第11話 天地創造の事。

私は帰ってきた。


3時間前から!


両手を上げて、オーストラリアの大地を踏みしめて言った。


「ここも志土仁しどにかいな?」

「同じオーストラリアだけど、シドニーじゃないよ」

「じゃあ、ここはどこやねん」

「シドニーの北254里(1000km)よ」

「っていうか! 何で付いて来ているんですか?」

「食事の時におもろそうな話しといて、仲間外れはないやろ」

「まぁ、そうですけど」


山科 言継やましな ときつぐのおっさんがどこでもついてくるな。


まぁ、それはいい。


オーストラリアの東海岸が豊かなのは、グレートディバイディング山脈が南北を縦断しているからです。

海からの水分を含んだ雲が雨となって、東海岸を緑溢れる大地にしているのです。


逆に内陸部に雨が少なくなる原因でもあります。


内陸に大鑽井盆地だいさんせいぼんちという中央低地がありますが、エーア湖やレンズ湖といった乾季には干上がってしまう湖水があるだけです。


つまり、水が足りないのです。


水が足りないので、三つのしもべならぬ、三つの砂漠が生まれています。


グレートディバイディング山脈でも標高が低そうなプリズベンの北辺りを削って、海からの水路を大鑽井盆地まで掘ってしまおうというのが私の計画です。


「じゃぁ、行きます」


地上の生命体を転移で移動させると、地表はそのまま収納庫にしまってゆきます。


AIちゃん、じゃんじゃんいくよ。


“おまかせ下さい”


山脈もV字で切り取ります。


標高1,000mは超えている山脈に大きな谷が生まれてゆくのです。


「めちゃくちゃや!」


境界面の凝縮固形化を忘れてないわよね。


“もちろん完璧です”


切断面は硬化して塩害なんて出ないようにしないとね!


「凄いのです。穴がどんどん迫ってくるのです」

「しかも大きいです」

「転移の連続で目がチカチカするわよ」

「座ってお茶でもするか」

「それいいね」

「拙者もお願いします」

「こんな光景を見逃したら損やで!」


見る見る内に穴が生まれ、幅5km、深さ500mの運河が次第に延びてゆくのです。


私はオーストラリア大陸を縦横断する運河とイースト湖とウエスト湖を設計をし、AIちゃんが合理的なコースを選択して作っていってくれるのよ。


お気軽簡単な運河作り!


私の能力に半径5kmの制限がなければ、AIちゃんに丸投げできるのにね。

私が現地に行かないと能力が使えないのは欠点と言ってもいいわ。


「お茶ができたわよ」

「忍様、今、何をなさっているのですか?」

「あぁ、このオーストラリア大陸に巨大な海水湖を2つ作ろうと思っているのよ」

「山がのおなってゆくやんけ。深っかい谷になってゆくな」

「オーストラリア大陸は広いからまだまだ時間が掛かるのよ」

「ですから、忍様は何をされているのですか?」

「だから、この大陸を」

「そう意味ではなく、先ほどから動き難いのですが…………」

「最近、信長ちゃんが忙しいでしょう」

「そうですね」

「信長ちゃん成分を補給しているのよ」


私はずっと信長ちゃんを抱き枕のように抱きしめてしゃべっている。


誰もそれを止めることもない。


みんな、判っている!


みんな絨毯の上でテーブルを囲んでお茶しているけど、連続転移で20秒毎に3kmほど移動している。時速にすると600km程度だよ。


グレートディバイディング山脈を越える辺りが大興奮だった。

1,000~2,000mの山が深い谷へと変貌してゆくのは判り易い。


V字の谷が山を削ったと実感させられる。


平原に出ると山科卿も景色も見飽きたようですが、あの二人はそうでもない。


「カンガルなのです」

「美味しかった」

「また、食べたいのです」

「行ってしまいました」


カンガルーがいなくなったのではなく、私達が移動したんだ。


遠目で動物を探して、何かと楽しんでいる。


子供は凄い。


千代女ちゃんは我慢できなくなった。


「トランプでもしようか」

「は~いです」

「やります」

「忍、トランプを出して!」

「判った」

「何をやりますか」

「慶次もやらない」

「俺は寝ておく」

「公家のおっさんは必要ないか」


言継のおっさんは何か懐から取り出して、書き記しているので忙しそうだ。


 ◇◇◇


オーストラリアは縦に3700km、横に5000kmもあり、運河を作るだけでも1週間は掛かる。さらにマクダネル山脈を挟んて南北に600km、東西300kmのイースト湖とウエスト湖を作り出す。


よく判らないけど、AIちゃんが気分良さげだ。


“見よ! 我が力を”


作業最適性のモバイルなんて搭載していたかな?


“我が主よ! 必ず今日中で終わらせてみせますぞ”


えっ?

そんなの無理よね。

疑似精霊がAIちゃんを乗っ取ってないよね。


転移時間が半分になった。


どうしたらそんな事ができるの?


“既存の精霊にアクセスし、同一作業の作業効率アップ。土の精霊にアクセス成功、モデリングの作業効率を300倍アップに成功。水の精霊のアクセス成功。水分除去による固形化の作業効率500倍に成功。光・闇・風の精霊にアクセス成功。索敵効率100倍に成功”


既存の精霊って、何?


う~~~ん、考えないようにしよう。


 ◇◇◇


パカパッパカパッパカパッ!


AIちゃん、一晩でやっちゃいました。


「落成式です」


最後の海と運河を繋ぐ部分を転移で外すと、ずおぉぉぉっと水が一斉に流れ込みます。


もう、迫力満点!


「海が割れてゆくみたいなのです」

「ずずずっと、響いてきます」

「風もぶぉぉぉうなのです」

「地面もずずずです」


それはもう濁流となってすべてを押し流すような感じで、奥へ、奥へと流れてゆきます。


後、4カ所の落成式を回らねば!


運河は東、北、西に一箇所ずつ、南に2カ所と5カ所が海と繋がります。


南側にある湖と海を結ぶ水路は、運河と言うより入り江です。

幅が20kmもあり、対岸が霞んで見えるのです。


でも、入江にしては細長過ぎますか!?


こうしてオーストラリアは5つのブロックに分かれたのです。


「凄いのは判ったけど、これでどうなるの?」

「ふ、ふ、ふ、聞いて驚け! シドニーと同じような豊かな土地が、あと数百カ所も生まれるのよ」

「なぁ、なんやて! あと数百カ所もできるんかい」

「そうよ! 凄いでしょう」

「で、いつできるの?」

「雨が降って、木々が育って土地が肥えるまでだから100年くらい先かな」

「…………」

「馬鹿じゃない! 私達、生きてないじゃないのぉ」

「そうだけど、将来を考えると必要でしょう」

「忍様は素晴らしい。織田家の子々孫々までお考えなのですね。ありがとうございます」

「あははは、そうなのよ」

「忍様は凄いのです」

「最高なのです」


千代女と慶次様がじっと見ている。

たらりと冷や汗が流れる。


思い付いた時はいい案だと思ったのよ。


よく考えて見れば、近々の問題じゃないわ。


「信長様、忍は……『ちょっと、待った』」


千代女ちゃんが真実をしゃべる前に割って入った。


「まだ、これで終わりじゃないから」


 ◇◇◇


そう、本当に終わりでない。


紀伊半島の先、紀伊大島から南東の100kmほど沖に出た場所だ。


今度は小さな船の上だ。


伊豆諸島から西に200kmほど離れた場所は海底も深く、火山の活動も大人しい場所だ。


海底3,000m級のピラミッド状にオーストラリアで回収したブロックを敷き付めてゆく。


AIちゃん、やっちゃえ!


“YES、マイ、ロード”


収納庫から出した船の上で待つ事、10分。

うっすらと海底に何かが盛り上がってくるのが映ってくる。


そして、浮上だ。


処理能力を飛躍的にアップしたAIちゃんが、次々とブロックを積み上げてゆき、直径50kmの円錐台の島が1時間ほどで露わになってゆく。


海面上に姿を出すのは直径40kmの島が誕生する。

敷地面積は1,200平方kmはある。


外周部には切り立った標高500mの山で覆われ、すり鉢状になった底辺部に砂を置いて地下ダムを作った上に地上部の土を乗せる。


地表はオーストラリアの土などを敷き詰めてゆく。


外周を除く緑化部は、1,000平方kmくらいになる。


10平方キロメートル = 1,000町=1,000たん = 1万石

広さだけなら100万石相当分に当たる。


島の平均標高は150mくらいにして、南側の一番高い所に湖を作る。


この湖が外周の山岳部に降った雨を外側から内側に回収する湖だ。


さらに南から北にゆっくり傾斜させて、林界部を作ってゆく。


オーストラリアの樹木をここに植えてゆく訳だ。


気候が違うけど根付いてくれると嬉しいね。


外周山脈に降った雨は砂層水路を通って湖に流れるように作っておく。


全部を南側に集めるのは無理っぽいから南側以外は数か所に分散しておく。


増水で氾濫などしないように川もしっかりと作っておいた。


この島の内側は大きなすり鉢状の地下ダムなんだよね。


つまり、島全体が貯水庫になっている。


居住区と耕作区は北側に集約する。


標高50mくらいにして、津波に備える。


平野部は東西南北に10kmに広がっている。


最後に湾に日本式の城と港を整備して完成だ。


円状の湾は津波対策もばっちりだ。


「は、は、は、どうだ!」

「で、誰が住むの?」

「…………」

「千代女ちゃん、いる?」

「ほらぁ、やっぱり何も考えてなかった!」


思い付いた時は、いいアイデアと思ったのよ。


オーストラリアを活性化して、太平洋に拠点となる島を作る。


一石二鳥だと思ったのよ。


「こらぁ凄いわ!伊邪那岐命と伊邪那美命が天の浮き橋から天沼矛で海をかき回し、国産みや。よう判ったわ。古文書は正しかったんや!」

「こうやって、日の本は作られたのですね」

「忍様は凄いです」


言継のおっさんや藤八、弥三郎みたいに素直に喜んでくれると思っていたよ。


千代女ちゃんの視線が痛い。


「それで、誰がここを管理するのぉ? 放置したら、それこそ誰かよそ者がここに根付くよ」

「信濃から来てくれる人をここに」

「うん、それがいいね。でも、まだ3ヶ月くらい先よ。移動手段はどうするのぉ。まさか、全部、忍の転移とか言う訳にいかないわよね」

「南蛮船を10隻提供します」

「佐治さんの話だと、水夫が使いモノになるのに早くても1ヶ月は掛かるし、一人前に仕込むのに1年は掛かるって言っていたわよ。航海士や船長を育てるにはさらに3年は掛かるって! その間どうするつもり?」


なんか、説教を受けている気がします。

どうしてこうなったのでしょうか。


「信長ちゃん、誰か欲しがる人はいる?」

「南蛮船が何とかなればいると思いますが、南国の孤島を貰って喜ぶかと言えば、難しいかと」


うん、よく考えると嬉しくないね。

船がないと島流しと同じだ。


「千代女ちゃん」

「判ったわよ。何とかする」

「お願いします」


あれ、どうして私が頭を下げているの。


おかしいな?

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