第72話

 昼休みに彼はご飯にふりかけとゆで卵だけのお弁当を持ってきていた。 あきらかに彼の手作りだ。 高校生の手作りなどそんな物かもしれない。 彼は誰よりも早く食べ終わり携帯を触っている。 わたしはそんな彼に合わせてお弁当を食べ終わる。 そして彼との雑談をするのであった。 彼は半年前にこの街に戻ってきたらしい。 理由は父親が再婚相手と離婚したとのこと。 記憶が消えた彼と三日月の下で再会したわたしは運命を感じる。 わたしは彼にお弁当を作るかを提案するか悩んでいた。 しかし、このお弁当はメイドの夏が作ったものである。 わたしが作ったら茹で野菜が増えるくらいだ。 料理は苦手でもお菓子作りには自信がある。


「パンケーキなら作れるけど、食べる?」


 わたしの問いに嬉しそうにする彼は手作りに飢えているらしい。 しかし、パンケーキでは学校に持ってきたら冷めてしまう。 熱々のパンケーキにバターを乗せてとろけさせて食べて欲しいものだ。 わたしは考え直してラスクを勧めてみる。 彼は嬉しそうだがラスクなる物を知らなかった。 パンにお好みの甘いものを乗せて焼いたものだ。 わたしは説明せずに、明日持ってくると約束した。 恥ずかしそうにしているわたしは、彼の目には可愛く映っているらしい。 わたしは鏡を見ると恋する乙女に見えた。 我ながら素直な顔だと感心する。 翌朝にわたしは早起きをしてラスクを焼く特製チョコレートは秘密の味である。 そして、お昼休みに包みに入ったラスクを手渡す。 彼との特別な関係を求めているのははたから見てもバレバレだ。

彼は即座に包みを開けてラスクを口にする。 照れくさそうにする彼の心をつかんだ感じである。わたしは内心ガッツポースをする。 そう、わたしは不思議な気分でいた。 それは恋する少女である。


「もっと、他のお菓子も作れるの?」


 わたしは「はい」と即答した。 少し大変だがアップルパイを作るか提案する。

嬉しそうな彼はわたしの手作りお菓子に首ったけであった。 わたしは日曜日の夜にアップルパイを作り月曜日に渡すことを約束する 空を見上げると月が輝いていた。

少しの時の流れで変化する月はわたしの心を表しているようであった。

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