃げたのが本願寺なんだよね。
いつ石山本願寺と繋がるのかな?
ともかく、関白の職にありながら越後に下向し、長尾景虎の関東平定を助けるために上野・下総に赴くなど、公家らしからぬ行動力をみせる人だ。
言継と双璧を為す、やんちゃな公家を放置すると碌な事にならないと思うんだよ。
言継のおっさん、よろしくね!
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