第73話
月曜日にアップルパイを作って彼に渡すと美味しそうに食べるのであった。彼は『生きていて良かった』と誉めてくれる。わたしは彼の反応に安堵するのであった。
でも……。
何だろう?この胸騒ぎは……。わたしは午後の授業の後、お屋敷に戻ると自室のベッドに横になり。天井ばかり見ている。
「恋菜様、夕食の準備ができました」
夏がノックをして入ってくる。
「えぇ、今、行くわ」
返事を返してベッドから起き上がる。ツンと何かが匂う。なんの匂いだろう?
香水でもなく薬品のような匂いがした。わたしは胸騒ぎを抑えて大きなテーブルの椅子に座る。
「恋菜さん、あなた好きな人ができたのね」
向かい座っている姉の愛菜が声をかけてくる。わたしは彼の事を話すか迷ったが、きっとアップルパイを作っているところを見られたに違いない。そう、彼の事は記憶を失っている。
「はい、大好きな人がいるわ」
わたしはこれが胸騒ぎの元凶だと確信する。
「わたしにその大好きな人を会わせる気持ちはあって?」
「近いうちにお屋敷に呼ぶわ」
大丈夫、大丈夫と心の中で呟きながら、わたしは記憶が姉と彼は無いと言い聞かせていた。それでも、不安だけが支配していた。
「愛菜様、恋菜はお疲れの様子です。お話はこれくらいで……」
夏が助け舟を出してくれる。
「少し疲れいるの、自室で休むわ」
わたしはそう言うと、夕食もそこそこに自室に戻る。彼がまた姉を選んだら……。そんな思いが現実味を帯びていた。
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